2015年度総括イベント・パネルディスカッション

いくつになっても、いきいきと暮らせるまちをつくる

開催日:2016年 2月 18日(木)
会 場:日経ホール(東京・大手町)
来場者数:460名
パネリスト:
  ねじめ 正一 氏(作家・詩人)
  上野 千鶴子 氏(立命館大学特別招聘教授/東京大学名誉教授)
  牧野 益巳 氏(日本マイクロソフト株式会社 会長室業務執行役員)
  堀田 聰子 氏(国際医療福祉大学大学院教授)
モデレーター
  嵯峨 生馬 (NPO法人サービスグラント代表理事)

「東京ホームタウンプロジェクト」の2015年度の取り組みを締めくくる総括イベントでは、来るべき超高齢社会・東京に向けて、多様な主体の参画による地域づくり・社会の仕組みづくりをテーマに活発な議論が展開されました。4人のパネリストによる示唆に富んだ発言が飛び交ったディスカッションの様子をダイジェストでお届けします。

自分が思うような生き方を、どこで実現するか?

―― 団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護のニーズが逼迫する状況、これを「2025年問題」と呼んでいます。これから向こう10年間、東京をはじめとする大都市部は、急速な高齢化という大きな課題を抱えています。この課題や背景についての認識共有から入っていきたいと思います。

panel_top2堀田氏:年齢階級別の人口の推移を見ると、全国的には85歳以上がぐっと伸びていきます。複数の病気や障害とつきあい、介護や医療等のサービスを使いながら暮らす方々が増えることを意味しています。そして死亡者数のピークは2040年と予測されています。

どこで人生の最期の時を迎えたいかと尋ねると、自宅やなじみある地域でという希望が多いですが、実際の死亡場所は、8割が医療機関。家で亡くなる人は10数%ぐらいです。自分が思うような生き方、納得できる生き切り方をどう実現するかということは、私たちすべてにとってチャレンジです。 

上野氏:「年寄りは田舎に行こう!」と言われています。ですが、今の年寄りは田舎がイヤで出てきた人も多いのではないでしょうか。私は、年寄りが都会で生きていくメリットは非常に大きいと思っています。理由はいくつもあります。雇用者比率が高く、年金でそれなりの生活ができること。持ち家率が高いこと、婚姻率が高く、婚姻の安定性が高いこと。さらに、首都圏でも空き家率が11%と高いこと。これまでの高齢者とこれからの高齢者は非常に違います。

高齢者は、フローもストックもあり、かつ、暮らしを支える医療、看護、介護、支援の選択肢が地方よりはるかにある。移動コストがかからない。そういう意味では、都市の高齢者の方がいろいろな意味で有利な環境にあります。

 

高齢者の暮らしを、地域やNPOがいかに支えるか?

―― 都会で、在宅で、お母様の介護を経験されたねじめ先生にお聞きしたいと思います。 

panel_mrNejime1ねじめ氏:自分自身が67歳になりました。弟が同居、私がよそから通っていましたが、10年ぐらい前におふくろに右手右足のマヒが始まったようで心配になって弟にいろいろ言ったら、大ゲンカになりました。「よそ者の兄が急にやってきて何を言っているんだ」と。まず、そこで弟やその家族との確執が始まりました。俺の言うことは全部正論に聞こえるらしくて、本当に嫌そうでした。

介護というのは、家族とのぶつかりがこんなに激しいものかと感じました。だんだんモノが言えなくなっていくんです。そうしているうちにおふくろはだんだん悪くなっていく。そのうち、突然、認知症が現れました。

堀田氏:日本とオランダで、中重度の認知症で一人暮らしの方が、自分と周囲でどのように役割分担して過ごしていらっしゃるかの調査をしたところ、日本は、多くの場合に家族関係がどこか壊れてしまっていました。オランダではそれはありませんでした。国際比較調査では、日本では、親の介護が必要になったらちゃんと見たいという割合が、オランダや北欧等より高いといわれます。子・家族として介護しなければという規範意識が高いからこそ、家族同士がぶつかるのかもしれません。オランダは18歳で親元を離れて自立する子も多く、親の面倒を子がみなければという義務感は高くない。でもその分、別居しても行き来しながら壊れることなく、大人の関係で人生の最終章まで対話と交流が続くのではないかといわれたことがありました。

―― 介護を家族だけが背負わないようにするためにも、NPOや地域活動団体の活動があると思います。実際のところ、ねじめ先生ご自身は、地域やNPOとの関わりはお持ちですか?

ねじめ氏:物書きと同時にねじめ民芸店というお店をやっていますが、買い物をした後に、「私、どこに帰ればいいのかしら」という人が、ここ4~5年で増えてきました。どう対応していいのか。お巡りさんに頼んだりするんですが、そういう時、NPOの人がいて、対応の仕方を教えていただけたらと思うことがあります。でも、正直なところ、NPOの存在については、まだちょっと遠いかなという感じが私にはあります。これから商店街では、そういうお客様が増えてくると思います。商店街で小冊子などを作ってお客様の対応などちゃんとやっていかないとダメかなとも思います。

上野氏:私、「地域」ってキライなんです。東京の人はそうつながりを深くしすぎない傾向があると思うので、お勧めしたい言葉が、選び合う縁(えにし)で「選択縁」。近くにいるからではなく、趣味や志によるつながりのことです。絆は縛るもの、縁は結んだりほどいたりできるもの。そういうゆるやかなつながりがいくつもあって、人とのつながりと支え合いができれば、「地域」と言わなくてもいいのではないでしょうか。

堀田氏:国内外各地で、認知症に優しいまちづくりが始まっています。日本の認知症サポーターも世界的に知られていますが、最近新たに注目を集めているのが、英国の認知症行動連盟(ディメンシア・アクション・アライアンス)と呼ばれる取り組みです。地域の認知症の人とその家族の暮らしのなかでの経験をもとに、何がクリアできればその地域で認知症とともによりよく生きていけるのかを探り、具体的な目標を設定します。その「志」を共有する人たちが認知症の人を中心にアライアンスに参加して、それぞれアクションプランを立てて推進します。認知症の人を中心に、行政、企業、NPO、さまざまな主体が、一つの「目標共同体」を形成するわけですね。

 

超高齢社会において、企業に期待される使命とは何か?

――「選択縁」「目標共同体」いろいろなキーワードをいただきました。こうした中、企業は、地域福祉にどのように関わるか、牧野さんいかがでしょうか。

panel_mrMakino1牧野氏:まず東京という地域の可能性から考えてみましょう。第一に東京は企業活動が盛んで人口が集中している、集積度が高い地域で、人・モノ・カネ・情報が集まりやすい特徴を持っています。全国で働く人の2割弱の人が東京都で働き、全国の事業所のおよそ1割が東京都にあります。集積度が高いため、異業種や異なるセクター間での交流や、新しいアイデアや活動、商品やサービス等が生まれやすいという環境にあります。

第二に、稼ぐ力、財政力のある自治体であることが挙げられます。これは、高齢化社会に向けての準備に財政力を活かし、健康・医療・福祉のまちづくりの推進と、企業やNPOの誘致が可能です。

そして第三には、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催を控えており、社会インフラの整備が進み、地域の活性化や安心安全なまちづくりに繋がる可能性があるという点があります。こうした中で、企業がどう地域福祉に役に立つかですが、大企業になるほど地域課題との距離感があると感じます。経営会議でも地域医療や福祉という話題は出てきません。社員も社内目線しか持っていないので、社会課題とビジネスを結びつけると言われてもよくわからない。高齢化というテーマは、社員の福利厚生の延長だったり、CSRとして取り組むものという認識なんですね。

しかしこれからは、高齢者向けの商品やサービスなど、ソーシャルビジネスや社会起業家と連携して、高齢化社会をマネタイズし、新しいビジネスモデルをつくる知恵が出てこないといけないと思います。そういうシナリオを作れるような人材を企業の中に育てていかないといけないと思っています。また、NPOをはじめとするステークホルダーとの連携を、CSR部門に任せてしまわず、経営として考えていかないといけません。中堅中小企業や地元金融機関は地域社会と密接不可分なので、経営者が自ら地域のリーダーになって、顔が見える活動をしているところが多いですね。大企業はもっと力を入れるべきだと思っています。

上野氏:企業には大きな使命があると思います。

ひとつは、関係の作り方。企業には、金とコストによる指揮命令系統がある。NPOはそれでは動かせない。NPOほど人を動かすことが難しいところはないんです。企業人の方たちは、プロボノなどを通じてNPOに関わられた時に学んだことを、企業に環流してもらいたい。企業とNPOや地域団体との人材の行き来が大事です。

ふたつめは、定年になった方たちに、いかに地域や社会へソフトランディングしていただくかです。これは、企業の“製造物責任”です。地域との連携は必要性が高いですね。 

牧野氏:上野さんのおっしゃる通りです。特に男性は定年後、なかなか地域の場に出ていけない人が多いです。ボランティア活動でも、会社組織のような指揮命令系統や大儀名文を用意しないとなかなか動かないのが男性の特徴のようです。

地域住民の健康情報の電子化に取り組むある大学の先生のお話を伺ったことがあるのですが、その地域では多くの男性が生き生きとボランティアに参加されているそうなのです。その取り組みでは、数万人の健康情報データベースを構築するという目標を設定し、運動能力の測定のやり方を指導する役割を任せるという、数値目標を好み、指導者の立場を求めるといういかにも会社人間的な性質を利用して、男性を上手に引っ張り出すことに成功していました。会社のヒエラルキーの中でのスキルと、地域で活躍するためのスキルをマッチさせるには工夫が必要ということのひとつの表れではないでしょうか。

そういった意味では、プロボノでは企業人が学ぶことの方が多いと思いますよ。

上野氏:その通りだと思います。NPOや地域は、お金で人を動かすということができないので、やっていることの魅力と人間関係の楽しさだけで人を動かすことを、学ばなければなりません。

そして、それを支えてきた人はほとんど女性。一方、NPOの代表は9割以上が男性です。理事長とか理事会とか、組織を作る時は、がぜん男性が元気になるという困ったところがあります。

こういう選択縁の関係において、人を何の魅力で動かすか、人のつながりをどうやって作るかを、男性はスキルとして身につけておくべきだと思います。超高齢化社会という時代において、人生は想像より長くなっていますから。

 

来るべき超高齢社会に向けて、いまできることは何か

牧野氏:少し視点を変えて申し上げると、東京都さんが2025年問題でロードマップを作ったりしていますが、互助という点でもうちょっと力強い体制づくりがあったらいいと感じています。大企業への啓発や、分かりやすいインセンティブ、NPOに対してのサポートなどです。そして、大企業は、どう高齢化社会をマネタイズしていくかを真剣に考えていくべきですし、地域に入って活躍されている皆さん対しては、地域づくりは人づくりですから、リーダーを育成していくことが大事な部分だと思いました。

panel_MsHotta1堀田氏:共有された理念のもとで、それぞれの役割が柔軟にシフト・分担されていくのがNPOや地域活動団体の強みのひとつだと感じています。他方、変わりゆく社会のなかで、ビジョンやそれを実現するための戦略は常に進化の余地があり、また持続可能なものにするためのたゆまぬ努力も必要なのだと思います。固定したメンバーでやっていると滞ってしまうこともあるでしょうから、そこに企業を含め、異なる文脈、よそ者の風が吹き込むことは重要です。「私たちはなぜこれをやっているの?」「なぜいつもどおりにやっているの?」といった、シンプルな問いが沸き上がるきっかけにもなるからです。

個人も同様です。「住み慣れた地域で自分らしく」などと言われますが、自分らしさって何なのでしょうか。変わりゆくもの、もちろん正解もないものです。時々立ち止まってこの先の見通しを考えて、大切な人たちと話してみる。そして会場のなかに、ケアの仕事に就いておられる方がいらしたら、この終わりのない問い、変わりゆく「本人にとっての最善」を本人とともに問い続けていっていただきたいと思います。

ねじめ氏:ずっと考えてたんですけど・・・、上野さんが書いた「おひとりさま」の本に書かれていたことは、もっとじっくり検証したほうがよいのではないかと思ってるんですよ。ただ面白がるんじゃなくて。あそこには役に立つことも、しっかり議論したほうがいいところも、たくさんあるんじゃないかと。

―― たしかに、上野先生の本には、いくつも興味深いところがあります。そこで書かれていることを実現するにはどうしたらいいだろうか、と思うこともあります。じっくり吟味して、議論すべきような、数多くのヒントがあると思います。

panel_MsUeno1上野氏:最後にふたつ申し上げたいのですが、ひとつは、プロボノとNPO、職場と地域の二足のわらじは、ずっと早い時期からどなたもお持ちになる方がいいと思います。そのためには、燃え尽きるまで働かせる日本企業のありかたは問題でしょう。早い時期から職場と地域のバイリンガルで生きるのはとっても大事だと思います。

ふたつめは、NPOの世代交代の課題はとっても大きいという点です。次の世代がなかなか出てこないのは、金にならない仕事をやっている団体の共通の課題。私もNPOの理事長などをやっているので悩みは共有しています。そうした中、第一部で事例発表のあった「要町あさやけ子ども食堂」(豊島区)が、子どもに目を付けたのはえらいなと思います。いまの子どもは居場所がないのです。学校でも監視され、家庭でも管理され、行き場のない子どもに、子どもの“赤ちょうちん”が必要なんです。そこのホスト、ホステスをやっておられるわけですよね。子どもが来ると親が来て、子どもの親は若いので、そこに祖父母の年代の人がいて、多世代の交流できるのがすごく大事。施設はなんで年寄りばっかり集まって暮らさないといけないのか、納得いきません。地域は多世代の多様な人の暮らしがあって当たり前。世代交代の可能性が高いところで、多世代型の展開があるといいなと思います。

▼ご案内:パネルディスカッションの内容全編を動画でご覧いただけます。長編ですが、ユーモアに満ちたやり取りの中に示唆に富んだ言葉が多数飛び交います。ぜひご高覧ください。


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