「こまじいのうち」を形づくる “ゆるやかさ”とつながり

広石)東京の中でも都市部に近い文京区には歴史の古い町が多く、東京のなかでも郊外部とはまた雰囲気が異なります。「こまじいのうち」をよく見ていくと、温かいながらも実はちょっと都会的な交流の場になっている事に気づきます。来る人はそれぞれ自分の好きな事をやっていて、互いに干渉しすぎない。
少し来る時間が重なる事が続くうち、自然に互いに顔見知りになって…と、些細な事をきっかけにして、少しずつ交流が深まっていくという新しいスタイルが出来上がっています。

でも、この『地域づくりの台本』に書いてあるとおり、実は初めは「多世代交流」という形はできていなかった。プログラムの種類が増えたり、減らした時もあったり、試行錯誤のなかでの一つずつの積み重ねが順番に広がっていくことで、活動の幅や人の輪が広がり、自然に「多世代交流」が出来てくるようになっていった。そのプロセスの中にあるものを、これを読みながら感じ取っていってもらいたいと思います。

坂倉)「こまじいのうち」の成功要素の一つに、この場をけん引している代表的な人物が少なくとも3人居た事、誰かが特定のリーダーではない「スノーフレーク型コミュニティ」になっている事があると思います。福祉側の人、町会側の人、多様な人がそれぞれのネットワークを活用する事で、いろんな方向に自然に広がる。自分とは違う人、ネットワークが重ならない人と一緒にやる、というのは実践の中で参考にできるところです。

もう一つには、色んなプログラムをまず、やってみるという事。立ち上げに携わった社協の浦田さんのインタビューのなかに「多世代妄想」という言葉が出てきています。“たまたま”“意図せず”別々の目的の人が来る。5年間やっているうちに混ぜ込まれて多世代の状況になっている。日々の運営の中での工夫もありますが、そういった“徹底してちゃんとしない”みたいな所なども、ひとつの規範として読み解いていきたい部分だと思います。

広石)同じ文京区の「さきちゃんち」も、「こまじいのうち」ができたことで地域の人たちがイメージを持てたからこそできた地域の人々のための居場所です。地域のために、町会に係わる人たちにもこういったものを見てもらって、エンパワーされていくといいなと思います。

浅川)ここには「こまぴよのおうち」という地域の子育て支援拠点(文京区の地域子育て支援拠点事業)が併設されていて、こまぴよの利用者がこまじいの方でお茶するなど、双方の利用者が混ざり合っている。こういった「ごちゃまぜ」の姿勢が多世代交流の場として成功する大きな要因になっていると思います。

「空き家の活用」として多世代交流の拠点づくりを行うというのは、都心だけでなく全国的にも大きな可能性がある。その為には、空き家をどのように地域の拠点として取り込んでいくか、「こまじいのうち」はその一つの成功事例でもあります。

多様な利用者にとって居心地よい空間を作る、
 「また明日」の関わり方

浅川)「また明日」は、介護保険の認知症デイサービスと小金井市の独自保育所、それに誰でも来ていい寄り合い所を一緒に広い空間で行っています。その空間は、2階建てアパートの5部屋をぶち抜いたというユニークなもの。全国的に見ても稀有な事例です。各制度の運営基準はそれぞれのスペースで完結させるのが一般的で、異なる制度サービスの乗り入れは原則として認められない。だが、ここでは小金井市の「英断」で実現しました。
この施設では、立ち上げにはじまり、日々の運営にあたっても、様々なリスクを超えてすべての人にとって心地よい空間を作っていくための工夫がいたるところに詰まっている。
保育士、そして介護福祉士でもある代表の森田夫妻は、人生をかけてこの場所をつくっている。

広石)「また明日」にはマニュアルがないと言いますが、そのなかでやっているスタッフのちょっとした目配せや声がけ、特に注意して見ているポイント、ケアしている所、そこが大切だと思います。
効率でもない、ルールでもない、「何」を大切なものとして、スタッフとの間で共有しているのか、代表の森田さん夫妻が日々見ているものの中に「また明日」の重要な部分、運営のヒントがたくさん詰まっています。

坂倉)多世代交流をするための場所、だったり、そういったサービスを提供する場所、として考えるとテクニカルになるが、いろんな人が集まり、相互作用を通じていきいきとする、その現象が今回掘り下げていっている「居場所」だと思います。
運営をしていく中では、リスクヘッジといった事も必要ですが、外部リソースのコーディネート、内部変化のマネジメント、用意した空間・場所、そこに来た人、その関わり合いによる変化によって「場」は出来ていきます。
「また明日」では、スタッフ自身のなかで、行動規範をしっかりと育て上げようとしている。そういった基盤があったうえで、赤ちゃんからお年寄りまで多様な人々が出入りしている。
例えば、来た人が、生きている実感を得られたというプロセス。訪れた人の主観的な体験だけでなく、来ることで健康状態がよくなった、といった評価の視点、そういったものに敏感にならなければならない。そういった事を代表の森田さんがどのように感じ、スタッフと共有しているのか、そういったものも参考にしたい点です。

全体を振り返って

広石)今回取り上げた3つの場それぞれで「多世代交流」という言葉の意味や成り立ちは違いますが、普段別々にあるものの間の垣根がたまたま外れ、たまたま一緒になって…そういった感じで生まれていくものなのかもしれません。
「こまじいのうち」も違うプログラムの人たちがたまたま同じ場所に居た。「地域リビングプラスワン」ではリビングやキッチン、ごはんなどが様々な人を寄せ集めた。初めから全てごちゃ混ぜにしてスタートするのではなく、そういった事から自然に多世代交流は生まれてくる。その流れのようなものが見えてきました。

嵯峨)この3つの『地域の台本』を読んで、立ち上げや運営のコツがなんとなく分かる、という方も居るかもしれませんが、ぜひ、これを読むだけでなく、現場を見て、実感として深めていっていただきたいと思います。

坂倉)これを読むことによって、より知りたくなる部分もあるかと思いますが、団体の見えない部分に踏み込んだ、とても良い資料だと思います。

広石)よく地域活動をしている人は「最初から考えていた訳ではないが、結果として上手くいった」と話します。起業もそうですが、上手くいくかは偶然の積み重ねもあります。代表の人柄、行政の支援、幸運なタイミングなども影響します。ただし、どこかに成功か失敗かの分岐点が必ず隠されているはずです。こういったリアルなストーリーを読み込んでいくことで、「分岐点での選択の仕方」を学び取っていくことが大切だと思います。
関わった人たち自身が無自覚の場合も多いですが、本人が語るストーリー、それを第三者視点から見て、「何か他とは違う」「自分ならそうはしない」と感じるところ。そこが最大の学べるポイントです。

坂倉)居場所づくりは、ビオトープを作るようなもの。土を入れて水を入れて…面倒をみなければならないが、その土地に会わなければ無理という部分もあります。そして、目標は決して変えない事。実現することが居場所の哲学になるんです。
来ている人との関わりへの想い、それと併せて、上手く既存制度を使って成立させていくといった冷静な部分。実は、1人の人物の中で違うロジックの橋渡しが行われている場面があります。そこに着目して読んでみるのもいいかもしれません。

 


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