2025年の東京をつくる 東京ホームタウンSTORY

東京ホームタウン大学講義録

2020年代、超高齢社会を展望する
2019年度総括イベント「東京ホームタウン大学2020」
1限目 基調講義レポート

1限目 基調講義
田中 滋氏(埼玉県立大学理事長・慶應義塾大学名誉教授)
2020年5月26日

開催日:2020年 2月 20日(木)<br>会 場:東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール<br>登壇者:田中 滋氏(埼玉県立大学理事長・慶應義塾大学名誉教授)<br><br>●2・3限目 テーマ別分科会レポートはこちら<br>●4限目 トークセッションレポートはこちら

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2042年、1000万人の85歳人口を抱える日本

65歳~74歳は、先ほども言ったように、1964年の東京オリンピックの頃と比べ、2020年までに4.5倍くらいに増えていますが、そのあとは変わりません。75~84歳以上は、2025年までさらに200万人増えますが、そのあとは減ります。

ところが85歳以上人口だけは、1965年と比べて、今では25倍になり、2042年には40倍を超える見込みです。これは人類史上初めての画期的な伸びと言えます。

総数でいうと1000万人。デンマークやノルウェーの今の全人口の倍程度の数の85歳以上の人々が、この日本に存在する状態になります。この中の8割は女性です。

では、超高齢社会に備えて何をしなくてはならないか。

政策的には様々な準備をしているものの、介護保険給付サービスでは全部は支えきれません。身体介護や認知症の方へのユマニチュードケア、在宅医療における投薬や注射等、介護保険あるいは医療保険給付サービスで行っているこれらの行為は専門職の方にしかできません。しかし、専門的サービスだけでは高齢者の生活の全てはまかなえない以上、先ほど指摘した日常生活支援ニーズ整備の必要性は高い。

加えて、家族など人とのおしゃべりやペットの世話、植木の世話、そういった日常も含めての「生活」であると理解すれば、介護も医療も、広い意味の生活の一定部分を支えられるにとどまります。

ケアマネジメントも大事ですが、それとあわせて、買い物支援や外出支援、要介護になっても出来る役割や居場所を見つけるといった、ライフマネジメントに変えていく必要があります。

行政としては、そのための費用支援を考えないといけませんが、まだ整備の途中にあります。合わせて、それぞれの地域での自助互助を改めて組み直さなければなりません。市区町村には「地域マネジメント」を考える力が求められます。

なお、地域マネジメントは行政とは違います。「行政」とは各市区町村の役所が基本的には公務員を使い、法律に則って行う業務です。地域マネジメントは地域の資源、例えばプロボノや企業のOBOGなどを使って、地域のニーズとどうお互いに出あうかのマッチングをさせるところから始まります。つまり、役所に属さぬ資源をどう上手に使うか

困窮者や重い要介護者へのサービスについては専門職が行いますが、普通の市民のニーズをどう拾うか。そして、それらを支えられるボランティアやプロボノをどうつなげるか。これを「地域マネジメント」といいます。

 

「介護」ってなんだ?

ここまで語ってきましたが、「介護ってなんだ?」って皆さん改めて考えたご経験はありませんか。介護って何でしょう?

介護保険設立の話を始めたのは1990年ごろです。89年からゴールドプラン(高齢者保健福祉推進十か年戦略)を動かし、訪問介護ステーションをつくったり、介護老人保健施設を増やしたり、特養の数を増やしたり、グループホームをつくったりしてきました。

ですが、その1990年、「介護従事者」はいませんでした。今では300万人程度になりますが、その当時、似た役割を担っていた人は10万人程度。そのほとんどが社会福祉協議会や家政婦派出所に属していました。

市町村特別区の役所は、高齢者の介護が大変だと相談を受けたら、調査で所得が一定水準に達していないと判断されたごく一部の家庭を援助しました。と言っても、いわゆる「家庭奉仕員」が派遣され、炊事や掃除、洗濯等を行うにとどまりました。基本的にボディタッチは無しなので、今となっては介護とは言えません。

体をきれいにする、排泄の世話をする、食事の世話をするといった体に触れる行為が介護であるとの認識に大きく変わった時期は、介護保険が施行された2000年、20年前からでした。

そして、介護を自立支援につなげるために、リハビリテーションとの連携も重要になってきました。超高齢者はリハビリテーションを20分も行うと疲れてしまう例が珍しくありません。多くの場合、栄養不足が原因だと考えられます。日本の85歳以上の女性の半数は栄養不足だそうです。配偶者が亡くなった後の生活意欲低下も影響するのでしょう。

水分摂取も不足しているケースもあるようです。よって栄養ケアマネジメントに基づく栄養ケアが必要です。そのためには、しっかり飲み込めるよう、口腔ケアも必要です。

つまり介護は、三大介護(食事・排泄・清拭)に加え、リハビリテーション、栄養ケア、口腔ケアとの連携が当然と考えられるようになりました。大きな進化です。

これらを受けて、「介護」という言葉を次のように定義します。「介護とは、前より弱くなった現在の心身状態に合わせて、その時点での生活を再構築することである」。

同じ地域の中で、同じ人間関係の中での生活を、今の状況に合わせて再設計すること。これが介護の目的、人生の設計です。

第一に家族、そして近隣の人、体操に行く仲間や元同級生等の人間関係、そして地域社会。SNS上の地域でもいいのですが、人が生きる場は、家の中だけではないですよね。いつも会って挨拶をするお店の人も含めてみんな地域の仲間です。

 

普遍的ではないから、地域は面白い

地域は日本中それぞれに違います。東京の中でも違います。東京中心部は、京都や奈良にははるかに及びませんが、町が古いので割と地域性が残っています。世田谷でも100年、浅草では400年の歴史がありますね。それぞれの地域性は、江戸時代から続くお祭りがあって、商店街が生きていて、同じ小学校を出ている人がたくさん住んでいる中でつくられてきました。東京は割と多くの地域がそう言えます。歴史が短い場所の典型は郊外の新興住宅地です。

東京、特に23区は地域性が弱いと言われますが、そうでもないと見てています。地域ごとに違います。世田谷のあるデイサービスでは英会話が人気だと聞きました。世田谷らしいですよね。それが地域性です。地域は普遍的じゃない。これが面白い。

多職種協働や多機関連携といった事柄は主に専門職が担う仕事です。専門職の仕事には普遍性があります。ですが、地域は普遍的ではない。この両方があるから地域包括ケアシステムづくりは面白く、楽しいのです。「地域づくり」は全国それぞれの地域で、全く違った進展を遂げるでしょう。

 

「居場所」は50代までに準備する

年を取って亡くなるまで、「私はこの家で、この地域で役割がある」という自己肯定感を高める刺激は大切です。「私はもういい」と思わないようにするには、どうすればいいか。「あなたが存在しているだけでひ孫は喜ぶ。それでいいんです」「あなたのそばに来ると猫も一緒に布団で寝ようとする。これはあなたの存在の力です」と励ます。

もう少し元気ならもちろんたくさんの役割を持てます。グループホームには料理の上手い認知症の方がおられます。料理の仕方はなかなか忘れません。でも何人分作るかはわからなくなるから、さりげなくコントロールする。これも介護ですね。

介護は進化してきました。でも、人はできれば要介護になりたくない。加齢はいちばんのリスクファクターなので、90歳、100歳になって要介護ではない状態でいる人生はなかなか難しいけれど、75歳では要介護にならず、心身機能の低下を遅らせたい。健康体操や歯磨き、適切な栄養摂取等は当然として、役割とか、生きがいとか、閉じこもり防止が効きます。

大学で、学生や院生に「介護の始まりは何だか考えて」と尋ねると、「転ぶからですか」と答える。「どうして転ぶ?」と続けると、「目が悪くなるからですか、足が弱くなるからですか」と考えます。
目は加齢のせいかもしれないけれど、どうして足が弱くなるのでしょうか。高齢になって足が弱くなる理由は、歩かなくなるからです。歩かなくなる理由は閉じこもりでしょう。表に行って会う人が減ってしまうから、あるいは「準備をしてないから」です。

 今、40歳50歳代の方、どうでしょうか。自分の職場以外の人間関係がどれくらいあるでしょうか。勤め人だと職場はたいていの場合65歳から70歳くらいで終わります。その時に、地域に帰ってきた時に、家族と会話ができるか、近隣の仲間のグループがあるか、ないか。50代のうちにつくるしかありません。

友達がいること。碁の仲間でも、テニスの仲間でも、何でもいいです。これからつくったっていいのです。プロボノを通じての仲間も素晴らしい。

そして、こういう仲間の居場所に、病気になった人をどう取りこむかも重要です。元気老人も短期的には病気になりえます。もし癌の初期だったら、きっとまた元気老人に戻ります。元気になって戻ってきた時に、もう一度体操教室に参加できるか。「私なんかでいいんだろうか」と思わせないようにできるか。こういった地域のつくり方のためのコーディネーションが必要です。要介護者の家族が閉じこもりにならないような支援も欠かせません。


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