レポート:全体研修「地域づくりで役立つ目標設定の仕方-生活支援コーディネーター業務で成果を生み出すために」
2023年5月24日に実施した全体研修「地域づくりで役立つ目標設定の仕方~生活支援コーディネーター業務で成果を生み出すために」では、地域づくりに役立つステップの考え方をお伝えしました。また、その考え方を学びながら実践できる今年度の支援プログラムの活用法について、背景も含めてご紹介しました。
本レポートでは、その内容の一部を抜粋してお伝えします。
講師:
認定NPO法人サービスグラント代表理事/東京ホームタウンプロジェクト事務局
嵯峨 生馬氏
株式会社エンパブリック代表取締役/東京ホームタウンプロジェクト アドバイザー
広石 拓司氏
地域の人が自ら動くことを支えるために
広石:地域づくりでの目標設定や成果について考えるうえで、あらためて地域包括ケアの視点から、地域づくりに必要な「プロジェクト」の発想・思考についてお話しさせていただきます。「プロジェクト」とは、よく聞く言葉ですが実は定義があり、目的・期間を決めた取り組みのことを指します。
みなさんは、地域づくりの大きなテーマとして、住民主体の地域づくりを促したいと考えておられると思います。従来の医療・介護・保健が連携した、“困っている人を助ける”意味合いのサービス提供ではなく、住民の皆さんが自分たちで地域を作っていくのを支える姿勢です。
そこで大切になるのが、住民の皆さんに難しいことを考えてもらうのではなく、現状の課題を出し合いながら、「自分はどんなふうに役に立てるかな」というような気持ちを盛り立てていくことです。
地域活動は画一的でなく、地域ごとに一緒に考え、作っていくという視点が大切です。なぜかというと、普通に地域で暮らしている皆さんにとっては、「介護予防のために参加しよう」と言われてもピンときません。日々の生活の視点から、身近に起きていることを知ることによって初めて、自分ごとと捉えるようになるからです。
広石:団体さんから多い質問に、「どこに行けば、主体的な住民に出会えますか」ということがありますが、最初から主体的な人というのはあまりいないのです。では、このギャップの埋め方をどのようにデザインするか。住民の理解を進め、体験と学びを通してステップアップをしながら、最終的に主体的な担い手になっていただくことが大切になってきます。
広石:自主的な活動がもっと広がってほしいという時、現状を見ると大きなギャップを感じるかもしれません。大きな目標を実現するには、中間目標を設定することが必要です。いきなり「主体的な活動サロンを全地域で20個作ろう!」と言っても、住民の皆さんにとっては大きなジャンプです。
それなら、期間・活動内容・誰に関わってもらうのかといったプロセスを具体的な単位で考える。これが、地域づくりにおける「プロジェクト」の考え方です。
頂上を目指し、一つひとつ取り組みを実践していくー東京ホームタウンプロジェクトの紹介
嵯峨:広石さんのたとえを「課題」と捉えてもよいかと思います。理想である、住民どうしが顔の見える関係でお互いにいつでも助け合える状態を大きな山の頂上とすると、一気にゴールを目指すのは難しいですよね。一つひとつの課題を解決して頂上に向かうのがプロジェクトです。
ここで、東京ホームタウンプロジェクトの概要をご紹介します。
東京ホームタウンプロジェクトでは、企業人などの仕事の経験・スキルを活かしたボランティア活動「プロボノ」によって、地域づくりを推進する団体を応援しています。具体的には、団体の情報発信や業務改善といった、活動の基盤強化につながる支援をしています。プロボノによる支援は2015(平成27)年からの8年間で、プロジェクト数は179件、プロボノワーカーは850人という多くの方にご参加いただいています。
嵯峨:なぜ外部の方たちとの協働によって課題解決をしていくのか? ここで参考にご紹介したいのが、今年3月に開催した2022年度の総括イベント「東京ホームタウン大学」の基調講演で東京都立大学の室田信一先生がお話しくださった、団体の活動を見ていると2つの「時間」の捉え方がある、という考えです。
嵯峨:右は、毎年同じように行事がまわっているルーティーンのイメージです。続けることはとても大切ですが、どこかでマンネリに陥り、活力が下がっていくことも起こりえます。時々、左の矢印のように、課題の山を登るような動きを取り入れることによって、刺激になり、活力を保ち続けることができると考えます。慣れたルーティーンに新しいことを取り入れるには、支援者、さらには外部に人たちに関わってもらうことが効果的です。
矢印のような時間の捉え方は、まさに「プロジェクト」。これを取り入れる時の要点は、先ほどの「いつまでにここまで解決しよう」という目標と期間を決めて取り組むということになります。逆に言えば、これを決めなければ解決しません。
嵯峨:この時、プロボノ支援はプロジェクト期間だけの一過性の支援ではないかと疑問を持たれる方もおられますが、プログラムは終わっても、成果物が活躍し、団体が強くなっていくと捉えるとよいでしょう。中間支援機関の方々には、成果物の活用の幅を広げていっていただけるよう期待したいところです。また、プロボノプロジェクトをご経験いただくことによって得られた課題解決や協働の知見は、他の団体への支援で応用いただくこともできます。
このようにして、現在のメンバーだけで解決できない課題は、コーディネーターのみなさんにプラスアルファで外部の力をうまく活用し、解決につなげていくことが効果的と考えます。その学びと実践の場となるのが、今年度支援プログラムの「プロボノプログラム」です。また、今年度はプロボノとの協働事例を共有していく「ケース勉強会」(全3回)を予定しています。他地域の事例からポイントを学んでいただき、活かしていただけるプログラムです。
まとめますと、地域づくりにおいて、目的や中間目標・期間を明確に定めることによって、その目標が達成できたかできないかの評価もでき、次なるチャレンジを生むことができます。そして、活動の課題解決と新たな担い手は、セットです。外部からの客観的視点によって、団体の活動の在り方や価値があらためて浮き彫りになります。ぜひ、課題の解決に向けて取り組んでいただければと思います。
活動を続ける中で「区切り」を入れていくことは、新たな動きを誘発できる
広石:どの地域でも多い課題は、「担い手が少ない」「もっと多くの人に参加してほしい」ということです。ですが、「どんな人に関わってほしい?」と聞くと「誰でもいい」という言葉が返ってくることが多いです。これは、どんな人と活動したいのかわかっていない、ということではないかと思います。
このようなケースもあります。20年ほど支え合い活動をされている団体が、年月を経て、地域の人もニーズも変わるなかで活動の方向性を迷われている様子。そこで、住民の皆さんにアンケートを取り、今の課題を理解することを始めました。長期的に続けていた活動に「区切りを入れていく」ということです。こうした活動の基盤強化は、おそらく外部の人たちが得意とするところです。具体的にどうすればよいか、については、東京ホームタウンプロジェクトのプロボノプロジェクトへのチャレンジや、ケース勉強会などを活用し、ヒントを得ていただければと思います。
もう一つ、東京ホームタウンプロジェクトで今年度実施する「課題解決力“共有化”プログラム」では、住民参加型イベントを切り口として、より新しい人たちをテーマに進めていきたいと思っています。中間支援機関の皆さんとしては、住民参加を促し、担い手を増やして地域づくりを実現していきたいと思われていることでしょう。そういう時にも、目指したい姿と現状のギャップから、どのようなプロセスが必要なのかを描いていくことが大事です。今まで地域活動をしていない人に動いてもらうためのステップを作っていく。このステップ作りこそ「目標設定」です。
多くの方は、地域の課題や活動は他人ごとです。どのようなテーマなら、その人たちに参加してもらえるでしょうか。活動には興味がなくても、例えば自分たちの好きな囲碁や将棋をする会なら集まるかもしれません。ならば、そうした場で地域で起きていることを共有することで、理解を得られ、思ってもいないアイデアが出てくることもあります。
こうした、新しい人の参加を促すことや、どのようなステップをデザインして場を作るのかというところを、私たちがサポートできればと思っています。ありがとうございました。