レポート:第1回ケース勉強会「自主グループとプロボノの協働実例 -グループの自律的な活動継続に向けて-」
地域包括ケアの構築に必要不可欠な「多様な主体との協働」について、地域課題の解決や、地域活動の活性化に結び付いた実例からヒントを学び、参加者同士での共有を行う「ケース勉強会」。第1回は、地域団体の活動継続をテーマに、仕事の経験や知識を活かしたボランティア活動「プロボノ」との協働事例を紹介しながら、さまざまな課題解決の可能性について考えました。
本レポートでは、その内容の一部を抜粋してお伝えします。
プログラム
・はじめに ケース勉強会とは・プロボノとは
・事例紹介①
・事例紹介②
・今年度支援プログラムのご案内
はじめに
地域が目指す理想の姿には、一足飛びに到達することはありません。山登りと同じように、中間目標を立て、現状の課題を一歩ずつ解決して歩んでいく必要があることは全体研修でもお伝えしてきました。そして、課題の解決策は一つではなく、外部の力を借りることでぐっと選択肢が広がります。
今回のケース勉強会では、実例を基に、解決策の選択肢をたくさん出していきながら、どのように第三者の力を借りるとよいか、グループワークを交えて学びました。
事例紹介① ゲストトーク・グループワーク
ゲスト:東村山市北部地域包括支援センター 鈴木博之さん
(2022年度、「東村山いきいきシニア」へのプロボノ支援に伴走)
―プロボノプロジェクトへの応募の背景として、東村山いきいきシニアさんはどのような課題をお持ちでしたか?
鈴木さん:東村山いきいきシニアは、東村山市内12町に13の活動グループ(元気塾)を持ち、介護予防を中心に活動していて、創立20年目を迎えた団体です。ある時、80代後半になられた代表の方から突然メールがありました。「自分も高齢になって体調の不安もあり、代表として関わっていくことが難しい。あとをお願いしたい」ということでした。
お話をお聞きし、いきいきシニアの運営委員会に伺って現状把握に努めました。当初は代表の方が変われば機能していくのではないかと思っていましたが、実際には役員さんたちにもそれぞれの想いがあり、退任を希望する人もいて、一枚岩でいかないことがわかりました。課題は山積していましたが、何から手を付けていいかわからない。また、私一人では解決に導いていけそうにないと思い、プロボノのお力を借りたいと思いました。
ワーク① 事務局の担い手不足を解消するには?
団体運営上の大きな課題に、事務局の担い手不足がありました。負担の大きさから新規入会を停止されており、新たな担い手を迎え入れるのも難しい状況でした。
そこで、「事務局の担い手不足を解消するために、あなたなら、第三者の力を活用してどのようなプロジェクトを設定しますか?」
というテーマで、グループワークを行いました。
ワークのシェア
・事務局の仕事を整理し、業務効率化や外部委託を図ってはどうか。
・課題や資源の洗い出しをするとよいのではないか。
・メンバー内での意識共有、組織の立て直しが必要では?
など、各グループからさまざまなアイデアが挙がりました。
鈴木さんのシェア
―今回のプロボノプロジェクトでは、事務局に新たな担い手を迎えるための第一歩に、事務局の業務内容を聞き取り、可視化。業務分担や整理の足掛かりとしていただくためのプロジェクトとしました。団体のみなさんへのヒアリングを経て、事務局よりプロジェクト概要のご提案をした際、鈴木さんはどのように思われましたか?また団体さんの反応はいかがでしたか?
鈴木さん:私自身は大賛成でした。事務局業務が属人的になってしまっていることに気づいたからです。創立から20年経ち、団体規模から考えるともっと組織的な動きがあっていいはずですが、創立当初の小さなボランティア団体の運営スタイルを変えられずにきてしまっていたのだと思います。
一方、団体のメンバーは、課題が内部にあることを認識していなかったようでした。「そんなことをやって何になるんだろう」という感覚も当初はあったと思います。プロボノチームのみなさんと意見交換していくなかで、だんだん必要性を認識されてきました。
―鈴木さんがコーディネートされたことで前進したのではないかと思います。プロジェクトは、1カ月の間に、プロボノチームの皆さんが団体の皆さんにお話を伺う「ヒアリング会」と、成果物の内容をご確認いただきブラッシュアップする「提案会」を実施し進めていきました。
プロボノ支援に懐疑的な方もおられたそうですが、ヒアリング会に来ていただくために、どのようにお声がけされたのですか?
鈴木さん:運営委員のみなさんと話していると、それぞれ立場によっても、人によっても、いろいろな想いがあることが分かりましたので、事務局の中心メンバーだけに絞らず、あえて来れる人はみなさん来てください、として運営委員一人一人に声掛けをしました。
―ヒアリング会でのお話を基に業務を洗い出し、マニュアルのような形で「事務局業務手順書」を作成し、2週間後に提案会を行いました。提案会では、成果物の確認後、皆さんに感想を伺ったうえで、事務局の中心メンバーの方とプロボノチームで、今後の団体の進め方について意見交換しました。
―提案会を終えての、団体の皆さんは反応はどのようなものでしたか?
鈴木さん:もちろん成果物は貴重ですが、人と人が関わって物事が動いていくこと、とくにプロボノチームの方は、お仕事をしながら自分の時間を使って関わってくださり、そのうえで、団体への熱いメッセージをくださいました。プロボノチームの汗の結晶みたいなことがメンバーにも伝わり、それが、次のステップに進む力に変わっていったようです。メンバーそれぞれの想いは異なっても根っこの部分でつながり、団体を動かしていく大きな力になったのかなと思いました。
ワーク② プロボノプロジェクトが完了し、成果物が納品されました。あなたなら成果物をどう活用しますか?
今後のステップとして、成果物を活用し、どのように団体さんをサポートしていくか、というグループワークを行いました。
ワークのシェア
・成果物で見える化された業務について分担を行うとよいのではないか。
・会員の皆さんが集まる総会のような場で、手順書に従って団体運営を検討できるのでは。
・具体的な活動や作業が見えることで、新しいボランティア募集につなげられるのでは。
・他の団体さんとコラボもできる。
などの意見が挙がりました。
鈴木さんのシェア
―鈴木さんは実際にどのようなアクションをされましたか?
鈴木さん:まず役員へ継続の意思確認をし、退任を希望されていた方は役は降りつつも運営のサポートは継続いただくこととなりました。そして、新たな役員メンバーで、成果物の手順書をもとにできることを検討していきました。活動の一部をお休みするなど、身の丈に合った活動に変えながら再スタートを切ったかたちです。つい先日総会があり、そうした次期組織体制や計画にも承認をいただくことができました。
―いったんバトンタッチされ、整理が始まっているのですね。今回の協働全体を通して、鈴木さん自身の感想はいかがですか?
鈴木さん:慣れないことだったので頭を整理したりという負荷は若干ありましたが、プロボノプロジェクトはあくまで途中経過でしかなくて、成果物ができたところからがスタートなんだなと思います。これからどう進めていくかが肝ですね。
プロボノとの協働は、人間関係や心情的な関係で刺激になったと思います。プロジェクトが終わったあとも交流できればお互い刺激になります。またプロボノで動いてくれた方がこれから地域に関わる可能性を思うと、同窓会のような場所もできると素敵だなと思いました。
―おっしゃっていただいたとおり、プロボノワーカーのみなさんも、プロジェクトでの地域団体との交流をきっかけに、身近な地域で目に入る景色が変わったり、地域を我が事として考えられるようになったという声も聞かれています。
まとめ
プロボノというと、専門的なビジネススキルに着目されがちですが、それだけではなく、第三者だからできることにも大きな期待ができます。
プロボノプロジェクトは、成果物ができた次の一歩が大切になります。一つ解決策を打てば、それで山の頂上にたどり着けるわけではありません。外部の力も活用し、解決策の可能性を広げながら、一つ一つ山を登っていくことが必要です。
質疑応答
―団体運営の中心が80代の皆さんということで、運営継続のモチベーションを高めていく点で、どんなお声がけをされていますか?
鈴木さん:今回のプロボノプロジェクトでも実感しましたが、やはりメンバー同士がチームとして一緒に動いていくことがお互いのパワーになっていくと感じているので、その点は意識しています。また創立から20年が経過し、地域では新しいニーズも出てきています。体の不調で通えない方々が増えていますが、退会以外に別のアプローチがあるんじゃないかと考えることもできる。そうした点から、次のステップを考えていけるよう声がけをしています。
―以前は、新規入会受付をできない状況でしたが、再開できそうでしょうか?
鈴木さん:再開しました。入りたいとお待ちいただいていた方が総会をきっかけに10名ほど入会されました。
―もしかすると、一緒に運営に関わる方も出てくるかもしれませんし、新たなニーズも見えてくるかもしれないですね。
鈴木さん:そうですね。多くの方に活動を知っていただきたいので、ホームページを作れないかな、とか、SNSをうまく使えないかなと話が出ています。そんなアイデアが出るようになったのも、プロボノプロジェクトが一つの成功体験となって「こんなこともできるのではないか」と考えられるようになったからだと思います。またプロボノのお力を借りることになると思いますので、ご相談するかもしれません。
―団体の皆さんの中で、具体的に次の一歩がイメージできたことは大きいと思います。鈴木さん、ありがとうございました。
事例紹介②
東村山いきいきシニアさんの事例以外にも、団体の活動継続に向けたさまざまな取り組み事例として、昨年に実施したプロボノプロジェクトが紹介されました。