八王子市福祉部高齢者いきいき課
- 地域
- 八王子市
- プロボノ支援内容
- マーケティング基礎調査
- 支援時期
- 2020年度
- 活動カテゴリ
- 介護予防、身の回り支援、集い・サロン
経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。
八王子市が2017年度に開始した「住民主体による介護予防・生活支援サービス事業」では、高齢者への生活支援活動を行う地域団体に対して補助金を交付し、活動を側面支援してきたが、団体数の増加とともに、各団体へのきめ細やかな対応が難しくなっていた。また、団体間に共通する課題として人材不足が表面化していた。
生活支援団体間のネットワーク構築、および人材不足解消の方策を見出すことを目的とし、団体の現状とニーズを調査。
31の生活支援団体の事例と連絡先をまとめた冊子を制作。これをきっかけに、団体同士が直接コミュニケーションをとる動きが始まった。
東京都心から西へ約40kmの距離に位置する八王子市。これまで4度にわたる隣接町村との合併を経て市域が拡大し、面積は東京都の約8.5%を占めます。人口は50万人を超え、23区を除く市町村のうち最多です。ただし、生産年齢人口とも呼ばれる15〜64歳は、2005年をピークに減少傾向にあり、一方で65歳以上の老年人口は年々増加。高齢化率27.73%(2023年9月時点)は東京都全体よりも高く、4人に1人以上となります。
このように少子高齢化の進む八王子市が、2017年度に開始したのが「住民主体による介護予防・生活支援サービス事業」。高齢者が日常生活のなかで抱える困りごとを、住民主体の活動によって支援する団体に対し、市が補助金を交付する制度です。その交付先団体の活動を、八王子市福祉部高齢者いきいき課と、市内21の圏域ごとに配置された生活支援コーディネーターがサポートします。掃除、洗濯、調理、買いもの、ごみ出しなどの「生活支援の提供」のほか、通いの場の運営、地域交流活動といった「団体の創意工夫による多様な活動」も交付の対象で、地域の実情や団体メンバーの特性に応じた独自性、自主性が尊重される点が特徴です。
この補助金を活用した団体は、初年度6団体に始まり、2020年度(プロボノ支援前)には26団体まで増加。その広がり自体は望ましいものであったものの、一方で浮上してきた問題もあったようです。高齢者いきいき課で2021年度までこの事業を担当した職員、森山慶祐さんは、「6団体の当時は、団体と市が密にコミュニケーションをとれた時代。何か困りごとがあれば市に相談が寄せられましたし、私たちも、情報を仕入れて団体に共有することを重要な役目として、『他の団体さんはこんな風にしていますよ』など細やかな情報提供が可能でした。ところが、団体が増えるにつれ、一団体にかけられる時間が必然的に短くなっていった」と振り返ります。団体同士が直接的に情報を交換、共有できる環境づくりが必要になっていたものの、その有効な手立てを見出せずにいたそう。
加えて、団体に共通する課題として浮上していたのが、活動の担い手、後継者の不足。この「団体間のネットワーク構築」、「人材不足」という二つの課題を解決することが、行政機関である八王子市がプロボノプロジェクトに参加した目的でした。森山さんは、「行政職員は問題をキャッチすることはできても、解決のために最善の方法を選択できるかというと、持っている選択肢自体が少ない。マーケティングなどさまざまなスキルを持つプロボノの方たちの知恵を借りたらどうなるか、という試みだった」と語ります。
4人のプロボノワーカーと、森山さんら八王子市福祉部高齢者いきいき課(当時の名称は高齢者福祉課)の半年以上にわたる協働は、生活支援コーディネーター(第1層・八王子市全域担当)を交えた議論、ヒアリングから始まりました。続いて現場の生の声、ニーズを把握するため、活動中の29の生活支援団体に呼びかけ、2日間にわたるワークショップ形式の座談会を開催。その内容を分析し、課題解決に向けたアウトプットの方向性を議論したうえで、団体の活動に伴走する生活支援コーディネーター(第2層・市内21の圏域をそれぞれ担当)や、個々の団体への取材を重ね、より詳細な情報を収集していきました。
これらの工程を経て、2021年春、プロボノチームが課題解決ツールとして完成させたのが、八王子市内で生活支援活動を行う31団体の情報をまとめた冊子、その名もノウハウならぬ『KNOW-WHO(ノウフー)集』です。この冊子の特徴は、座談会や団体個別の聞き取りをとおして得られた豊富な情報をもとに、「多世代の運営メンバーを集めたい」、「支援スタッフへの謝礼はどうすれば良いだろう?」、「住民のニーズを把握するには?」など、多くの団体が直面する現実的な“困りごと”別に構成されている点。それらの解決のヒントは、団体が蓄積してきた具体的なノウハウ、活動事例をもとに紹介され、とても実践的です。巻末には、31の団体の活動内容と連絡先の一覧も。
この『KNOW-WHO集』は、市内の団体や生活支援コーディネーターに配布され、団体の勉強会で使用されたり、掲載事例をヒントに新たな活動につなげる団体が出てきたりと、各所で有効活用されているそう。とりわけ、団体同士が、市というワンクッションをおかずに直接コミュニケーションをとる動きが活発になったこと、その動きを生活支援コーディネーターもお膳立てできるようになったことは貴重な成果で、「コロナ禍で団体の活動が困難になったなかで、国から示された感染対策に関する一般的なガイドラインだけでなく、団体間で『生活支援だけは続けているよ』、『自分たちでパーティションをつくっているよ』などと具体的な知恵を共有しながら、共に乗り越えていく動きが生まれた」と森山さん。『KHOW-WHO集』は、そのよいきっかけになったと語ります。
このプロジェクトに終始携わってきた森山さんは、「人材不足という課題ひとつをとっても、調査してみると、活動歴の長い団体と日の浅い団体とでは、切実さや優先度の高さが異なるという内情が見えてきたりする。プロボノチームのみなさんが、ネットワーク構築と人材不足という二つの課題に対して、本当にそれが課題なのか、裏に別の問題があるのではないか、具体的に何が必要なのか……と掘り下げていく過程に触れたことは、私たち自身の学びにもなった」と振り返ります。今日に至るまで活用され続けている『KHOW-WHO集』の制作も、はじめから予定されていたわけではなく、ヒアリングと議論を重ね、課題を掘り下げていった末に辿り着いたアウトプットだったのです。
『KHOW-WHO集』をきっかけに生まれた団体間の自主的なつながりは、以後も着実に根づき、コロナ禍による活動の制約が軽減されたこととも相まって、対面でのコミュニケーションも活発に行われているそう。
2022年度、高齢者いきいき課での担当を森山さんから引き継いだ山田恵里さんは、異なる三つの圏域の団体が集まった意見交換会に参加し、「それぞれの団体が抱える悩み、解決できない疑問などについて、市だけではアドバイスしきれない細かいところまで話し合っていたことが印象的だった」と語ります。今後、同様の試みが、市内すべての圏域に広がるとよいのではないか、とも。
当初、6団体への補助金交付から始まった「住民主体による介護予防・生活支援サービス事業」は、2023年度現在、40団体にまで広がり、団体間のコミュニケーションも活性化しています。他方で、わずかながら後継者不在のため活動を休止した団体もあったそう。森山さんは、「これからも、住民の方たちが主体的に地域課題をキャッチし、活動していけるよう、市としては変わらず基盤整備をし続けることが重要」としつつ、自身がプロボノチームとの協働から得たという学びを踏まえ、「高齢者いきいき課だけではなく、例えば民間団体や庁内他部署が実施する、生活支援団体の支援につながるような事業など、いろいろなところが持っている資源も活かしながら団体をサポートしていけたら」と展望を語ります。
少子高齢化の波のなかで、行政機関として抱えていた課題を、外部との協働の機会を活かして着実に解決、前進へと結びつけた八王子市の歩みは、きっと、同様の課題感を持つ他の自治体にとっての学びの種となり得るはずです。
(2023年6月取材)