東京まちかど通信
シニアが現役時代の経験を生かし子育て支援を核としたまちづくりに貢献
子どもの一時預かりなど、周辺地域の家庭の子育てを支援するとともに、地域で活動する子育て・家族支援者の育成など、人材養成にも力を入れているあい・ぽーとステーション。その中心となる「子育て・まちづくり支援プロデューサー」(通称“まちプロ”)の活動について、代表理事の大日向雅美さんと、“まちプロ”の皆さんにお話を伺いました。
あい・ぽーとステーション代表理事の大日向雅美さんにインタビュー
団塊世代の知識や経験を、子育てを通じた地域支援に生かしていただきたいから、あえて「現役時代の名刺で勝負してください」と謳いました。
――あい・ぽーとステーションの設立の経緯と活動内容をお教えください。
港区南青山の事業拠点は、以前、区立の幼稚園がありました。2003年に、少子化により休園となるタイミングで、新しい子育ての拠点をつくるという区の方針に基づき、運営事業者の公募があったのです。それに応募する形で活動をスタートさせました。
活動内容としては、地域の子育て家庭の支援です。子育ては親や家族だけではできません。地域社会のみんなで応援しようというコンセプトで活動しています。具体的には、親子が楽しく遊び仲間と集える子育てひろばの他、理由を問わない子どもの一時預かりを年中無休で行っているほか、地域で活動する子育て支援者の育成等、人材養成にも力を入れています。
――「子育て・まちづくり支援プロデューサー(以下、“まちプロ”)」についてお教えください。
数年前から団塊世代が定年を迎えています。この方たちは、日本の高度成長を担い、低成長時代は厳しい国際競争を生き抜いて活躍してきました。企業人、組織人として素晴らしい知識や経験をお持ちです。一方、定年後にそういった方々が活躍できる場が不足していました。そこで、そういった方々に地域の子育て支援に参画していただこうと考えたのです。あえて「現役時代の名刺で勝負してください」と謳いました。職業人・企業人として培っていらした知識や経験を子育てを通じた地域支援に生かしていただきたいからです。
フリーマーケットの時、商品の扱いに慣れ、経理はその道何十年、接客マナーも素晴らしい“まちプロ”の皆さんに非常に助けていただけています。
——“まちプロ”はどういった活動をするのでしょうか。
普段は、あい・ぽーとステーションの一時保育施設で小学6年生までの保育を保育士と共に担っていただきます。特に年長の子どもは体を使った遊びをやりたくなるので、大いに活躍してもらっています。また、時々フリーマーケットを行うのですが、子育てママだけでは商品の整理や値付け、陳列、お金の管理などに手が回りません。そんな時でも、“まちプロ”さんは商品の扱いは慣れているし、ディスプレイ業出身の方もいるので陳列はお手のもの、経理はその道何十年という方々ばかりです。接客マナーも素晴らしいですね。非常に助けていただけています。さらに、千代田区の特別支援学級でのサポートなどでも活躍していただいています。
——その“まちプロ”を育成する養成講座についてお教えください。講座内容はどういったものでしょうか。また、これまで何人ぐらいが修了されていますか。
「子育て・まちづくり支援プロデューサー養成講座」の開催と活動支援は、趣旨に賛同いただいた住友生命保険相互会社さんに助成いただいて開催しています。団塊シニアの方々は、企業戦士として仕事の知識や経験は豊富に重ねていても、ご自身のお子さんにはほとんどかかわる時間は持てなかったと思います。ですから、子育ての方法や子どもの心理、地域支援とはどういうものかといったことを徹底して学んでいただきます。90分の講座30コマに加え、オムツ交換や沐浴などの実習もあります。修了生は、計3期で約60名です。
奥さまから「夫が、笑顔が見違えるほどステキになり、こんな隠れた才能があることを知って惚れ直しました。」と感謝のお手紙が届きます(笑)。
――どういった反響がありますか。
大好評です。区内の児童館で縁日などのイベントが行われる際も参画していただいていますが、主催者からは例年リピートの要請が入ります。奥さまなどご家族からも感謝のお手紙やメール、お電話が届きます。「それまでは家の中でゴロゴロしているだけで、家族からは“粗大ごみ”“産業廃棄物”などと揶揄されていました。そんな夫が、笑顔が見違えるほどステキになり、こんな隠れた才能があることを知って惚れ直しました。」と(笑)。こういう反響に接すると、鉱脈を掘り当てたような気持になります(笑)。
――では、“まちプロ”にどういった意義を感じておられるでしょうか。
この活動を始めた契機になったのが、私の夫でした。歳が一回り上で、晩年は要介護状態となりました。そんな彼が昔働いていた場所を通りかかると、別人のように背中がしゃんとしてイキイキと昔の話を語り始めるのです。長年、企業人として活躍した男性は、やはり常に現役でいたいのだなと感じました。リタイアするまで会社のために身を捧げたのなら、リタイア後は、家族や地域のために時間を使い、“生涯現役”でいるのが素晴らしいことなのではないかと思います。
――今後の方針についてお聞かせください。
おかげさまで多くの方々に集まっていただけましたので、この方たちを大切にし、気持ちよく活動していただける基盤づくりに力を入れていきたいと思っています。
なお、第4期の講座が2016年1月にスタートします。本講座は、住友生命さんとNPO、そして市民のコラボレーションによる新しい試みです。企業に在職中の方もぜひ受講し、人生設計にお役立ていただければと思います。
「子育て・まちづくり支援プロデューサー」チームの方々にインタビュー
武部寛聰さん(67歳)
私は自分の子どものオムツを替えたこともなかったぐらいなので、子どもと接するのはとても新鮮です。ただし、子どもを預かるということは安全が第一ですから、常に気が抜けず大変な面もあります。しかし、会社の大変さとは質が全く違いますね。何より子どもはかわいいし、最初は寄ってこなかった子どもが最後にはなついてバイバイしてくれたりすると嬉しくなります。引き取りに来たおかあさんからもお礼を言われますが、そんなお母さんを少しの間でも子育てから解放してあげられたかと思うとやりがいを感じます。
同世代の方には、こうした活動をして世の中に貢献したいと考えていても一歩が踏み出せないと思っている人が多いと思います。きっかけがあれば踏み出せると思うので、ぜひ“まちプロ”に参加してみてください。
五十嵐 均さん(57歳)
そろそろ定年が近づき、会社以外のことを何か始めようと考えていた矢先、新聞で“まちプロ”の募集を知った妻から背中を押されました。まだ勤務しているので平日は無理ですが、休日はできるだけ活動に参加するようにしています。
子どもと接する活動は新鮮そのもの。子どもは正直ですから、好き嫌いがはっきりしています。嫌、といわれてしまってどう説明しようかといろいろ考えさせられています。それがまた楽しいんですけれどね。
山名芳高さん(62歳)
広告会社に勤務していましたが、晩年に子育て世代の家族を支援するシステムの検討プロジェクトに参画し、大日向さんに話を聞きに来たことが受講のきっかけとなりました。
子どもとの関わりは真剣勝負です。いきなり「どうして髪の毛がないの?」と言われ、どう切り返すかの気転が効かなくなっていることに気づかされています(笑)。また、障害を持った子どもと接するのは緊張しますが、そのお母さんに明るく接してもらえてホッとしたりすることもあります。ほんとに毎日が勉強です。
野本幸雄さん(67歳)
定年前からものづくりを趣味として活動を続けてきましたが、最近になって子どもに伝えたいと思うようになりました。しかし接点がなく困っていたところ、“まちプロ”の募集広告を見て、きっかけがつかめそうだと受講することにしました。
講座では専門用語が出てきて、いきなり未知の世界に飛び込んでしまったと思いました。しかし、子どもと接するにはそれだけの知識は必要なのだと納得して勉強しました。人生の新しい領域を開いていく実感がありますね。
宮内謙吾さん(68歳)
2年前に完全リタイアするとともに、孫に恵まれました。ただ、自分の時は子育てに関わらなかったことから、孫にどう接したらいいかよくわからなかったのです。そんな時に妻が新聞広告で“まちプロ”を見つけてきました。
面白そうと応募したはいいんですが、講義は多岐にわたり専門的な内容でビビリました(笑)。でも、かわいい孫に接するためにも頑張ろうと。そのおかげで、昼寝のさせ方など今では私のほうが妻より上手なくらいです。“まちプロ”での経験と孫と過ごす時間の相乗効果もあって充実していますね。
花村勝光(かつひこ)さん(66歳)
それまでの会社オンリーの生活から、定年後は社会貢献をして過ごそうと考えました。学生時代、養護施設でボランティアをしていたこともあって、子どもにかかわる活動をしようと。そんな話を妻にしたら、たまたま友人が“まちプロ”の1期生だったという縁です。
絵本の読み聞かせをすると、「つまんない」と言われてしまうこともあります。どうすれば興味を持ってくれるか工夫しなければなりません。また、子ども同士、モノを取り合ってケンカになることもしょっちゅう。そんな時も、仲裁しながら相手を思いやる大切さをどう伝えるか、考えさせられています。それでも、帰る時はハイタッチしてくれる。やりがいを感じる瞬間ですね。
芹田利夫さん(67歳)
地元でも同様の活動に参加していて、その会が大日向さんを講師に招いたことがきっかけで“まちプロ”を知りました。自分には子どもはいないのですが、妻も私も子どもは大好きです。
“まちプロ”としては、千代田区の施設で障がいを持った子どもの相手をするイベントに参加しました。1日目は“まちプロ”の仲間に教わりつつ何とかこなすことができましたが、2日目はだいぶ慣れて周りも見えるようになりました。こうした経験を、次の機会に生かして充実させていきたいと思っています。
山田邦壽さん(64歳)
“まちプロ”はたまたま新聞の広告で知り、興味を持ちました。
私の趣味はハーモニカの演奏です。1期生の集まりで、趣味を出し合おうということになって、皆さんの前で吹いたら好評でした。それまでは老人ホームへの慰問で演歌ばかり吹いていたので(笑)、童謡も練習し子どもたちに吹いて聞かせています。すると、1歳ぐらいの子どもが「もっともっと」とせがむんです。音楽の影響力は大きいな、と感慨を新たにしているところです。こんな活動も、何より自分が楽しくて続いているんですね。子どもの笑顔が、一日の救いになります。こうして子どもと高齢者が助け合って回っていく社会が広がるといいですね。
大坂清二さん(66歳)
1期生の知人から紹介され、2期生として受講することにしました。私も企業戦士で家庭など顧みず働いてきましたが、大した趣味もないので何かするにはちょうどいいと思ったのです。
しかし、最初はそんな自分にできるのか不安がありました。そこで、イベントの時は受付業務をさせてもらい、徐々に慣れていくことにしました。そんな中でも子どもと接する機会は多く、目からうろこが落ちるような発見もあります。思い切って特別支援の子どもたちの中に飛び込んで話をしてみると、逆に教えられることもたくさんあります。未知の世界でいろいろ勉強になっているとともに、これからの人生の生きがいになると感じています。
浜本 敬さん(67歳)
以前から地域活動に関心がありました。新聞で“まちプロ”がスタートするという記事を読み、趣旨に賛同し参加することにしました。自分の子育ての失敗体験を活かしてみたいとの思いもありました。
“まちプロ”は区の親子イベントに参画する機会が多いのですが、それまでママと子どもという組み合わせばかりだったのが、“パパ+ママ+子ども”という参加者が増えてきたのです。これも祖父世代の“まちプロ”が参加した効果ではないかと自負しています。
少子高齢化が進展していますが、“少子”と“高齢”は切り離して解決を考えるのではなく、一緒になって取り組んでいくべきだと思います。“まちプロ”が果たす役割は大きいと思っています。
事務局の方からのコメント
古閑祐樹さん
団塊世代の方が加わっていただけることで、あい・ぽーとステーションの活動もよりよいものになっています。地域の子育て家庭に対して大きな支援になっていると思います。
齋藤洋未さん
事務局メンバーは女性が大半ですが、社会経験や知識の豊富なシニアの方に支えていただき、とても心丈夫です。ぜひ、多くのシニア世代の方に参加していただき、特技や個性を発揮していただければと思います。
(取材:2015年8月11日)