東京まちかど通信
“寅さん”を生んだ日本人の心のふるさと葛飾・柴又の魅力を案内する
葛飾区在住のシニア約50人で結成されている『かつしか語り隊』。俳優の故・渥美清さん演じる“フーテンの寅さん”が主人公を務める人気映画『男はつらいよ』シリーズでおなじみの葛飾・柴又エリアの観光案内ボランティア活動に携わっています。活動内容について、副会長の風見榮一さんにお話をうかがいました。
最初にお客さまのご希望をうかがって、最適なコースをご案内するようにしています。
——「かつしか語り隊」の活動内容をお教えください。
基本的には、毎週土曜日と日曜日の午前10時から、京成電鉄の柴又駅前で先着順にご案内を希望される観光客をキャッチし、柴又エリアの名所旧跡をボランティアでガイドしています。また、平日でもご予約いただければ団体の観光に対応しますが、その場合は資料代として1人あたり300円を頂戴しています。お客さまが数人の場合までは1人のガイドが付きますが、20人などの団体の場合は、3~4人のガイドが付くこともあります。
——どんな名所旧跡があるのでしょうか。モデルコースをお教えください。
フルコースですと、京成柴又駅前から帝釈天参道を歩いて、寅さんが産湯をつかった帝釈天に向かい、参拝した後、有料の邃渓園という庭園や帝釈堂内陣の外側にある「法華経説話彫刻」のギャラリーをご案内します。その後、270坪もの贅沢な書院庭園で有名な「山本亭」で一服し、「寅さん記念館」を見学し、最後は「矢切の渡し」に行く、というものです。さらに、伊藤左千夫の名作『野菊の墓』の文学碑や柴又八幡神社、柴又七福神を巡る場合もあります。フルコースだと3~5時間かかりますね。ですので、最初にお客さまのご希望をうかがって、最適なコースをご案内するようにしています。途中、お客さまから「ご馳走するから」とランチをお誘いいただくこともありますが、初めての方にご馳走していただくのも気が引けますので、できるだけご遠慮しています。けれども、「食べながらも話を聞きたい」と熱心におっしゃるお客さまもいらして、そういう場合は応じることもあります。
今年の5月に3万人を達成!!葛飾区長にもお越しいただいてお祝いのセレモニーを開きました
——今までに何人くらい案内しているのでしょうか?
人出の多い春や秋の行楽シーズンや連休とそれ以外では差がありますので一概には言えませんが、2004年4月下旬から活動を始めて、今年の5月22日に3万人を達成しました。1年間で4000人弱ぐらいでしょうか。
3万人達成時は、「寅さん記念館」の休憩室をお借りし、葛飾区長にもお越しいただいてお祝いのセレモニーを開きました。感慨深いものがありましたね。
——外国人も多いのでしょうね。その場合、言葉はどうしているのですか?
外国人の団体もよく来られます。英語が達者だという会員もおりますので、予約の場合は対応できます。しかし、団体の中には大抵日本語のわかる人がいますので、その方にお話して訳してもらうようにもしています。
観光ボランティアガイド養成講座を受講して、もっと知りたい、そして多くの人にも知ってほしいと思いました。
——では、「かつしか語り隊」の発足の経緯をお教えください。
葛飾区は、アクティブシニアを支援するために様々な講座を設けていますが、その中に「観光ボランティアガイド養成講座」があります。区が卒業生に呼びかけて、その受け皿として「かつしか語り隊」が結成されました。ちなみに私は3期生で、5期目の養成講座が昨年終了し、現在活躍中です。
——風見さんが参加された動機をお教えください。
1999年にアパレル関係の会社を定年退職し、1年半ぐらいは「毎日が日曜日」とばかりに、もっぱら旅行やゴルフ、鉄道模型などの趣味を楽しんでいました。けれども、それも辛くなって、友人の紹介で海外ボランティア活動に取り組みました。これも6年間携わったところで任務を完了しましたので、地域社会で何か役立つことをしようと考えたのです。そして、葛飾区が開催している、子供の放課後活動を支援する「わくわくチャレンジ広場」に参加しました。そこで知り合った人が、「観光ボランティアガイド養成講座」の1期生だったのです。その方からお話を聞いて、自分も地元の文化を知りたいと受講することにしました。
受講してみて、長年暮らしているのにこんなに知らないことがあったのか、という感じでした(笑)。それとともに、もっと知りたい、そして多くの人にも知ってほしいと思うようになりましたね。それで、私も「かつしか語り隊」に入ることにしたのです。
この活動は、体・頭・心の健康によい。実にバランスよくトレーニングできるという感じです(笑)。
——では、「かつしか語り隊」のやりがいについてお教えください。
醍醐味は、基本的に“一期一会”のお客さまを案内して、最後に別れる時に「今日は本当にどうもありがとうございました」と感謝される瞬間にありますね。こちらも知らなかった方と知り合えて楽しい一時を過ごせたので、こちらこそ、という感じですよ。その半面、覚えたての知識を人に話すことに抵抗感もあります。年号やストーリーをうまく話せるか不安もありますし。
これは生きがいでもありますが、観光ガイドといっても奥が深く、養成講座で学んだだけでは足りないのでもっと勉強する必要があります。例えば、明治32年に金町・柴又間に「帝釈人車鉄道」という路線が開通しました。現在の京成金町線の起源ですが、その昔は人が車両を押して運行していたのです。その話をする時に、ほかにどんな人車鉄道があったのかをお話しすることでご案内に奥行きが出ますよね。
柴又のシンボルである帝釈天の正式名称は、日蓮宗経栄山題経寺といいます。先日、「かつしか語り隊」のメンバー一同、その総本山である身延山久遠寺に研修旅行に行きました。もちろん、親睦も兼ねています。「かつしか語り隊」の活動では、朝、メンバーが顔を合わせた後は三々五々観光ガイドに散り、適宜解散となりますから、みんなで一緒に、という活動ではありません。ですから、毎月定例会を行い、研修旅行や勉強会など顔を合わせる機会も多く用意するようにしています。
メンバーは日頃からそれぞれ勉強していて、そんな機会に教えあうのも刺激になりますね。こうして親睦を図れる仲間の存在も生きがいにつながります。
また、私は『男はつらいよ』の山田洋二監督にお会いしたことがありますが、メンバーの中には第9作と第13作でマドンナを務めた吉永小百合さんに会った者もいます(笑)。
——いいことづくめですね。
そのとおりです(笑)。まず、観光ガイドは歩くので体の健康によいですね。それと、たくさんのことを学ぶので、頭の健康にもよい。そして、多くの人と出会えるのでワクワクでき、心の健康にもよいのです。実にバランスよくトレーニングできるという感じがしています。そして、地域の役に立てているという満足感もあります。さらに、妻が寅さんファンとなり、共通の趣味ができて夫婦仲もよくなりました(笑)。
——最後に、今後の抱負についてお話しください。
当面の目標は、5万人を達成させることです。このペースだと5年後ですが、個人的には、少なくともそれまでは活動を続けていきたいですね。