東京まちかど通信
シニアの「講師活動」の機会提供などを通じて人生を”大いに樂しむ”支援を行う
リタイア後のシニアの、その豊富な社会経験を生かした「講師デビュー」を支援し、社会貢献を通じた知識の還元の機会を提供しているNPO法人シニア大樂。活動コンセプトは、その名の通りシニアが”大いに樂しむ”ための場所づくり、機会づくりを行うこと。その活動内容や手応えなどについて、副理事長の藤井敬三さんや会員の方にお話をうかがいました。
NPO法人シニア大樂副理事長の藤井敬三さんにインタビュー
40年の勤務経験により、高いレベルの実務的、かつ、具体的な話ができるという特長があります。
——シニア大樂の活動内容をお教えください。
さまざまな活動を行っていますが、中心的なものは、現役を退いたシニアの方々に豊富な社会経験を生かして講師になってもらい、講演主催者の要請に基づいて派遣するという活動です。登録会員は1都3県中心に500名ほどおります。
——例えば、どういった講師の方がいらっしゃるのでしょうか?
いろいろな職業に就かれていた方がそろっています。例えば「海外旅行」というテーマで講演するとすれば、元国際線のパイロットやキャビンアテンダント、旅行会社のOB・OG、商社で海外駐在経験者、元マスコミの海外特派員、といった方たちがそれぞれの経験に基づいたお話ができます。皆さん40年の勤務経験がありますから、高いレベルの実務的、かつ、具体的な話ができるという特長があると思います。元上野動物園の飼育係だった方の動物親子の話などは、小さい子供のお母さんに好評ですね。また、例えば若い頃から時代小説を専門的に読みこなし、「歴史の話ならお任せ」といった趣味を生かしている講師も大勢います。
自治体の生涯学習講座や市民講座、企業の研修、高齢者施設からよく依頼されます。
――どのようなところからどういった講演の要請が届くのでしょうか?
多いのは、自治体の生涯学習講座や市民講座、企業の研修ですね。あと、高齢者施設からもよく依頼されます。
自治体からの要請は千差万別ですが、最も多いのは市民講座的なものです。参加者は高齢者が多いので、歴史などの一般教養や健康について、あるいは地域活動の効用といったお話ですね。最近は、地元住民から講師を募る自治体が増え、そうした講師候補者向けに話し方教室を要請されるケースが目立っています。
企業からは、大きく3種類の要請が入ります。1つ目は、定年前の社員向けのセカンドライフのマネープランおよび生き方の心得といったもので、これはそれぞれのテーマで話せる講師がセットで対応する場合が多いです。2つ目は、新入社員向けの社会人の心得やマナー、コミュニケーションの取り方講座といったもの。元アナウンサーや元研修担当者などがよく呼ばれています。そして3つ目は、退職OB会での趣味的なお話しです。講演が集客数を増やす目玉にされることも多く、ユニークな話を要請されますね。
高齢者施設からは、マジックや大道芸、落語などの演芸物がよく要請されます。
講演内容としては、何回かのシリーズの中の1回を引き受けてほしいといった単発のものと、5回程度のシリーズの企画立案から講師のアレンジまでやってほしいというトータルなものに分かれます。
――講師の登録・派遣以外にはどういった活動をされているのでしょうか?
サラリーマン川柳「サラせん」をもじって、「しにあせん」というシニアユーモア川柳を楽しむ会があります。それと、会員の中に消費財メーカーで長年商品企画に携わっていた方がいて、「発明発見教室」というアイデア商品の開発を楽しむ会を主宰してくださっています。また、落語や大道芸、三味線などの演芸物が玄人はだしという会員でシニア演芸団「演多亭」を結成しています。高齢者施設や町内会の集まりといった場に出前演芸に出かけるほか、年に1回、「演多亭」の自主公演を開催しています。それ以外にも、山歩きの会や旅カレッジ、ユーモアスピーチの会などいろいろありますよ。
すべて楽しむために活動していることです。これが元気の源だと思っています。
――活動方針は?
団体名のとおり”大いに樂しむ”ということです。講演にしても、しかつめらしい話をするのではなく、聴いている方に楽しんでもらい、時には笑ってもらえるような話をしようと言っています。そのような講演のほうが評判もよく、主催者からも「面白い話ができる人を派遣してほしい」という要請をよく受けます。そして、ただ講演するだけではなく、演芸もセットで合わせて楽しんでもらうといった企画も試みています。
「しにあせん」もユーモアスピーチも演芸も、すべて楽しむための活動です。これが元気の源だと思っています。会員は皆驚くほど元気ですよ。講師をやろうなどという人は、人前で責任を持って話すことのできるエネルギーの持ち主ですね。
――では、シニア大樂の設立の経緯をお教えください。
中高年齢者の生活全般にわたり種々の相談を受け、個別に適切なアドバイスを与える「シニアライフアドバイザー(SLA)」という資格があります。私は2001年頃にこの資格を取得したのですが、同時期に取得した受講仲間と「何か資格を生かせる活動をしよう」と話し合ったのが始まりです。SLAといっても介護は素人だから専門家に任せよう。その一方まだまだ元気なシニアは増える一方です。ならば、ただ余生を送るだけのシニアライフではなく、長年の経験による能力を再発揮し社会参加してもらう活動をしようという基本路線を決めました。そして、講師紹介センターを立ち上げるとともに、社会的信用を得るべくNPO法人を設立したのです。
――講師はどのように集めたのですか?
初めは講師経験がある知人数名からスタートしました。活動を始めた直後に全国紙に取材してもらう機会がありました。記事が出た途端、応募が殺到しましたね。その後何度もマスコミに取材され、一気に500人まで増えたという感じです。
シニアのこれまでの人生で蓄積してきた経験や知恵は宝物です。
――藤井さんがSLAを取得した動機をお教えください。
私は以前、広告代理店に勤務しており、マーケティング業務などに携わっていました。マーケティングは世の中のトレンドを追うことが仕事の一つです。また、現役の終盤当時に政府広報の仕事も手がけていて、さまざまな省庁に出入りしていました。どの省庁も高齢社会に目を向けているトレンドを知り、「自分のリタイア後は高齢者に役立つ活動をやろう」と考えました。そしていろいろと調べ、SLA養成講座を受講することにしたのです。自分自身も元気なシニアでいたいという思いもありました。
――「シニア大樂」の活動をしていて、どんな効用を実感していますか?
会員は平均70歳。80代の会員は普通で、90歳近い方もいます。皆さん、目が輝いているんです。取材に来るマスコミの人も、元気な姿に皆驚いていますよ。私自身も忙しく飛び歩く毎日で、大変充実しています。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
シニアのこれまでの人生で蓄積してきた経験や知恵は宝物です。その宝物はしまっておくのではなく、もう一度広げることで「自分はまだまだ役に立つ」と実感でき、元気になれます。これからの人生が本当の人生です。そんな人生を「シニア大樂」で開花させましょう!
続いて、「シニア大樂」会員の方に、活動に参加した経緯と手応えについてうかがいました。
平井幸雄(ひらい・たかお)さん
藤井敬三さんと別のサロン仲間という関係で「シニア大樂」設立を知り、自分も定年を迎えたことから何か手伝いたいと参加しました。
私は長年企業で人材教育の仕事に携わっており、人前で話すことには慣れていました。たまたまある自治体から「落語に学ぶ商売の知恵」といったテーマでの講師派遣を要請され、落語をかじっていたことから名乗り出てやってみたところ好評だったのです。それ以降、講演に落語を組み合わせるというスタイルで「コミュニケーションのツボ」といったテーマで講演活動をしています。ほぼ週1回のペースで、年間50回ほど行っています。
シニアは、人を楽しませて人の役に立つことが生きがいになると思います。「シニア大樂」に参加して、自分の得意なことを発揮できるやりがいと、ほかの会員に負けられないといった刺激ももえらて充実した毎日ですね。
宮本久男(みやもと・ひさお)さん
2011年11月に入会し講師登録しました。先に参加していた友人から紹介され、のぞいてみたところ自分がやりたかったことに近い活動をしていたので、参加することにしました。
参加したのは、同世代の人への「奥さんを幸せにしてあげてほしい」という思いがあったからです。団塊世代の我々は、高度経済成長期の企業戦士として家族を置き去りにして働いてきました。退職した今だからこそ、そこをリカバーしてほしいという思いがあるのです。もちろん、自分の反省が原点です。
私はNLPというコミュニケーション技法・心理療法技法を中心としてつくられたトレーニングプログラムの講師を務めていますが、これによって言葉を変え、人間関係を豊かにすることができます。そのことを「シニア大樂」の講演活動で伝え、一人でも多くの人に家庭内のコミュニケーションを豊かにしてもらいたいと願っています。それが自分の生きがいにもつながると思っています。