東京まちかど通信
第12走者 永田拓也さん
江東区の地域に根ざした診療所で、医療の面から、地域住民のみなさんの「健康な生活」を支えています。
——ふだんのお仕事について教えてください。
地域医療に携わる医師として、主に外来診療と訪問診療を行っています。
外来診療は、かぜ、胃腸炎などの急性疾患や、高血圧症などの慢性疾患を中心に診療をしています。受診する患者さんのほとんどが高齢者です。高齢者は併存疾患がとても多いため、その患者さんが色々な科や医療機関に受診しないですむように、循環器疾患であれ、呼吸器疾患であれ、内分泌疾患であれ、アレルギー疾患であれ、簡単な皮膚トラブルや腰、膝の困りごとでも、臓器にこだわらない質の保たれた外来診療を提供できるように心がけています。
また、診療の際は、その方の病気の事だけではなくて、家族背景なども聞くように意識しています。ご家族の事を聞いてみると、その方も実は介護を必要とされていたりすることもありますので、バックグラウンドも確認するようにしています。
訪問診療は、地域包括支援センター、ケアマネジャー、近隣医療機関からご紹介いただき、脳血管障害や、骨折によりADL(日常生活動作)が低下した患者さんや、認知機能障害の患者さん、癌患者さんなどのご自宅へ定期的に伺い、診療をおこなっています。
また、認知症や褥瘡といったテーマでケアマネジャーを対象とした勉強会を定期的に開催したり、地域包括支援センターからの依頼で、認知症患者さんのご家族へ講演したりもしています。そういった活動を通じて出来た、地域福祉に携わるスタッフとの顔の見える関係性は、患者さんの生活をサポートする上で非常に役立っています。
——現在のお仕事を始められたきっかけを教えてください。
循環器内科医として市の基幹病院で勤務していた時でした。指導していた研修医に将来どうするのかを聞いたら、「家庭医を目指します。」と言われて、家庭医って何?って。
その研修医から、地域で外来や往診をしたり、予防や健康増進に力をいれている分野があるんだということを聞き、まさに、自分が医学部を受験するときに思い描いていた医者像だったんです。
色々調べていると、欧米では家庭医療(小児から高齢者まで、臓器にこだわらず包括的に診療することを専門とする医療分野)が地域の健康に貢献していること、日本にも家庭医療研修プログラムがあることを知り、循環器内科を卒業して、家庭医療の研修を行いました。そして、家庭医療専門医の資格を取得した後、当診療所に来ました。
——地域で診療されているなかで、病院とは違った難しさなどはありますか?
以前、循環器内科で診療していた際は、患者さんの病気だけを見ていれば何とかなりました。一方で今は、誰と暮らしているのか、趣味は何なのか、経済的に安定しているのか、食事はどうしているのか、買い物はどうしているのか、お風呂はどうしているのか、エレベーターはついているのか、ベッドなのか敷布団で生活しているのかなど、その方の「生活」にも視点を向ける必要があります。
また、サポートしてくれる家族の状況について、病院にいた頃も確認していましたが、今ではより一層、家族のサポート状況やその人の介護力、友人・兄弟・親戚などにサポートをお願いできるかなどについても把握するようにしています。
病院にいた時は、ケアマネジャーや訪問看護師など他の職種がどういった仕事をしているのか詳しく知らなかったですし、介護保険制度についての知識もなかったのですが、今ではそういったことを把握していないと、患者さんをうまくサポートできないですね。
——お仕事をされる中で、やりがいを感じられることは何ですか?
ご自宅で安らかな最期を迎えられた患者さんのサポートに関われた時ですかね。
病院でも看取りをすることはありましたが、やはりご自宅で最期を迎えられるほうが、その人の尊厳がしっかり守られていると感じています。また、私自身も、自分なら家で最期を迎えたいという価値観もありますし、社会的にも病院で看取れる場所が少なくなっているということもありますので、ご自宅での看取りに対する思いは強いと思います。
ご自宅で、患者さんが苦しむことなく、ご家族にも家で看取ってあげてよかったと言ってもらえるような看取りをサポートできた時は、とてもやりがいを感じます。一方で、患者さんの症状を上手に緩和することが出来なかったり、介護サポートなどを使ってもご家族の負担を取り切れなかったり、ご自宅での最期をご希望されていたものの、病院で最期を迎えられたというケースも多くありますので、やりがいでもあり辛いところでもあります。
——地域での医療に携わる方というのは、どんな方に目指していただきたいですか?
おじいちゃんおばあちゃんが好きな人ですね(笑)患者さんや、他の職種の方とのコミュニケーションが必要なので、人と関わるのが好きな人だと、いい仕事ができると思います。また、自分の専門分野や病気の事だけじゃなく、「地域を見る視点」というのも大切だと思います。
——地域福祉の担い手の方にメッセージをお願いします。
ケアマネジャーや訪問看護師等とお話しする際によく聞くのが、医師は話しづらいと…。他の職種の方にとって、医師は少し恐れ多い存在になってしまっていて、コミュニケーションが上手くいかないことが多いのではないかと思います。一方で、私の周りの地域医療に熱意を持っている医師の話を聞くと、「もっとケアマネジャーの方などから相談しに来て欲しい」という声も多いんです。
地域に貢献したいと考えている医師は、患者さんを取り巻く福祉スタッフの方と協力して、患者さんの生活を上手にサポートしたい、と考えています。しかし医師が、地域の福祉スタッフとの協調に不慣れであったり、制度を把握していないことで、皆様と上手に協調できないこともあるかもしれません。
地域福祉に詳しい皆様からのアドバイスや話し合いの機会を歓迎する医師もいる、ということをお伝えしたいです。
職場の方から見た永田所長
地域で50年以上やっている診療所なので、昔からこの地域にお住まいの高齢者の方が多くいらしたり、認知症など、療養のサポートをしていかなければならないケースも増えてきています。
そうした中で、永田先生はとても相談しやすく、こういう所に相談したらいいよ、などとアドバイスしてくださいます。タッフ全員と一緒になって、患者さんのことを考えてくださる先生です。
医事課の仕事もしていますので、事務方として患者さんとの窓口となり、看護師やケアマネジャー(居宅介護支援事業所を診療所内に併設)、永田先生にご相談させていただきながら進めています。
永田先生は、患者さんに対して、とても一生懸命な方です。病気のことだけじゃなく、その方の日常生活なども気にしてくださっていると感じています。
インタビューを終えて
診療所のある江東区深川エリアでは、江戸情緒・下町風情を感じることができる街並みが広がっています。永田さんのインタビューの中で、何度も、「患者さんの病気だけでなく、生活にも目を向けることが大切」、とおっしゃっていたのが印象的でした。
地域に根ざした診療所で、24時間365日、何かあれば駆けつけなければならないなど、気の抜けない日々のなか、地域住民の健康を支えるために、熱意をもって取り組まれているお姿は、とても素敵でした。
永田さんの職場はこちら
江東区にある内科の診療を中心に行っている診療所。在宅療養支援診療所としても、地域の医療機関・介護施設と連携し訪問診療を行い総合的なケア体制をとっています。また、居宅介護支援事業所を併設しており、ケアマネジャーがケアプランの作成、介護のご相談もお受けしています。
(公開:2017年6月30日)