東京まちかど通信
料理サークルに参加して社会と関わりのある生活へ
月に一度集まり、みんなで料理をして、それを食べながら味の感想を自由に言い合う――そんな自由なサークルがだいこんの会です。それまで包丁を握ったこともない人たちが一堂に会し、協力しあいながら数々の料理を作る。顔なじみのメンバーとたわいのない話をしながら過ごすひとときが楽しいと会員が口をそろえて言う。代表の中村さんや会員の方にお話をうかがいました。
代表 中村元巳さんにインタビュー
料理の先生なしでメニュー考案から後片付けまで、すべてを会員で行っています。
――だいこんの会を立ち上げた経緯をお聞かせください。
最初のきっかけは、ゆうあい福祉公社主催の1990年度「男性の生きがい講座 料理講習」の修了生が、引き続き料理を学ぼうと1991年2月に自主サークル「男の料理サークル」を立ち上げたことでした。このサークルが「だいこんの会」と名前を変え、今に至ります。当初のサークルは先生に料理を教わるという一般的なスタイルだったのですが、しばらくすると先生がサークルに参加できなくなってしまいました。そのためサークルを存続するか、あるいは解散するかという話になったのですが、「せっかくみんな顔なじみになって定期的に集まるようになったのに、これで解散するのはもったいない」ということになり、今日まで活動が続いています。ですから、料理の先生なしで、メニューの考案から買い物、調理、後片付けまですべてメンバーだけで行うのがこの会の特色です。サークル名の由来は、丸ごと1本食べられて無駄になるところがない大根のように、どんな食材も大切にしようという思いを込めて命名されました。
会の目的は、家庭料理に挑戦して男性も厨房に入り自立できるようになることと、積極的に外に出て活動することでいつまでも元気に過ごせるようにすることです。30年近くこの活動を続けてきたことが認められ、2014年にはだいこんの会が「長寿社会における高齢者の社会参加活動の模範」として、内閣府から表彰されました。会員は多いときは28名まで増えましたが、現在は18名です。在籍20年以上のベテランもいて、活動日には毎回15名前後が参加します。入会の条件は60歳以上の男性であること、それだけです。以前はゆうあい福祉公社主催の料理教室修了者であることも入会の条件としていましたが、現在は講習修了者以外も受け入れています。最高齢者は87歳で、毎回元気に参加されています。
――活動内容を教えてください。
1月を除く毎月第2土曜日、調布市民プラザあくろす3階の調理室で料理をしています。朝9時に集合し、10時までの1時間でメニュー担当者からその日作るレシピの説明を受けて、そのあと買い出しを行います。同じ建物の1階にスーパーマーケットがあるので、買い物は大変便利で助かっています。そして10時から2時間かけて調理、12時からは作ったものをみんなで食べて、後片づけをして13時に解散という流れです。会費は入会金1,000円のほか、月会費が1,000円です。ただし月会費は材料費なので、当日欠席の場合は徴収されません。
また、かつては障がい者施設の利用者を招いて作った料理をごちそうしていたこともありました。多いときには20名ほどが訪れ、食事の前に歌を披露してくれたのもいい思い出です。
――代表としての役割をお聞かせください。
代表になってすでに10数年経ちますが、任期は特に決まっていません。みなさん自主的に動いてくれるので、私の役割としては、毎回抽選で決まる調布市民プラザあくろすの調理室を第2土曜日に借りられるよう、期日にきちんと申込書を提出するくらいです。あとは、調理室を使える時間には制限がありますから、調理の際は全体の流れを見るようにして、正午には調理を終えられるように微調整することですね。ちょっと進行が遅れているところには手の空いた人に行ってもらうといった具合です。
誰もが自主的に動いてすべきことをしています。
――調理、試食、片付けの役割分担などはどうしていますか?
先生はいませんから、特定の人物が「○○さんはこれをして、○○さんはそれをやって」などと、指示を出すことはありません。毎回何品か作りますが、メニュー考案者からどの順番で作るかをあらかじめ教えてもらうので、それにしたがっておのずと役割分担ができている感じです。作る手順も説明があるし、調理台ごとに使う材料も分けてくれるので、誰も「自分は何をすればいいのかわからない」というようなことはありません。後片付けも、食器を洗う人、拭く人、しまう人、テーブルを片付ける人、床そうじをする人、ごみの片づけをする人など、誰もが自主的に動いてすべきことをしています。
実は最初からこのようなあうんの呼吸だったわけではありません。昔は自分の皿を流しに持って行くこともしない、調味料も出したら出しっぱなし、慣れない片付けに手間取って時間超過してしまうなど、いろいろありました。それでも、みんなで楽しく過ごそうという共通の思いがあったからでしょう、次第に「いま自分ができることは何かな?」と自然に思えるようになり、手を休める人がいなくなっていきました。
――これだけ長きに渡ってサークルが存続してきた秘訣は、どんなところにあるのでしょう。
自分たちが楽しむために作る料理だから堅苦しく考えず、気軽に取り組めるという点が大きいですね。ときには調味料の分量を間違ってしまうこともありますが、それも含めてみんな一緒に楽しんでいます。また、勤めていた頃の経歴や肩書などは一切関係なく、そういうことをサークルに持ち込まない点も長続きしている要因だと思います。
だいこんの会に参加することが元気の素になっています。
――中村さんご自身は料理をするようになって、なにか変化はありましたか?
64歳から18年この活動を続けていますが、最初は「男性の料理教室がある」と妻に言われ、しぶしぶ行きました。ところが参加したら面白くて、こうして長く続けることになりました。今では1週間に一度、自宅で料理当番の日があり、その日は買い出しからしています。自分好みのものばかり作ってしまった時期もありましたが、今はだいこんの会で作ったメニューを自宅で復習することが多いですね。得意料理は、いちばん最初に習った手羽先大根です。
――だいこんの会の今後の展望をお聞かせください。
月に一度集まって、協力しあいながら料理を作って、できあがった料理をみんなで食べる。言葉にすればこれだけのことですが、定期的にだいこんの会に参加することが、私たちシニアにとっては元気の素となっています。外出する機会になりますし、たくさんの人と会話を交わすことで刺激も受け、社会との関わりもできます。自主サークルなのであまり固く考えず、これからも今まで通り気楽にやっていきたいと思っています。
会計 細田政夫さん
妻にすすめられて料理講習に申し込んだのが、みなさんとのお付き合いの始まりでした。現在は会計担当として、参加者から会費を集めて買い物担当者に食材費を渡し、入出金額を記録するというのが私の仕事です。今日は14名が参加、材料費の予算は1万4,000円でした。結果として9,800円の材料費でイタリアンサラダ、みそ汁、鯖パスタ、和風チキンソテー、フルーツゼリーと見た目も鮮やか、かつボリューム満点のフルコースを作ることができました。これもメニュー担当の平澤さんやデザート担当の川上さんが予算を考えた上でメニューを考えてくれるおかげです。私のほうから「予算オーバーになりがちなのでその辺を考慮してください」とお願いしたことは一度もありません。
最初は食材を切ることもままならなかったのですが、少しずつ料理もできるようになり、今では自宅でも妻の手伝いができるようになりました。今後は新しい会員が少しずつでも加わってくれたらうれしいですね。今は70歳まで働くのも珍しくない時代ですから、おのずとこのサークルも高齢化が進んでいます。70歳からのセカンドライフを彩る場として、だいこんの会を選んでもらえればうれしいです。
メニュー担当 平澤良和さん
最初は料理を教えてもらう側だったのですが、メニューを担当されていた先輩が高齢のためひとりでは負担が大きいということで、私も手伝うようになりました。現在は私がメインで担当しています。
メニューの参考にしているのはテレビの料理番組です。見ながらメモを取ったりできるよう、どの番組も必ず録画しています。メニューを決める際に心がけているのは、季節感のある素材を使った料理であることと、材料がすべて簡単に入手できるものであること、そしてシニア世代の体にも良い食材を使うようにすることです。加えて、食費はひとり1,000円という予算があるので、予算内で収まるメニューを考えるのも重要です。ですから魚も鯖の缶詰を用いるなど、いろいろ工夫しています。また、メニューが決まったらスーパーに足を運び、使う食材の値段をあらかじめチェックし、料理当日の買い出し時に「予算オーバーだ」などと慌てることがないようにしています。さらに時間の制限もあるので、手早く作れるレシピであることも重視します。たとえば鯖缶を使ったパスタを作る際は、普通ならパスタを茹でる鍋とソースを作るフライパンが必要ですが、フライパンひとつでできるレシピにしました。今後も時短だけでなく、自宅でも挑戦しやすいレシピであることを意識したメニューを提案していきたいです。
レシピや調理手順のプリントは調理台の上にぶら下げて都度確認できるように工夫
デザート担当 川上元雄さん
昔から料理に興味があり、割烹料理のような本格的な和食を教わる料理教室に通ったこともあります。63歳のときに「男の料理サークル」に参加し、料理の先生のお手伝いでお菓子作りをしているうちに、次第に腕が上達していきました。現在はデザート担当で、毎回どんなデザートにするかも私が決めています。
いつも料理がボリューム満点なので、デザートにまで手を伸ばせないうちに満腹になってしまう人がほとんどです。それでもみなさん「家にデザートを持って帰らないとお土産がないと言われるから作って」と言ってくれます。家でもお菓子作りをしていて、町内会の方からリクエストが来ることもよくあります。だいこんの会でもいろいろ作りたいお菓子があるのですが、調理時間に限りがあるので本格的なケーキなどは厳しいですね。また、一回1,500円以下の予算で全員分が作れるものを考えます。持ち帰ることを前提に、容器もその予算内で購入するので、安い容器を探して店を何軒もはしごすることもあります。
店で売られているお菓子を見るたびに「どんな材料を使っているんだろう」「原価はどれくらいだろう」などと考えるのが癖になっていて、気になるものは買って試食もします。こういうことをするのも、ひとえにだいこんの会が楽しいからです。毎月集まって、顔見知りのみなさんとおしゃべりしながら過ごすひとときはかけがえのないものです。
関谷幸雄さん
20年ほど前に妻と娘が一緒に出かけた際、「おかずは冷蔵庫に入っているので、あとはご飯を炊いてください」と言われました。ところが当時のわが家の炊飯器はガス釜で、どうやってガスをつければいいのかわからず、結局おかずだけ食べる羽目になりました。そんな私を見かねた娘から「男性のための料理講習で勉強してください」と言われ、そのままだいこんの会にも参加、気づけば86歳と会員の中で2番目に年長者となっていました。最初はあらゆることが難しく、買い物の仕方から教わる始末でした。まだ料理の先生がいた頃、先生に「買い物に行ってきて」と言われたときは、子どものようにうれしくうきうきした気持ちになったことを覚えています。
だいこんの会では、みな過去の経歴やキャリアなど気にすることなく和気あいあいと料理を作るのでそれが実に楽しいです。以前は会計を担当していましたが、細田さんと交代した今は毎回のんびり楽しませてもらっています。自宅では週に2度ほど料理をするようにもなり、昔、お米も炊けなかった頃に比べたら随分成長しました。何度か大病もしましたがそのつど元気になってだいこんの会に参加してきたので、この先も1日も長く続けていきたいと思っています。
(取材:2019年7月13日)
■プロフィール
だいこんの会
設立/1991年2月
代表 中村元巳