中央福祉の会(中央地域福祉活動推進協議会)
- 地域
- 武蔵野市
- プロボノ支援内容
- マーケティング基礎調査
- 支援時期
- 2020年度
- 活動カテゴリ
- 見守り、介護予防、集い・サロン、世代間交流
経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。
「中央福祉の会」が定期的に開催してきた、高齢者を対象としたサロン、乳幼児とその保護者のための憩いの場づくりなどは、コロナ禍によって活動が制限されることに。地域の人々、とりわけ外出頻度の低下した高齢者との対面機会を失い、生活状況や会へのニーズの把握が困難になった。また、活動の担い手の高齢化という慢性的な問題も抱えていた。
地域住民のニーズを調査し、今後の活動の方向性、新たな仲間づくりの方策を見出す。
・地域住民へのアンケート調査、関係者へのヒアリング調査、外部環境調査を実施。地域のつながりに対する住民の考え、会の活動に求められているものなどが明らかに。
・調査結果を踏まえ、プロボノチームから会へ、活動の発展に向けた方策を提案。支援終了後、その内容を反映したパンフレットが完成し、活動周知に使われた。
東京都武蔵野市の13のエリアにおいて「隣近所で支え合い、いざというときに助け合う」地域づくりを志し、住民主体の福祉活動を行ってきた地域福祉活動推進協議会(地域社協)。その13の団体のひとつである「中央福祉の会」は、JR三鷹駅からほど近い中町、御殿山2丁目エリアで運営されています。居住歴の長い住民の高齢化が進む一方、近年、建設された大型マンションに多くのファミリー層が流入したエリアです。
発足以来、住民同士がつながり合うさまざまな場を開いてきた当会の活動のひとつが、ひとり暮らしの高齢者を対象としたサロン、「りんどうの会」です。毎月一回の集いでは、体操、音楽、食事会、花見やひな祭りなどの季節行事がなごやかに行われます。「中央福祉の会」運営委員の今村明美さんは、りんどうの会を「参加者同士が顔を合わせることで元気が出る催し」と語ります。
もうひとつの主要な活動、「親子ニコニコ広場」は、0〜3歳児とその保護者を対象に,毎月一回開かれる憩いの場。高齢のボランティアスタッフが子どもたちの遊びを見守る間、保護者たちは交流の時間を持つことができます。「特に二人目の子が生まれたあとなど、親はトイレに行くことすら大変。私たちは保育の専門家ではありませんが、いっときの息抜きの場をつくることはできていると思う」と語るのは、現会長の渡邉貴美代さん。
このほかにも、防災活動、障害に関する学習など、多岐にわたる取り組みを通じて住民の福祉への関心を広げ、安心で暮らしやすい地域づくりに努めてきた当会。しかし、一方では、運営委員や活動の担い手の高齢化問題に直面していたといいます。その解決の糸口をつかめずにいた2020年、新型コロナウィルス感染症パンデミックが発生。非常時にこそ必要とされる地域福祉の活動が、大幅な制限を余儀なくされました。とりわけ高齢者の対面、交流に重きをおいてきた「りんどうの会」は、活動への障壁が高く、運営委員やボランティアスタッフは、月に一度の「電話作戦」を実施。孤立が心配された高齢の参加者たちとのコミュニケーションに努めたといいます。
集うこと、顔を合わせることの困難が解消される見通しが立たないなか、それでも地域福祉の輪を途絶えさせないためには、福祉を必要とする住民とつながること、そして新たに活動の担い手となり得る住民とつながることが必要でした。当会が「東京ホームタウンプロジェクト」プロボノ支援プログラムに応募したのは、地域の人々に会の活動を知ってもらうためのパンフレットをつくりたい、との動機からでした。
当初、パンフレット一枚さえできればよいと考えていた「中央福祉の会」でしたが、支援プログラム前の協議において、「まずはニーズを把握するところからではないか」との指摘を受けたことから、プログラムでは、地域住民のニーズ調査を実施することに。運営委員の今村さんは、「ずいぶん大きな話になったなと思った」と笑って振り返りますが、結果として、会は、この調査を通じて歩みを進める力を得ていきます。もとよりITに著しく弱かった当会にとっては、調査の中身以前に、プロボノチームとの協働をとおしてzoom会議の手法を身につけたこと自体、貴重な糧だったそう。
ニーズ調査は、プロボノチームからの提案に基づいて
の三本柱で実施。とりわけ、住民アンケートにおいて配布数の56%、252件に及ぶ回答を得られたことは、会が重視する「地域のつながり」に対する住民自身の意識や、会の活動がどう認知されているのかを、綿密に分析することにつながりました(下記参照)。
調査の結果と分析(要約)
・多くの住民が、会話を交わしたり、簡単な頼みごとをしたりできる近所付き合いを希望している
・世代間の交流に対しては、負担にならないことが求められている
・全世代において、住民参加型の「緊急時の助け合い」や「声かけ・見守り」が必要とされている
・全世代において「防災」への関心が高い
・よりわかりやすい広報へと改善することで、地域活動への参加者増を見込める
「アンケートにインターネットを使うことも、あれだけ充実した内容の調査をすることも、私たちの力では不可能だった」と振り返る今村さん。プロボノチームによる詳細な分析結果と、それらを踏まえた活動提案は、以後の会の運営、対外的な発信の見直しに、少しずつ活かされてきたそう。支援終了後に完成し、地域内各所で配布されたパンフレットにも、調査から得た自己分析、地域分析のキーワードが散りばめられています。
一概にそれらの効果とはいいきれないものの、コロナ禍のなかで慎重に再開してきた会の活動には、現在、新たな担い手が加わりつつあります。この3年で、運営委員は35名から39名へ、活動協力メンバーは34名から40名へと増加したそう。
加えて今村さんが強調するのは、「ボランティアであるにも関わらず、なぜこれほど懸命に取り組んでくれるのかと心を打たれた」というプロボノチームがもたらした、精神的なエンパワメントです。支援の翌年、会は20周年を迎えましたが、「コロナ禍で集まりを控える傾向がまだ強かったあの時期に、大事な節目として式典の開催へと踏み出せたのは、プロボノの方たちの熱意に背中を押された面が大きかった」と明かします。
パンデミックによる大幅な活動制限の時期を乗り越え、わずかずつながら仲間を増やすことにも成功してきた「中央福祉の会」。しかし、活動の担い手の高齢化は、依然として解消されていません。コロナ禍のなかで運営委員に加わったひとり、竹下由紀代さんは、「子どもの独立もあって、フルタイム勤務から週3日ほどの勤務に変わったとき、自分が地域とのつながりをほとんど持たずに生きてきたことに気づいた」と自らの参加動機を語る一方、その経験を踏まえながら、「40〜50代の間は家も仕事も一番忙しく、地域活動に参加する余裕のない人が多いのでは」と、問題の一端を指摘します。
ただし、ポジティブな兆しとして、市内別エリアの地域社協のなかには、現役世代が輪に加わりつつある団体もあるそう。その活発さに刺激を受けているという渡邉会長は、「私たちは、決まった活動に収まりがちで、何か新しい機会に対しても、私たちの団体は違うね、と判断することが多かった」と省みた上で、「これからは新たな場にも出て行き、いままで出会えなかった人たちに出会うことが必要だと思う」と展望を語ります。
かつてプロボノチームと協働した調査の結果を振り返れば、地域の人々の多くは、世代を問わず、地域のつながりを必要なものととらえているはず。その潜在層といかにしてつながり、手を携えるか。模索の歩みが続きます。
(2023年6月取材)