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    事例に学ぶ

    経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
    団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。

    認知・理解を広げる

    現役世代の「子育て×介護×仕事」の両立が可能な社会を目指し、
    啓発と活動周知のためのツールを制作

    NPO法人こだまの集い
    地域
    東京都杉並区
    プロボノ支援内容
    印刷物(パンフレット等)
    支援時期
    2020年度
    活動カテゴリ
    介護者支援、集い・サロン
    この事例のポイント
    抱えていた課題

    団体について説明するツールとして、設立当初に自作したパンフレットを使用していたが、伝えるべき内容を体系立てて表現するだけの知見が乏しかったため、十分に伝えられているのか疑問があった。

    プロボノ支援の内容・目的

    ダブルケア当事者に活動を知ってもらうため、あるいは行政、企業、他団体との連携や協働を進めるために、活動内容や趣旨をわかりやすく紹介するパンフレットを作成する。

    成果

    プロボノチームの情報整理とデザインのスキルに加え、ダブルケアに関する知識を持っていなかったからこその視点が生かされ、広く「ダブルケアとは何か」の啓発ともなり得るパンフレットが完成。講演会場などでの配布にも活用している。

    プロボノ支援のまえ、あと、これから

    まえ
    身をもって経験したダブルケアという社会課題

    団塊の世代(1947~1949年生まれ)がすべて75歳以上となる2025年、日本は、人口の約5人に1人が後期高齢者という超高齢の時代を迎えます。そのなかで、より割合が低下していく現役世代が直面する課題のひとつとして、ダブルケア問題があげられます。ダブルケアとは、狭義には育児と介護が同時に進行する状態のこと。現代社会において、晩婚化、出産年齢の高齢化によって育児と介護の時差が短縮していることや、きょうだい数の減少、共働き世帯が約7割を占めるようになったことなどにより、ダブルケアラーの増加と、そのケアラーにかかる負荷の上昇が指摘されています。

    また、広義のダブルケアとは、「家族や親族等、親密な関係における複数のケア関係、またそれに関連した複合的な課題」(『子育てと介護のダブルケア 事例からひもとく連携・支援の実際』<中央法規出版、2023>)をとらえる概念です。高齢の配偶者と孫のダブルケア、二人以上の高齢者のケア、障害のある子を含むダブルケアなどもここに含まれ、多くの人が当事者となり得る身近な問題であることがわかります。

    2019年に設立された「NPO法人こだまの集い」は、ダブルケア当事者の実態、ニーズを行政や支援機関に伝え、育児・介護・就労の両立が可能な環境を整備することを目指す団体です。設立の背景には、介護福祉士、看護師としてキャリアを重ねてきた代表理事・室津瞳さんの実体験があります。デイサービスでフルタイム勤務をしていた2017年、室津さんは、自身が「第二子の妊娠」、「第一子の育児」、「末期がんの診断を受けた父の在宅ターミナルケア」、「がんを患い入院した母(父のメイン介護者でもあった)のケア」を引き受ける事態に。専門職者として持ち合わせていた知識をもとにマネジメントを試みたものの、「やるべきことが多すぎて、まったく追いつかなかった。父親の口座を凍結させてしまうという経験もしました」と室津さん。仕事を継続する術がわからず役所に問い合わせるも、有益な情報は得られず、「私のようなプロでもつまずく。私自身が介護のプロからもっとサポートを受ければよかった」と渦中を振り返ります。

    当時、介護人材向けのビジネススクールにも通っていた室津さんは、折しも世に出始めていた「ダブルケア」という言葉に自身の状況が符合することを知り、これを卒業論文のテーマに設定。リサーチを重ねるなかで、自分は必ずしもマイノリティとはいえず、普遍的な社会課題に直面していたことに気づいていきます。内閣府による「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」(2016年発表)では、ダブルケアラーは約25万人(女性約17万人、男性約8万人)とされていたものの、「ダブルケアの定義がとても狭く、実際はもっといるに違いないと。将来の人口推計を見て、自分の子どもたちが活躍する2040年代には、子育てをするほぼ全員が私のようになってしまうな、と思った」と室津さん。

    ダブルケアラーのおかれている環境を、「ゴールのわからない大きな海で泳ぎきれといわれているようなもの」と痛感していた室津さんは、超高齢社会となる2025年を目前にしながら、同じ境遇にある人々に対してほぼ支援策のない、「寝ている日本」の現状に疑問を抱いたそう。そこには、介護の専門職者である自身が、目の前の高齢者の家族を「助けてくれる人」、いわば社会資源としてのみとらえ、支援されるべき存在であるという認識を持たずにきた反省もあったといいます。だからこそ、「当事者に対して、こうすれば生きていけるよ、と浮き輪を投げられる存在になりたい。それは子どもたちの将来のためにもすべきこと」と思い立ち、卒業論文の発表の場で、ダブルケア支援にアプローチしていく意志を表明。当事者が安心して声をあげやすく、かつ行政とも連携しやすい組織にすべく、NPO法人の形態で「こだまの集い」を立ち上げたのです。

    以来、杉並区における当事者との語りの場づくり、ダブルケアに関する講演会や勉強会、大学との共同研究などさまざまなチャンネルをとおして、現役世代が望む形でダブルケアと仕事を行える環境づくりに向け、活動を続けています。

    杉並区での「ダブルケアカフェ」。ダブルケア当事者である参加者と「こだまの集い」スタッフがお茶を飲みながら語り合う杉並区での「ダブルケアカフェ」。ダブルケア当事者である参加者と「こだまの集い」スタッフがお茶を飲みながら語り合う
    あと
    “一般”の目線を取り入れ、誰に何を伝えたいのかを整理

    「こだまの集い」がプロボノ支援を受けるきっかけとなったのは、設立からほどなく、行政との意見交換に臨むにあたって即席のパンフレットを自作したこと。「私たちには、当事者の声を行政に届けるというミッションがありましたが、それを体系立てて表現するだけの知見が不足していました。伝えたいことをデザイン、メッセージに落とし込む作業は素人には難しく、本当に伝わっているのかがわからなかった」と振り返る室津さん。今後、ダブルケア当事者に向けて活動を周知するためにも、行政や他団体と協働していくためにも、団体の思いや活動趣旨を的確に伝え、活動への信頼を高められるパンフレットが必要と考え、支援を受ける決断をしたそう。

    このプロジェクトに参加したプロボノチームは、室津さんと同世代で、同じように育児をしながら働く女性たちでした。ダブルケアに関する予備知識はなかったものの、室津さんとは視点が異なるという意味ではむしろ利点で、それぞれが持っている専門スキルや社会人経験のなかで培った目線で、どんな情報を届けるべきかをクールに意見してもらえたことが助けとなったそう。情報を誰に届けたいのかも改めて整理し、「私としては行政に届けたい思いもありましたが、プロボノの皆さんは、行政に伝えるべきことは、テキストなど別の手法でまとめたほうがよいのではないか、パンフレットは基本的な情報に絞り、当事者と一般の人たち向けにつくるのが有益ではないか……とコンサルティングのようなことをしてくださったんです」と室津さん。

    室津さんからの事前ヒアリングや情報収集、たたき台づくりを経て、最終的に対面での共同作業で制作された三つ折りのパンフレット。表紙には、「子育てと親の介護が重なったらどうすればいいの?」と、極めて端的にテーマが掲げられました。

    完成したパンフレットの表面(上)と裏面(下)。こだまの集い・ダブルケア問題・目指す社会像の関係をわかりやすく整理し、ビジュアル化完成したパンフレットの表面(上)と裏面(下)。こだまの集い・ダブルケア問題・目指す社会像の関係をわかりやすく整理し、ビジュアル化

     

    中面には、ケアも仕事もあきらめなくてよい社会をつくりたいという団体の意志とともに、いまだ十分に認知されていないダブルケア問題に関する基礎情報も盛り込み、潜在層にあたる一般の人々にも、身近な問題としてとらえてもらいやすい内容に。室津さんも「このパンフレット自体が啓発になる」と効果を感じており、今日まで、講演会場など各所で活用し続けています。

    これから
    専門職に頼り、身近な人間関係に頼ろう

    2020(令和2)年春、新型コロナウイルス感染症パンデミックが起きてからも、「こだまの集い」は歩みを止めず活動を続けました。同年に杉並区の助成事業として計画していたワークショップ教材の制作を、急遽、オンライン教材の開発に切り替え、Zoomを使った対話型ワークショップをスタートしたのです。内容は、子育て・介護・仕事の両立の際の「あるある」な場面を示しながら、膨大なタスクのうち何を優先するか、何を周囲に頼り、アウトソーシングするかをゲーム形式で整理していくというもの。目を背けられがちな介護というテーマだからこそ、コミュニケーションと遊びを交え、楽しみながら思考できる工夫がなされています。地域を越えて多くの当事者とつながることを可能にしたこのワークショップは、以後も主要な活動のひとつとして継続されています。

    オンラインのワークショップ「ダブルケア366」の一画面。自分自身がしたいことと、できないことを振り分けながら思考を整理するオンラインのワークショップ「ダブルケア366」の一画面。自分自身がしたいことと、できないことを振り分けながら思考を整理する

     

    室津さんは、育児と介護の両方を抱え込んで苦しんでいる当事者には、自身の経験も踏まえて「アウトソーシングするなら、介護から先に」と伝えるそう。介護保険制度を使い、調整のプロであるケアマネージャーをはじめとした専門職にできるだけ頼ることで、育児への余力を持たせようとの助言です。加えて、身近な人間関係のなかに、頼れる先を一カ所でも多く持つことも重要で、「昭和の時代の隣組のような、お互いさまと助け合える関係性が必要になってくると思いますし、高齢化と人口減少という課題に関しては、地方は東京の先を行っていますから、少ない人のなかでどう支え合い、回していくかという観点で見習うべきことが増えていくと思います」と室津さん。

    他方で、社会全体としてダブルケアラーを支援する制度についても「整備を進めていく必要がある」と室津さんは指摘します。国の動きとしては、改正社会福祉法において、新たに「重層的支援体制整備事業」が創設されました(2021年4月施行)。「子ども」、「高齢」、「障害」など属性によって縦割りにされた従来の支援体制では、ダブルケア問題、8050問題(80代の親が50代の子の生活を支える問題)のような複雑化・複合化した課題への対応が難しくなっていることから、横串を刺し、より包括的に支援する体制を市町村で構築することを目指す事業です。

    もうひとつ、対ビジネスパーソンの動きとして室津さんが注目しているのは、「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針)」に掲げられたビジネスケアラー(仕事をしながら家族の介護をする人)支援の方針です。「2030年には、家族介護者の4割がビジネスケアラーになり、介護離職やパフォーマンスの低下による経済損失が9兆円にも上るという試算(経済産業省「新しい健康社会の実現」)があります。この視点でビジネスケアラーへの支援が進み、より柔軟な働きかたが可能になれば、ダブルケアと仕事の両立の可能性も出てくると思う」と展望を語ります。

    ダブルケアという、この時代を生きる現役世代に特有の問題にフォーカスしながら、家族をまるごと支援する体制づくり、働きやすい社会づくりという広い視野を持つことの重要性をも語る室津さん。この先、よりニーズが高まるであろう息の長い活動が続いていきます。

    (2023年8月取材)

    団体基本情報
    NPO法人こだまの集い
    設立
    2019/令和元年5月
    代表
    室津 瞳
    住所
    〒167-0042 東京都杉並区西荻北2-3-9 コメットビル6階
    URL
    https://www.kodamanotsudoi.com/
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