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    事例に学ぶ

    経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
    団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。

    認知・理解を広げる
    運営を分担・効率化
    オンラインツール活用

    オンラインでの普及活動を視野に入れ、江戸小噺データベースを作成。
    「くすっ」という笑いの力で人と人との関係を良好に

    一般社団法人江戸小噺つながりコーチング
    地域
    東京都三鷹市
    プロボノ支援内容
    クラウドツール活用
    支援時期
    2020年度
    活動カテゴリ
    アクティブシニア
    この事例のポイント
    抱えていた課題

    江戸小噺を届けるボランティア活動が、コロナ禍によってすべてストップしたことをきっかけに、次世代への継承を目指し、団体を法人化することを決断。事業を進めるにあたり、集めてきた江戸小噺資料を整理する必要があった。

    プロボノ支援の内容・目的

    オンラインでの活動にも活用できるよう、江戸小噺のデータベースを作成する。

    成果

    用途別にドキュメント形式、スプレッド方式の2種類のデータベースが完成。以後、新たに活動に加わるメンバーへの共有資料として活用されている。

    プロボノ支援のまえ、あと、これから

    まえ
    地域の人びとに届けてきた、江戸小噺と笑い

    「お姉さん、粋だね〜」「かえりです」

    「この帽子はどいつんだ?」「おらんだ。でもいらん」

    ある週末の午後、東京都三鷹市の住宅街に立つこぢんまりとしたカフェで催された「江戸小噺茶論(えどこばなしさろん)」。落語のまくらとして用いられることで知られる、くすっと笑える気の利いた「小噺」を聞き、話し、皆が自由に江戸談義を楽しめる会です。催しには、高座名を持つ小噺歴の長いメンバーによる語りあり、配布された簡単な小噺を皆で音読してみる体験タイムあり。とりわけ場が温まったのは、冒頭に紹介した江戸小噺かるたの場面でした。「一分(いちぶ)線香即席噺」と呼ばれる非常に短い小噺の、上の句、下の句の札を取り合うゲームで、高齢者が多数を占める会場のあちこちからは楽しげな歓声が。江戸中期の庶民に愛されたという小噺が、人の間を取り持ったようなひとときでした。
    ※「江戸小噺茶論」でのプログラムは回によって異なります。

    江戸小噺茶論にて小噺に挑戦する参加者

    江戸小噺茶論にて、かるた取り2024年にスタートした「江戸小噺茶論」は、「江戸」を軸とした学び合いの会。写真は小噺に挑戦する参加者(上)と、かるた取り(下)

     

    この会を主催した「一般社団法人 江戸小噺つながりコーチング」は、2013年、代表の高野まゆみさんが、「江戸小噺ボランティア養成講座」(みたかボランティアセンター主催)第一期生の有志とともに、非営利の活動団体「江戸小噺笑い広げ鯛」(以下、「広げ鯛」)として立ち上げた組織です(2021年に法人化し、改称)。高野さんの本職は、真心のような見えない思いをつなぐ「コーチング」というコミュニケーション手法の講師で、2002年より、主に子育て中の親に向けた研修などをおこなっていました。そのなかで、江戸時代の社会や文化、とりわけ江戸小噺に、コミュニケーションの観点で関心を抱くようになったといいます。

    「コーチングという手法は、25年ほど前に日本に入ってきて、企業研修などに使われてきました。一方で日本全体を見ると、コミュニケーションの状況がまったくよくなっていないのでは? という疑問があって、江戸時代にヒントがあるのではないかと思い、調べ始めたんです。日常のなかで、小噺のような場を温めるものを楽しんでいた江戸時代のコミュニケーションは、いまと比べて大らかで、思いやりが感じられます。それは、互いの根底を認め合い、どんな自己表現も受けとめるコーチングにも通じるものだと思いました」

    すべてが評価にさらされ、人びとが気持ちを押し込めるようにして生きるこの社会で、江戸小噺を広めることができれば、きっと皆が幸せになれると確信していたという高野さん。まずは自身が小噺を話せるようになろうと、落語家・桂右團治さんの教室に足を運んで3年ほど学んだのち、2012年、三鷹市で江戸小噺を楽しむ会を個人として開催。翌2013年には、みたかボランティアセンターに自ら働きかけ、「江戸小噺ボランティア養成講座」を開催したのです。好評を博したこの講座から生まれた「広げ鯛」は、以後、地域の高齢者施設や小中学校などへの出張ボランティアを中心に、行政関連のイベントへの出演、地域寄席の開催といった活動をとおして、江戸小噺と笑いの輪を広げてきました。その過程では、定期的に訪問していたあるデイサービスで、車椅子に乗った80歳近い女性がノートに自作の小噺を書きためるようになり、皆の前で小噺のお披露目をした……というような小さな喜びにいくつも出会ってきたそう。

    ところが、始動から7年となる2020年、「広げ鯛」の活動は、新型コロナウイルス感染症パンデミックによってすべて休止する事態に。団体メンバーの多くが高齢者という事情もあり、活動継続へのエネルギーの維持が難しくなっていったといいます。この苦況に立った高野さんと主要メンバーが決断したのは、むしろこれを機に、江戸小噺のさらなる普及と次世代への継承を目標として掲げ、法人化を目指すという針路でした。従来の地域ボランティアは継続しつつ、江戸小噺を日常のなかで活用できる人材の育成に、事業として取り組もうと考えたのです。対面活動への障壁の高いコロナ禍のさなかだったからこそ、若い世代へのアプローチとして、苦手なオンラインでの活動にも挑戦。「東京ホームタウンプロジェクト」プロボノ支援プログラムに参加したのは、こうした新たな試みに着手しはじめたころのことでした。

    あと
    クラウドツールを活用し、ばらばらだった小噺資料を一元化

    コロナ禍以前は「広げ鯛」のメンバーが出向き、届けてきた小噺を、オンラインも活用しながらより広く伝え、継承していくためには、「書式の違うものがあちこちに保存されている状態だった」というあらゆる小噺の資料を整理し、一元化することが必要でした。そこで、2020年秋の支援プログラムに参加した6人のプロボノチームは、蓄積された多数の江戸小噺のデータベース化に取り組むことに。高野さんらと相談の上で、用途に合わせ、以下二つの方式で完成させました。

    ・「ドキュメント方式」
    新規会員用。見やすく、印刷向き。編集も可能

    ・「スプレッド方式」
    既存会員用。すべての小噺に、長さ・主役(人間、食べ物、動物など)・季節・年代のタグ付け。タグの追加、新たな小噺の追加などの編集も可能
     

     

    ドキュメント方式の江戸小噺データベース(抜粋)ドキュメント方式の江戸小噺データベース(抜粋)
    スプレッド方式の江戸小噺データベース(抜粋)スプレッド方式の江戸小噺データベース(抜粋)

    完成したデータベースには、ごく短い「一分線香即席噺」だけでも136も収められているほか、高野さんの師匠、桂右團治さんからの口伝の小噺なども。新たなメンバーが活動に加わった際には、これを共有資料として役立てているそうです。

    支援プログラムは、こうして無事に完了しましたが、高野さんたちは、以後もさまざまな局面においてプロボノワーカーの知見やスキルに頼り(下記)、高齢のメンバーで事業を進めるうえでの力にしてきました。加えて、彼らとのやり取りをとおして、「江戸小噺には若い人たちにも伝わる何かがある」との感触を得ることもできたそう。

    【プロボノワーカー×江戸小噺つながりコーチングの協働実績】
    ・2021年:法人化した団体の初期の会計サポート(自動計算システム導入)
    ・2022年:公式LINEの使い方指導
    ・2022年:リーフレット作成
    ・2023年:Link in Bio作成アドバイス
    ・2023年:Instagramアカウント作成と投稿予約の使い方指導

    2022年、プロボノワーカーの支援を受けて作成された三つ折りのリーフレット2022年、プロボノワーカーの支援を受けて作成された三つ折りのリーフレット
    これから
    江戸小噺×コーチングを用い、言葉で皆が幸せに生きる社会に

    2021年、ボランティア団体から一般社団法人となって再スタートをきった「江戸小噺つながりコーチング」。この決断の理由のひとつとして高野さんが語ったのは、江戸小噺の力は「ボランティアだけでは広がっていかない」という課題意識でした。これまでボランティアとして届けてきた江戸小噺が、多くの高齢者に喜ばれてきた実績は確かなものであるものの、「おもしろかった、ありがとう、で終わってしまう」と高野さん。人びとが孤立し、ともすれば言葉が武器にすらなるようなこの時代に、人と人とのコミュニケーションを良好にする江戸小噺をさらに広げていくためには、これまで大切にしてきた真髄を守りつつ、次の世代を見据えてより能動的に「伝える」活動が必要だと。具体的には、企業や団体の研修に、江戸小噺とコーチングを掛け合わせたプログラムを提供する事業を進めようとしています。働く現役世代の日常のコミュニケーションを、笑いの力で和らげることが狙いです。

    数年前、とある高齢者施設で起きた出来事には、高野さんが確信し続けてきた江戸小噺の笑いの力が、象徴的に表れています。「江戸小噺つながりコーチング」の会員のひとりが、リーダーとして勤務していたその施設では、出張ボランティアが3ヵ月に一度訪れ、一年半にわたり、介護レクリエーションのひとつとして江戸小噺をとり入れました。その場には、施設の利用者のみならず職員も加わり、共に小噺を読んだり、皆の前で高座に座り、順に小噺を披露したりといった体験を重ねたそう。すると、日常の業務のなかで小噺を活用できるようになり、会話で自然に使われるということが起こり始めたといいます。それによって、職員と利用者、あるいは職員同士のやり取りが、笑いを伴って明るく変化。風とおしのよくなったその施設は、3年間、離職率ゼロという結果によって本部から表彰されたそう。

    2023年には活動開始から十年を迎えた「江戸小噺つながりコーチング」。庶民に愛されてきた文化であり、人間関係の潤滑油ともなり得る江戸小噺を、より広く伝え、こどもたちへと継承するために、苦手な部分は外部の力にも頼りながら、一歩一歩の挑戦が続いていきます。

    (2024年1月取材)

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