東京ホームタウンSTORY
東京ホームタウン大学講義録
「楽しい」から始める東京の地域づくり
2017年度総括イベント「東京ホームタウン大学」開催レポート
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「先輩」と呼び「年の差フレンズ」を持つ
また、今回の展覧会プロジェクトの中では「高齢者」ではなく「先輩」と呼んで、人生の先輩たちがなんで楽しそうに暮らしているのかを伝えていきましょう、としました。その僕らのヒアリングインタビューに応じてくれた29人の先輩たちの歳を全部足して、展覧会のタイトルは「2240歳スタイル」。2240歳分のライフスタイル展覧会です。民生委員や知り合いを通じて、70代、80代になってもとても楽しそうに暮らしている人たちの家に行き、インタビューさせてもらいました。そうすると、お茶だけは出すお母さんとかね。月々の電気代や水道代はこれぐらいで、と全部教えてくれる人もいました(笑)。
食べ物に特化して調べた“先輩クッキング”の動画もおもしろいです。チャルメラが大好きっていうおじいちゃんが、チャルメラ作って食べるだけなんですけどね。チャルメラを土鍋で作るんです。最初にやることは何かっていうと冷蔵庫を開けるんですよ、中にはキンキンに冷えた土鍋が入ってる。それを出してきて、土鍋の上から水をジャーって入れるんです。その冷えた水の入った、冷えた土鍋をゆーーっくりした動作でコンロにかける。それでまたゆ ーっくり、冷蔵庫の中からもやしを出し、ネギを出し、最後にワカメを出してくる。この3種類をまたゆっくり、ゆっくり切っていくんです、で、ちょうど切り終えるとお湯が沸くんですよ。だからやっぱり土鍋は冷やしておかないといけないんですね(笑)。塩分に気を遣ってラーメンのスープの粉は半分しか使わないんだけど、ワカメは塩抜きしていないから、実は塩分が増えているとかツッコミどころ満載でね、大人気だったんです。
あと「コックピット」と僕は呼んでいますが、座ると必要なものが全部手の届く範囲に置いてあるっていう、あれがなかなかええやん、と、おじいちゃんの家からコックピットを丸ごと借りてきて展示しました。そうすると、展示期間中はおじいちゃんの家からコックピットがまるごとなくなる。じゃあどうするかというと、おじいちゃんは毎日展覧会へ来るんですね(笑)。
それで、そこに来た人みんなにコーヒーカップとかいろんな思い出の品を説明し始めるというような。こういう展覧会を作っている間に、自分たちが楽しく豊かに、長生きしていく方法みたいなものを導き出しそうとした。その人がどう幸せになっているのかを、一人ずつ聞いていって、元気な人たちが健康で長生きできる12個の秘訣みたいなのを見つけ出したんです。
なかでも、一番大きいと思ったのが「年の差がある友達を持つ」こと。とくに20歳以上年下の友達を3人以上持っている人が若いんです。これは、“先輩面”しちゃだめなんですね。20歳以上年の差のある人たちと対等におもしろいことをする、くすくす笑いながら楽しんでいく、そういう柔軟性を持った人たちが、すごい健康で長生きして幸せそうだってことがわかってきた。
すると、展覧会づくりに参加したメンバーの皆さんはそれを「年の差フレンズ」と呼んで、すぐに歳の差フレンズを作りましょうという活動を始めてくれました。高齢者福祉とか介護のことを直接手伝わなくても、年の差フレンズになるだけで、実は地域に貢献していることになるんじゃないか、と話し合ったんです。展覧会に来てくれた1646人に呼びかけたら若者から80代までの人たちが反応してくれて、今、それがいろんなチームに分かれて活動をしています。年の差フレンズができると、後輩世代は「親に優しくなった」とか「人と話すバリアがなくなった」と言うし、先輩世代の方では「終活の話をやめた」っていう人もいます。
一緒にやるのが楽しいと思える人のつながりが活動の価値になる
石川県の、金沢市の隣にある野々市(ののいち)市でも、地域包括ケアの促進を目的としたプロジェクトに携わりました。こちらでは社会資源を集めた雑誌を作ることになりました。
幸せで楽しそうに長生きしているような人は、まちのどこで何をしているのかを取材しています。雑誌作りを呼び掛けて集まった100人くらいの人たちに、写真の撮り方講座や、短い文で人を感動させられる文章の書き方講座をしたうえで、いろんなところに取材しに行ってもらいました。
「ののいち日和」と名付けたこの雑誌の中には、若い時から通い、高齢になったときに行きつけだと言える店になるような、常連客になっておくと血縁に関係なく自分を支えてくれるようなお店なども紹介されています。
例えば、お弁当を提供してくれるスナックが登場します。高齢男性は食事が作れないことがきっかけで施設に入るという人も多い。住宅街の中にあるスナックなので夜はお店に食べに行けるけど、日中に食事ができる店はあまりない。そこに目を付けたのがスナックのママさんです。
ただ、弁当箱で食事を渡しているから、お店に弁当箱を返しに来なきゃいけない。それがだいたい夜、返しに行くんですね。で、返しただけで帰れないじゃないですか。「じゃあ、まあ飲んで行こうか」って飲んでるとまた翌日分のお弁当を持たされ…っていう、サイクルを作っている。でもそれっていいんじゃないかと思うんですね。それは彼女の“営業”としての知恵であり、それで高齢の一人暮らしの男性が施設に入らずに地域で生きていくつながりにもなっている。そういうのを「ののいち日和」に参加している人たちが発見するんですよ。その雑誌の一番最後には「仲間になりませんか」と編集チームからの呼びかけがあって、集まった人たちが今、7つのチームに分かれてさまざまな活動をしています。
医療チームは、医療関係者も入っていますが、キーパーソンはやっぱりこの日下(くさか)さん、80歳。日下さんは、「医療や介護において情報が非対称である」ということに憤りを感じているおじいちゃんなんです。医療施設に行っても、なんか専門用語でばーっとしゃべられる。で、どうします?とか言われても、こっちはわからない。ひょっとしたら向こうの都合のいい情報を言われているかもしれない、だから“医療と介護は情報戦だ!”と。こっちも情報を仕入れておかないと対等に話ができないということをすごく言いたかったんです。
情報を持つには、勉強しないといけない。それは正しいことだけど、楽しそうじゃないですよね。どうやったら楽しくできるだろう?とみんなで考えて、その勉強会に人を集めるためのポスターを一度作ってみましょう、となりました。“情報戦”だから、日下さんが迷彩服とか着て、ほふく前進しているポスターを作りたい、と。日下さんも「いいねえ、戦争の頃のこともちょっと思い出すわ」みたいな感じでね。みんなで小道具集めて、テントとか双眼鏡とか持ってきて、でも結局、ほふく前進すると下向いちゃうから最終的にはテントの横に立っている図になりましたけど(笑)。でもそんな風にして、楽しく学んでみようと地域の人たちに呼びかけて今も勉強会をずっと続けていて、仲間も増えてきています。
他にも、「コンビニ栄養学講座」といって、コンビニに売っている1人用のレトルト食品の、どれとどれを食べ合わせると栄養価が高いか、体にいいかなどを「ポップ」という書店などで貼ってある手書きの紹介カードを作って、地域のコンビニに貼るという活動をしているチームもいます。あと日下さんが立ち上げた新しいプロジェクトのテーマは「エンディングノート」。エンディングノートっていうのは、一人で書いてると気分がだんだん下がってくるらしい。だから楽しくて書きたいと思うようなエンディングノートを作りたいというわけです。日下さんも、「システム1」と「システム2」がだんだんわかってきたんですねえ。楽しく書けるエンディングノートができるまで私は安心して死ねない、と言う日下さんに、チームのメンバーはこれを手伝っていいのかわからない、と。完成したら日下さん死ねますからね(笑)。
さまざまな課題に向かい合う時に、まずはその「楽しさ」と「正しさ」のバランスを自分たちのプロジェクトの中でどう作っていくか。東京ホームタウンプロジェクトで取り組んでいる「プロボノ(仕事の経験やスキルを活かしたボランティア活動)」も含めて、貨幣で対価をもらっているわけではないけれども何か一緒にやっていこうとする時に、この人たちと一緒にやるのは楽しいなあと思うような人間関係を作っていくこと。これが超長寿社会の東京を生きていく中で、すごく重要な側面になるのではないかと思います。
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