東京まちかど通信
“元気シニア”は社会の力 介護の人材不足解消と、生きがい提供に貢献
まだまだ働きたい”元気シニア”の方に登録してもらい、介護現場への派遣、および人材紹介を手がけているかい援隊本部。2025年には100万人が不足するといわれる介護人材を確保するとともに、まだまだ元気なシニアに、働くことを通じて生きがいを提供することを目指しています。総務企画課 主任の菊岡翔太さんと、介護現場で働いているスタッフの方にお話を伺いました。
株式会社かい援隊本部 総務企画課 主任 菊岡翔太さんにインタビュー
60歳以上の84%の人はまだまだ元気。3,300万人の元気シニアの方々に介護の分野で活躍していただければ、介護の人手不足という問題は解決されるのではないかと発想しました。
——株式会社かい援隊本部設立の経緯からお教えください。
菊岡:2008年頃の新聞記事で、「2025年には介護の人手が100万人不足する」ということを知り、これは解決していかなければならない社会問題であると感じて、調査を開始しました。
そうした中で、60歳以上の世代3,900万人のうち、要支援・要介護の状態の人は600万人、その他3,300万人、すなわち84%の人たちはまだまだ元気で働けることがわかりました。
こうした方々に社会性の高い介護の分野で活躍してもらえれば、介護の人手不足という問題は解決されるのではないかと発想しました。
そして、2011年8月には社会起業大学主催のソーシャルビジネスコンテストで「介護分野の人手不足と高齢者雇用の2つの問題を同時に解決する」というコンセプトに注目していただき、グランプリを受賞しました。このことに大きな力を得て、2011年11月に当社を設立し、翌2012年4月、事業をスタートさせました。
——事業内容や事業エリアはどのようになっていますか?
菊岡:事業内容としては、一般労働者派遣事業および有料職業紹介事業の形を取っています。登録した高齢者の90%以上は、老人ホームやデイサービスなどの介護事業所に派遣、紹介しています。残りは、ホテルのフロントスタッフ、保険の営業員といった介護以外の業務にも派遣、紹介しています。
事業エリアは、現在、首都圏で展開しており、東京でメインに活動しています。また、2012年11月に名古屋にも支部を新設しましたので、同エリアでも広げていきます。
——派遣スタッフはどのように募集しているのですか?
菊岡:ユニークかつ社会的意義のある事業内容のせいか、おかげさまでいろいろなメディアに取り上げていただき、それを見たという多くの人からお問い合わせをいただいています。
また、実際に登録したスタッフから周囲の人への紹介も多くあります。そのため、改めて求人広告を出すといったことはしておりません。
そして現在特に力を入れているのが、区との連携です。江戸川区では、60歳以上の方が登録している区のシルバー人材センターと関わりながらお仕事を紹介しています。今後、さらに区と連携して高齢者の方へお仕事の紹介を広めていきたいと思っています。
NHKやTBS、テレビ朝日を始め、多数のメディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)に取り上げられているかい援隊本部。詳しくは、かい援隊本部のウェブサイトをご覧ください。
——登録の仕方と登録スタッフの人数をお教えください。
菊岡:まず、元気シニアによる高齢者介護という意義に共感、賛同していただいた方に「共感登録票」に記入いただいて登録します。その人数は、2013年8月現在で約750人ですが、その中には「現在は仕事をしていて自分自身は働けないが、知り合いを積極的に紹介する」といった方も含まれています。実際にすぐにでも働きたいという方は250人ほどで、実際に働いているのは累計で220人程度となっています。これまで働いた方々、現在働いている方々の平均年齢は67.5歳です。
介護される利用者様との年齢が近いので、話が合うというのは大きなメリットです。
——いろいろなハードルがあると思いますが、どういったことがありましたか?
菊岡:これまで介護の仕事をしたことがないということで、ご本人が登録をためらわれるという課題があります。60歳をこえてから新しい分野の仕事に就くことへの抵抗や、また介護ということで不安があるのだと思います。
ただ実際のところ、ご両親の介護を経験されていたり、親戚が介護の必要があったりと、実は身近なところで接している方も多く、介護の仕事に適しているシニアの方々はたくさんいらっしゃると思っています。
——介護には専門的なスキルが必要かと思います。
その教育訓練はどうされているのでしょうか。また、介護は体力を使う場面も多いと思いますが、高齢者が対応するのは厳しいといったことはありませんか?
菊岡:専門的な介護スキルをトレーニングしてから送り出す体制はまだできていませんので、現場でできることをやりながらOJTで習得していくというスタイルを取っています。
派遣する際は、介護は初心者ではあるものの、例えば料理や掃除なら得意、といったスタッフの実情を伝え、派遣先のニーズとのマッチングを調整して送り出しています。
体力については、入浴介助やベッドへの移動といった場面では確かに体力を使いますが、それは一部のことで、調理や配膳、利用者の話し相手など、そう体力を使わなくてもできる介護はたくさんあります。シニアの方でも問題なく携われると思っています。
高橋さんの知識と経験は、おばあちゃんの知恵袋として、介護事業者や若いスタッフへのスキルアップにもつながっています。
——シニアが介護をするメリットは何でしょうか?
菊岡:介護される利用者様との年齢が近いので、共通の話題が多く、話が合うというのは大きなメリットです。「利用者様が楽しく過ごせるようになった」という声もよく聞きます。また、若いスタッフが多く働いている施設も多くありますので、そういったスタッフに高齢者の気持ちを伝えたり、人生経験を踏まえていろいろアドバイスできる点も歓迎されています。
利用者様の感謝の言葉に気持ちを豊かにされているスタッフを見ると、働くことの素晴らしさを感じます。
株式会社かい援隊本部 総務企画課 主任 菊岡翔太さん
——今後の目標、ビジョンについてお教えください。
菊岡:「かい援隊100万人構想」といいまして、2025年までに100万人の介護スタッフを整備して、介護の人手不足を解消することをミッションとしています。私たちは、形式上、人材業という形を取っていますが、本質としては、「かい援隊100万人構想」を掲げ、介護の職に就くシニアの方を増やすという社会の流れをつくることが重要だと考えています。
そのために、現在の首都圏および名古屋圏から日本全国に活動地域を拡げていくことがテーマとなります。あとは、一部介護以外の業務にも対応しているように、職域も広げて、元気なシニアの活躍の場の選択肢を増やしていくことも課題であると考えています。
最後に、これを見ている視聴者にメッセージをお願いします。
菊岡:スタッフの方々が働いている姿を見ると、心身の健康につながっていることがよくわかります。初めて介護に携わって時には辛いこともある中、利用者様の感謝の言葉に気持ちを豊かにされているスタッフを見ると、働くことの素晴らしさを感じます。私たちは、介護人材不足の解消と、高齢世代の方々への生きがい提供を同時に実現させていきます。全力でサポートしますので、働きたいと思われている方はぜひお問い合わせください。
登録スタッフの方にインタビュー
高橋孝子さん(74歳)
30年ほど、介護福祉士として仕事をしてきました。また働きたいと思って、江戸川区のシルバー人材センターに登録にいったら、たまたまそこで、かい援隊本部を紹介されました。申し込むだけ申し込んでおこうと登録をしたら、すぐに「やってもらえますか?」と連絡がありました(笑)。今は都内のデイサービスで排せつ介助や入浴介助など一通りの介護を手がけています。
収入のために働いていますが、この仕事にはやりがいを感じています。派遣先では、いろいろ教えてほしいと頼りにされている面もあるので、楽しく過ごせていますね。ただ、昔と今とでは介護のやり方が変わっている部分もあるので、こちらも勉強しながらというところもあります。
介護は体力仕事で若い人の仕事だという思い込みが施設側にあるように感じますが、若い世代は子育て等で忙しく、どうしても休みが入ってしまうのに対し、高齢者は時間に融通が効きます。まだまだ元気な60歳以上の方を活用していただければと思います。
星野富枝さん(66歳)
テレビで、かい援隊本部のことを知り、自分が呼ばれている感じがしてすぐに電話しました(笑)。たまたま会長さんが出て、説明を聞きにきてくださいというので出かけ、「60歳以上の元気な高齢者は貴重な存在だ」という言葉に感激し、その場で登録を決めました。
現在は千葉県内のデイサービスで働いています。私は介護の経験はありませんが、派遣先から私の得意な料理をつくってほしいと頼まれたので、利用者様とスタッフの計9人分をつくっています。それをやりながら、排せつ介助や入浴介助などを教えてもらい、少しずつお手伝いを始めているところです。
私は夫と息子を亡くし、現在一人暮らしです。生活の糧を得るとともに、生きがいも得られています。利用者様や施設のオーナー様などから「ありがとう」と感謝されると、うれしくなって「頑張ろう!」と思えますね。