東京まちかど通信
サロン運営と惣菜販売・配食サービスを通じて地域住民の利便と生きがいづくりに貢献
八王子市清川町の街中にある店舗を拠点に、折り紙教室や作品展示、世代間交流イベントなど様々な活動と、手づくり惣菜の販売や配食サービスを行っている「きよぴー&とまと」。活動を通じて同町を中心とする地域住民の食生活の利便と、地域の活性化に貢献しています。副代表の梅沢香代子さんと、事務局長の片貝剛さん、そして活動に参加しているメンバーにお話を伺いました。
「きよぴー&とまと」副代表の梅沢香代子さん(76歳)と、事務局長の片貝剛さん(73歳)にインタビュー
活動には、参加する人に生きがいにつながる仲間づくりをしてもらいたいという意図があります。
――まず、「きよぴー&とまと」の活動内容と目的からお教えください。
片貝:「きよぴー」とは「清川ハッピーステイション」の略称で、「とまと」は5年前から八王子市内で配食サービスを続けている団体で、「きよぴー&とまと」は、この2グループが合体し、地域の活性化に貢献する一つのボランティア団体です。
現在は、清川町の中心部にある商店街を拠点として、地域住民の世代間交流や生きがいづくりにつながる様々な活動を主催し、地域のシニア世代の主婦が中心となって手づくりの惣菜販売やお弁当の宅配を行っています。2年前に「きよぴー&とまと」のメンバーと地域の有志とで、ソフト面から地域を支える会として、隣の空き店舗に新組織「You&I」というサロンスペースを立ち上げ、地域交流の場として活動の輪を広げています。
――それぞれの活動内容について詳しくお聞かせください。
片貝:サロンスペースの「You&I」は定休日である水曜日以外の11時から16時までは喫茶店として利用でき、壁面をギャラリーとして開放していますので、絵や写真、工芸品など、皆さんの作品を展示しています。また、毎日のようにフラダンスや折り紙などの教室、映画や音楽の鑑賞会などを開いています。いろいろな催しを行っているのは、できるだけ多くの人に参加してもらえるようテーマを広げているからです。
さらに、月1回朝市を実施し、周辺の農家の新鮮な作物や手づくりのお菓子などを売っています。そして年5回、地域の子供たちを集めて川遊びや凧づくりと凧揚げ、芋掘りに出かける世代間交流活動を行っています。また、活動していく中で地域の人達から色々なニーズが寄せられるようになってきたので、新組織「You&I」は地域の要望に応えるために男性6人で「お助け隊」というチームを組みました。具体的には、一人暮らしで何かとお困りのお年寄りの家などの包丁研ぎやまな板削り、庭の草むしりや電球の取り替えといったお手伝い活動をしています。
こういった活動には、参加する人に生きがいにつながる仲間づくりをしてもらいたいという意図があります。なお、教室への参加は1回500円、ギャラリーの作品展示は1作品ごとに300円をいただいています。サロンスペースの家賃や運営費用をまかなうためです。
梅沢:惣菜店のほうは11時~17時までの時間帯で営業しています。毎日、きんぴらやひじき、唐揚げといった惣菜やいなり寿司などのお弁当を50種類ほどつくり、1パック120~150円で販売しています。当初は配食と喫茶・軽食で計画しましたが、それだけでは家賃が賄えなかったことと、ちょうど近所の惣菜屋さんが閉店して皆困っていたので、どうせお弁当をつくるのなら、と始めることにしました。
配食は、昼と夜2回、20軒のお宅に配達しています。代金は1食500円です。配食弁当の内容は、月1回メニュー会議があり、そこでメニューを決めています。しかしそれに加え、その日の担当者が自慢の一品をつくってくれます。登録している料理好きなボランティアスタッフは110人ほどおり、スタッフたちは毎日入れ替わり立ち替わりなので、「毎日違う種類の惣菜があって嬉しい」と好評ですね。それと、クッキーや生姜はちみつかりんとうなどのお菓子を企画し、メーカーにつくってもらって販売しています。
八王子産のすりおろし生姜を使った、かりんとう。
「You&I」が企画販売しているこのお菓子が、八王子の定番の手土産になることを目標にしています。
地域の人たちに恩返しをしたくなって、お弁当を宅配するボランティアを始めようと思って始めたのです。
――活動エリアと、かかわっているスタッフはどういった方々が多いのかお教えください。
片貝:清川町と隣接する町の一部、合わせて600世帯ほどが対象です。この地域の高齢化率は35%くらいでしょうか。スタッフは、サロンのほうは約10人で惣菜と配食のほうは110人です。120人ほどのうち一部は遠方から来てくれている人もいますが、ほとんどがこのエリアの住民です。70歳以上が95%ぐらいだと思います。
朝7時半から笑顔で厨房にたつボランティアスタッフ。
お客さんの「美味しい」という言葉が何よりのやりがいだとか。
――業績はどういった状況でしょうか?
片貝:全体で日販3万円程度を維持しています。そのうち7割を惣菜が占めていて、配食が2割弱といったところで十分維持できています。「きよぴー&とまと」のスタート当初は日販1万7000円程度でしたが、少しずつ増やしてきた感じですね。スタート時にメンバーから出資金を集めたのですが、3年で完済しました。
副代表の梅沢香代子さん
——では、活動を始めた経緯についてお教えください。
梅沢:私は八王子の駅前など市内で6店舗のお弁当屋さんを経営していました。60歳になった1996年の時に、ここまで店を育ててくれた地域の人たちに恩返しをしたくなって、お弁当を宅配するボランティアを始めようと思ったのです。17年前の当時は今のような配食サービスなどありませんでしたから、毎日の食事づくりに困っているお年寄りが多いことから思いついたのです。そして、子供の学校の同級生の親仲間など地域の人に声をかけたら200人以上もの人が賛同してくれました。嬉しかったですね。「私に何があっても清川の人たちが守ってくれる」とまで思えました。
そうした中で、清川町のある方から、空家になっている家があるから使ってほしいと言ってもらえたのです。こうしてボランティアで配食サービスを行う「オレンジの会」を立ち上げました。
5年ぐらいしてその空家が売却されることになり、新たな場所探しのために八王子市に掛け合ったところ、使われなくなっていた市の福利厚生施設の厨房を貸してもらえることになったのです。但し、市内の他のボランティア団体と共同でという条件つきでした。そこで、「洗い屋本舗」という食器洗いの男性ボランティアチームなどと合同で借りることにし、オレンジの会を「とまと」に改名して活動を再開しました。
ところがまた5年ぐらいしてその施設も取り壊されることになり、また自分も加齢で家の近くでやりたいと思っていたものですから、地域の仲間に相談しました。そうしたら、本間重利さん(きよぴー&とまと前代表)から「空き店舗があるからそこを借りて、せっかくなら地域の活性化に役立つような活動もしたらどうか」と言っていただいたのです。そうして本間さんにも加わっていただき「きよぴー」も立ち上げ、2006年3月に「きよぴー&とまと」ができた、というわけです。
配食サービスなどでお宅に伺うと、「あなた方がいないと生きていけない」と言ってもらえることがあります。
事務局長の片貝剛さん
——活動を始める時やスタートしてから、どういった苦労がありましたか?
梅沢:先ほども言いましたように、地域の仲間が大勢で助けてくれましたから、始めた時は大変なことなど何もなかったですよ。今は、人数が多くて情報伝達が大変だとか、シフトを組んだスタッフが来てくれないとか、食材の手配が忘れられていて慌てて買い出しに行くといったことはありますが(笑)、そんな程度です。一応、責任者をしていますが、皆が好き勝手にやりたいように動いてくれていますから、私の知らないこともたくさんありますよ(笑)。それでもちゃんと回っているから大したものだと思います。
片貝:食品を扱うので、栄養士である梅沢さんが衛生管理者となっていますし、定められた講習などはきちんと行って事故のないようにしています。「オレンジの会」が発足してから一度も事故を起こしていないのは、当たり前のことですが自慢の一つです。
——では、この活動を通じての成果ややりがいなどについてお教えください。
梅沢:奥様を亡くされた一人暮らしの男性のお年寄りが何人か、惣菜を毎日買いに来てくれているんですが、「安くて家庭の味が食べられるのが嬉しい」と言っていただいています。そんな方々がいる限り、これはやめるわけにはいかないと思いますね。また、配食は安否確認も兼ねていますので、その面でも貢献できていると思います。
私自身は、大好きな料理ができ、やはり大好きな多くの人とこうして交わえることがとっても楽しくて、生きがいを感じています。誰かの役に立つことも大切ですが、自分自身が楽しめることが何より大事ではないかと思っています。
片貝:「お助け隊」や配食サービスでお宅に伺うと、「あなた方がいないと生きていけない」と言ってもらえることがあります。地域で困っている人を地域の人が助けられているというところに意義を感じていますね。私は、毎日のようにここで活動していると、張り合いがあって若返るような気持ちがしています。
これまでの活動実績が認められ、日本財団から寄贈された軽自動車。この車で美味しいお弁当を届けています。
——今後の課題はどういったことでしょうか?
片貝:後継者をどう確保するかです。我々はもう70代半ばを過ぎているので、こうして活動できるのはあと3年ぐらいだと思っています。その間に後継者をつくらないと存続できませんので、頭を悩ませながらもいろいろと策を練っているところです。
梅沢:清川町は50年近く前に田んぼを造成してつくった住宅地で、私たちは皆その時に転居してきた同世代なんです。ですから、次の子供の世代はまだ50代の働き盛りが多く、そもそも後を継いでもらう年代の人がいないのです。ですが、やめるわけにはいかないので、片貝さんが言ってくれたとおり何とかがんばって後継者を見つけたいと考えています。
「きよぴー&とまと」参加ボランティアにインタビュー
大越 恵子(おおこし・けいこ)さん(72歳)
私は長い間、警察の青少年健全育成のボランティア活動にかかわっていました。環境も随分変化し年齢も重ね、地域の役に立つボランティアをやるのもいいと思っていました。そんな時、子供の小学校の親仲間だった梅沢さんに誘われて「とまと」に参加することにしました。お弁当を届けると、「自分が生きているのは『とまと』のおかげ」などと言ってもらえます。そんな言葉を、お弁当をつくる人にも伝えて、皆でやりがいを分け合っています。「今できる事をする」ボランティア活動から「今、必要なことを、楽しく参加しながらする」ボランティア活動になり、そのやりがいを分かち合い、ささいなことでも話せる仲間がいるのは楽しいですね。
梅沢 ゆき子(うめざわ・ゆきこ)さん(77歳)
「きよぴー&とまと」ができた時、義理の妹である梅沢香代子さんに誘ってもらいました。私も国際的なボランティア活動にかかわっていましたが、せっかくなら地域のためになることもいいかと思って参加しました。私はもっぱら惣菜の味見をして、「おいしいわよ!」と言って元気づける役です(笑)。パック詰めや販売もやりますよ。おつりを渡す時、「これでもう一品買えるわよ。これなんかとっても栄養あるわよ」などと言うと、皆買ってくれるんです(笑)。でも、本当に美味しいから自信持って売れますね。
本間 立子(ほんま・りつこ)さん(75歳)
義母の介護が必要になって退職し、空いた時間でボランティアをするようになったのです。そんな時に子供の小学校の親仲間の梅沢さんに誘われて参加しました。義母は100歳まで生きていますが、近所の仲間が次々に逝って最後は孤独になってしまったのです。「きよぴー&とまと」のメンバーはそんな高齢者の話し相手になっています。清川には一人ぼっちのお年寄りはつくらせない、という活動は素晴らしいと思いますね。
中根 政一(なかね・まさかず)さん(77歳)
私は35年ほど前に清川町に引っ越してきて、3年前に自治会の役員に就任したのですが、その頃「きよぴー&とまと」のサロンで月1回やっている、男性だけの飲み会に参加したのです。男性が自分で川魚を料理したりする会なのですが、そこで本間前代表や片貝さんに「きよぴー&とまと」に引きずり込まれました(笑)。私はもっぱら子供との世代間交流を担当しています。子供はうるさくてあまり好きじゃなくて、当初は時に頭を小突きたくなる時もありましたが、今ではすっかり可愛くなってしまいました(笑)。会社員時代は地域など見向きもしませんでしたが、こうして地域活動に参加するようになって、ようやく住民になれたように思っています。
兒玉 美也子(こだま・みやこ)さん(60歳)
10年前に清川町に転居してきました。フラダンスに興味があったので、「きよぴー&とまと」ができてサロンの教室に参加してみたところ、「一度だけでいいから手伝ってみない?」と誘われて(笑)、それから週1日だけお手伝いするようになりました。無理せず楽しく続けられています。配食スタッフが75歳を過ぎて車の運転がきつくなってきたというので、今は50代の知人を誘ってつくったチームで配達を担当しています。見守りを兼ねて、配達先のお年寄りとお話をするととても喜ばれるので、やりがいがありますね。配達チームは「ホヌ・アリーナ」という名前なのですが、「ホヌ」はハワイ語で守り神である海亀の意味です。地域のお年寄りを見守り続けたいと思って名付けました。
(取材:2013年10月18日)