東京まちかど通信
高齢者への声掛けや同好会活動などで顔見知りの輪を広げ、より暮らしやすいマンションへ
マンション居住者が住み慣れた地域で安心して心地よい生活を続けられ、高齢者になっても将来の不安を少しでも小さくするための相互協力を目指している「多摩川芙蓉ハイツシニアクラブ」。そのためのさまざまな活動に取り組んでいる会長の竹本是さんに、シニアクラブ発足の経緯から活動の詳細、そして今後の展望までお話を伺いました。
多摩川芙蓉ハイツシニアクラブ 会長 竹本是さんにインタビュー
自分の暮らすマンションという身近なところだからこそ、できることがあると思いました。
――多摩川芙蓉ハイツシニアクラブを設立された経緯を教えて下さい。
現役時代は単身赴任が多く、地域との接点もほとんどありませんでした。そのため、地域の様子を気にすることもなく過ごして来たのですが、50歳を過ぎ、退職後の長い人生と自身の高齢化について考えるようになった頃、マンションに随分と高齢者が増えていることに気づきました。そんな時、知り合いが「社会福祉士という資格取得に挑戦すれば高齢化にかかるさまざまなことを勉強できる」と教えてくれました。そこで退職後発起して資格を取得、地域の介護福祉施設の現場で学び、経験を積みました。
マンションではこの先さらに高齢化が進むことは間違いないので、資格を生かして何かできることはないか考えるようになりました。自分の暮らすマンションという身近なところならば地に足の着いた形でできることがあるだろうと思ったのです。
そのうちに、一方通行ではなく住民同士が互助的に支え合うニーズが予測できるようになり、趣味の会を通して知りあった仲間が手伝うと言ってもくれて、また、マンションの管理組合からコミュニティ形成の委託という形で、大田区高齢福祉課から老人クラブ活動助成金という金銭的支援が見通せたことで、発足を決意、2007年の秋から準備を始めて、2008年6月の第1回総会で多摩川芙蓉ハイツシニアクラブが正式に誕生しました。
――多摩川芙蓉ハイツの高齢期居住者はどれくらいいらっしゃるのですか。
大田区は、シニアクラブ会員の対象は概ね60歳以上としています。現在、多摩川芙蓉ハイツシニアクラブの会員は310人、これは大田区内にある158のシニアクラブの中でも最多となっています。会員が300人以上のシニアクラブは、私共だけです。会員数が多ければいいというものでもありませんが、高齢者のための互助的活動ですのでその輪の広がりのためにもあと40~50名の人たちの参加を希望しています。
マンションには約400戸に約1070人が居住しています。2008年のシニアクラブ発足時、65歳以上の高齢化率は推定で17%でしたが、2013年には26%に増加。さらに2018年に32%、2023年には35%まで上がると予想しています。
――多摩川芙蓉ハイツシニアクラブの目的や目標はどのようなものでしょうか。
会員相互の親睦を図り、顔見知りの広がりの中で「介護予防」、「介護支援」、「終の住まい」、「終末」に、互助的に関わることです。居住者が住み慣れた地域で普段通りの生活が続けられ、また、先の不安を少しでも少なくできるよう、互いに協力し合っていきたいと考えています。
高齢者への声掛け、同好会活動、種々の集まりなどを通して顔見知りの輪が広がり、幾分でも居住者どうしの親しみ増してきたと思っています。
――活動内容をお聞かせください。
高齢者に対する声掛け、見守り、お手伝い、小学校1年生の見守り歩き、会報・シニアクラブニュース(毎月発行)による高齢者福祉・生活情報等の提供、同好会、各種行事・講演会の開催、大田区シニア連の行事参加などが主な活動となっています。このほか、全国老人クラブ傷害保険や大田区の “キ-ホルダ-” 制度の参加推奨、手続きも行っています。
運動的な同好会のいくつかを「介護予防」の観点から立ち上げました。太極拳、卓球、散策歩き、グラウンドゴルフなどに加え、昨年は吹き矢とポールウォークの同好会もできました。みんなで集まり一緒に体を動かすことで、楽しみながら健康の増進に取り組んでいます。また、健康維持と介護予防のための健康講座や懇親会の開催なども自治会の協力を得て実施、一方で、麻雀やパソコン教室も人気です。
「介護支援」として行っている声掛け、見守り、お手伝いは、シニアクラブを象徴する活動といえるかもしれません。声掛けについては一人住まいの高齢の方や80代の老老のご夫婦など、約40名の方を個別に訪問し、話しを聞いたり様子を伺ったりしています。月に一度行われる支援会議には、蒲田西地域の包括支援センターから “見守りコーディネーター”の人も参加、必要に応じいつでも協力し合える体制を共有しています。
声掛け対象の方へは、会報や情報のチラシ等はポストに投函するのではなく直接お届けし内容によっては説明もします。新聞受けや宅配弁当、配達ものの状況に目配りもします。電気が灯るか確認することもあります。また、家に伺わなくても、エレベーターホールなど共有スペースで顔を合わせたり、ほかの方から話を聞けたりして、お変わりのないことを確認できることもあります。これはマンションや団地ならではのメリットと言えるかもしれません。
お手伝いサービスは、粗大ゴミ出しや買い物、片付け,障子張替(自治会の技術)などの生活支援です。まず1000円分のクーポン券を購入してもらい、それぞれの手伝いごとに決まっている100円単位の額をク-ポン券で支払ってもらうというものです。
「終の住まい」に関する活動としては、介護認定を受けて頂きサポ-ト体制を整え今の住まいでの生活の継続を図ったり、会報などで有料老人ホームやデイサ-ビスの紹介を行ったりしています。それらを見て問い合わせたり見学に行ったり、実際に入居された方もいます。「終末」については互助会のくらしの友社と契約、葬儀等スム-ズに応じてもらえるようお願いしています。
このほか、一昨年マンションのすぐそばにできたコンビニエンスストアには、同じ人が同じものを何度も買うといった場合など不自然な様子があればすぐに連絡をくれるように頼んでいます。その他種々の福祉施設や近隣シニアクラブとの連携も進めています。
——活動されているのはどのような方々でしょう。
「世話人」「支援員」と呼んでいる人は現在18人います。その中で声掛けを行っている支援員は私共7人と、包括支援センターからも打合せに1人加わり計8人のチ-ムです。世話人男性が11人、うち75歳以上が4~5人で、残りは75歳以下です。女性7人(支援員を含む)はいずれも70歳前後という構成です。
一人住まいのお宅へ訪問
——活動にはどのような特色があるのでしょう。
シニアクラブと管理組合、そして自治会という3つの組織がしっかり機能しつつ協力しあっています。それはこのマンションの大へんよいところだと思いますし、結果として「安全・安心」にもつながっています。シニアクラブ発足当初こそ、管理組合や自治会からは「はたしてうまくいくのかな?」とやや心配・様子見のような面があったと思いますが、今や定期的に三者会議を行い非常に協力的な体制となっています。
シニアクラブが健全にあまり無理なく継続していく方法の1つとして言えることは、新しく立ち上げた同好会が軌道に乗ってきたら、シニアクラブの手を離れて独立してもらうことがよいのではないかと思います。会長や会計といった役職を決めて、自分たちで運営してもらう、そうすることでみなさんそれぞれ工夫し頑張って下さいます。何もかもシニアクラブで抱え込んで「忙しい」と嘆いているようではいけません。また、同好会の運営をもってシニアクラブ(=老人クラブ)の主要業務と考えてしまうのも如何かと思います。
――10年近く活動を続けられて、どのような成果があったのでしょう。
声掛けや同好会活動、種々の集まりを通して顔見知りが増えたことで、声掛け活動の更なる推進や緊急の場合のサポ-ト活動体制も整ってきていると思います。お祭りや防災訓練への参加者の増加にもつながっています。また、同好会の中には近隣住民の参加も増えてきて、マンション内住民とのつながりもできています。
安否確認や避難誘導を早期に実施するため、高齢者1人暮らし世帯等の部屋の鍵を任意で預かる活動を進めようかと考えています。これまでに個人的に預かった鍵が役立ったケースもあり、いち早く部屋に入ることが救命につながる場合もあります。昨年は偶然にも2件声掛け支援による救命の活動を行い、日頃の自治会等の防災訓練と相まってその功績が認められ、今年の1月には東京消防庁主催の「第13回地域の防火防災功労賞」の優秀賞を受賞、表彰されました。
――現在の活動における問題点、そして今後対応が必要とされる課題などはどのようなものでしょうか。
介護支援活動展開のため、情報のさらなる共有化が大きな課題です。介護支援活動をコミュニティで互助的に深く入ろうとすると、必ず「個人情報の壁」にぶつかります。しかし必要な情報については取り扱いに注意を払いつつ、共有していくことが大切なこともあります。
また、組織一般みなそうだと思いますが、支援員や世話人の高いモチベーションの継続、そしてクラブ運営の無理のない発展 また、後継者の問題も取り組まなければならない課題と考えています。
リタイア後はぜひ、すぐに新たな活動を始めることをおすすめします。
――今後新たに取り組みたいことなどがありましたらお聞かせください。
声掛けをすべき人に漏れがないよう、これまで以上に心配りをしていきたいと考えています。また、近隣のシニアクラブや居住者との連携も、よりスムーズにしてゆきたいものです。
――多摩川芙蓉ハイツシニアクラブが目指す、あるいは理想とするシニアライフとは、どのようなものでしょうか。
シニアクラブとして考えるなら、「将来の不安なく住み慣れた地域でより快適に暮らせること」です。個人的には、一人の高齢者として元気ならば自由な時間を ”地域のため“ ”家族のため“ ”自分のため“ の3つに分けてそれぞれやるべきことに精を出す。何もせずに家でぼんやりしているだけでは、とても第二の人生を楽しんでいるとは言えないでしょう。人間には常に若干のストレスがあったほうがいいように思います。ストレスのない事がストレスになったりすると、どうしようもないかもしれません。
――「経験や知識を生かして地域に貢献したい」と考えているシニアの方に向けて、メッセージをお願いします。
ぜひおすすめしたいのは、退職後はいつまでものんびりせず、間髪を容れずに新たな活動を始めることです。地域に貢献したいけれど何をすればいいのかわからないという場合は、社会福祉協議会などに行ってまずはそれを探すことから初めてください。できればリタイアする前に決めておき、わくわくしながらリタイアを待つという感じがいいと思います。
ボランティアよりも趣味を作ってそれに打ち込んでみたいという人は多くいらっしゃいます。それはそれで楽しみなことです。いずれにしてもリタイア後は新しい環境に躊躇せずに飛び込みセカンドライフを積極的に楽しむ、時には努力もする、この積極さが道を新たに作ってゆくものなのでしょう。人にもよりますが、定年からの人生は、結構長いものです。
(取材:2017年2月14日)
■プロフィール
多摩川芙蓉ハイツシニアクラブ
設立/2008年6月
会長 竹本是