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    東京まちかど通信

    「元気だから働く」のではなく「働くから元気になる」シニアへ

    株式会社 高齢社 代表取締役社長 緒形憲(おがた・けん)さん 営業第一部マネージャー 中島篤(なかじま・あつし)さん 派遣スタッフ 糸川秀雄(いとかわ・ひでお)さん

    60歳以上の人のための人材派遣会社である、「株式会社高齢社」。登録者の平均年齢は69.9歳、最高齢は83歳という、シニア世代が現役時代に培ったスキルを活かして派遣先で活躍しています。代表取締役社長の緒形憲さんにユニークなビジネスモデルを支える企業理念や活動の概要を、そして営業担当者、派遣スタッフとして元気に働く方々からもお話をうかがいました。

    代表取締役社長 緒形憲さんにインタビュー

    定年後も気力・体力・知力のある方々に働く場と生きがいを提供します。

    ――高齢社が発足した経緯を教えて下さい。

    高齢社は東京ガス出身の上田研二が、60歳を過ぎた方にも活躍の場を提供すること、それによってお客様や社会にも喜ばれることを目指して、2000年に設立しました。設立当初は東京ガスOBの登録社員15名で、ガス会社やガス機器メーカーの請負事業としてスタートしました。その後、順調に事業が拡大し、現在は人材派遣事業と各種請負事業が中心となっています。私自身はもともと上田と旧知の仲で、東京ガスを退職後は栃木ガスの社長を務めていました。65歳になったときに今後の自分の人生を考え、上田に「高齢社で何かできることはありますか」と自ら打診、2014年に関係会社に入社し、2016年に現職に就きました。

    会社設立時、上田には4つのこだわりがありました。まず、一度聞いたら忘れられないユニークな社名にすること。次に、実際には1月4日になりましたが、設立年月日をミレニアムの1月1日にすること。さらに本社所在地を日本の中心である千代田区に置くこと。そして出資者は個人に限定し、決定権の確保、即断・即決・即実行のため、親会社は持たないという4つです。

    高齢社の経営理念は「定年を迎えても、気力・体力・知力のある方々に働く場と生きがいを提供する」、「働く人を大切にする『社員 ≧ 顧客 ≧ 株主』の人本主義」、「豊富な経験を活かし、顧客には高品質・低コスト・柔軟な対応力を武器に優れたサービスを提供する」、「『知恵と汗と社徳』重視の企業風土を醸成する」となっています。

    ――高齢社の特色を教えてください。

    高齢社の登録社員の条件は60歳以上75歳未満、定年制はありません。本社スタッフの場合は63歳で定年、64歳からは嘱託社員となり、70歳で定年となります。働く人の生活を優先した勤務体系や就業条件に合わせた社員就業制度などによる、働きやすい仕組みづくりも特色です。

    現場での働きぶりが認められることが、新たな登録社員の雇用につながっています。

    ――活動内容をお聞かせください。

    人材派遣事業では総務・経理などの一般職から建築士・ガス関連技術者などの専門職まで、あらゆる職種を対象に派遣を行っています。各種請負事業では、特定の業務における人員確保から教育、人員配置、労務管理までのすべてを高齢社が一括受注しています。

    ガスに関する専門職 「高圧ガス製造保安責任者」
    がLNGタンクローリーを受け入れる

    人材派遣先の就労事例としては、まず東京ガスOBの派遣を中心としたガス事業関連業務が挙げられます。具体的には、新築マンションの内覧会における設置器具の仕様説明、移転顧客のガスメーター閉栓業務、ショールーム等の受付業務、工事現場の監督・検査業務、倉庫管理業務、宿日直業務ならびに電話受付業務、制服の洗濯・アイロンかけ、LNGローリーの受け入れ立ち会い、ガス給湯器の性能(点火)試験など多岐にわたります。

    ガス関係以外の業務としては、家電修理アシスタント業務、運転代行・送迎業務、マンション管理人業務、経理・総務、事務補助業務などとなっています。

    かつては東京ガス関連事業とそれ以外の事業との比率は8:2でしたが、今では6:4になり、新規事業がどんどん増えています。これは東京ガス関連の事業が減ったわけではなく、それだけ新規が増えた結果です。登録社員のみなさんが新規事業でもいい仕事をしてくれるおかげで、お客様が「これならこちらの仕事もお願いしたい」と新たな案件を依頼してくださるようになったのです。

    運転補助業務

    貸し布団屋さんでの作業

    高齢者施設への送迎業務

    ――高齢者を雇用することで企業にはどのような利点があるのでしょうか。

    業務量のピーク・オフピークに合わせて、必要なときに必要な質・量の労働力が確保できるため、経営の効率化・円滑化が図れます。また、年金併用者の高品質な労働力を活用できるので、とてもリーズナブルです。高齢社の場合、登録社員の中には公的資格保有者や専門技術者などもいます。つまり、高齢者の雇用は企業にとって「豊かな経験に裏打ちされた高品質な労働力を、必要な期間、リーズナブルに活用できる」という大きな利点があるのです。

    ――これまでに利用企業からはどのような反響がありましたか?

    大変ご好評いただいています。派遣されるみなさんは現役時代から頑張っていた方が多く、仕事面はもちろんのこと、人間的にも素晴らしいことが高い評価につながっているのでしょう。信用が信用を生み、年商約300万円程度の創業時から、現在は登録社員900名以上、2017年度の売り上げは6億円を見込むまでに成長しました。

    高齢社の高齢者が「できる」理由の1つに、充実した教育体制が挙げられます。独自のテキストを使った基礎研修を毎月1回開催し、就業上の心構えや就業規則、安全衛生対策などを学ぶほか、外部講師による「CSビジネスマナー研修」、70歳以上の就労者を対象にした「運転適性検査」や「業務別研修会」なども行っています。また、数人で仕事を分担するワークシェアリング形式をとることで「交代できる」という安心感が生まれ、体力や精神的な負荷を軽減しています。さらに年に一度、健康診断も受診してもらい健康管理にも心配りをしています。

    健康問題と「高齢」への先入観が高齢者雇用のカギとなっています。

    ――高齢者が働く上での課題や障害はどんなことでしょう。

    まずは健康問題ですね。本人だけでなく、家族を含む日頃からの健康管理が非常に重要です。過去には持病のある方が、うっかり薬を飲み忘れたために、派遣先で倒れてしまったというケースもありました。年に一度受けてもらっている健康診断の結果は必ず提出してもらい、産業医に見てもらっています。

    登録社員と企業のマッチングの問題もあります。遠隔地での勤務は都合が悪いという方は多いですし、勤務条件がなかなか合致せずマッチングが難航することもあります。

    加えて、社会にも、高齢者の雇用を検討している企業にも、まだ「年齢」に対する先入観があるのが現実です。これは健康問題と並び、高齢者が働く上での大きな障害となっています。すべての能力は個人差がありますから、「高齢者」というだけで「仕事は無理だろう」と判断されるのは、われわれにとっても大変遺憾です。きわめて優秀な登録社員を紹介しても、残念ながら履歴書の年齢だけ見て断る企業もあります。ただ、1人でも雇用してくださった企業はその仕事ぶりを認め、2人目、3人目と雇用を増やしてくださるので、いかにして先入観を払拭するかが今後の課題ですね。

    さらに無期雇用制度や有給休暇制度、社会保険制度等、一般的な派遣社員の不平等な労働条件是正のために制定される法規が、高齢就労実態と乖離しているという問題もあります。正社員として働きたいシニアはそうそういないことを考えると、そういった法規がむしろ高齢者の就労促進の障害になってしまっているのです。

    ――今後、同業他社はますます増えると思われます。

    「高齢社は高齢者事業モデルの成功例」と捉えられることが多いため、当社には「これから創業したい、起業したい」という人が全国各地から相談にいらっしゃいます。その際、私はすべてのノウハウを伝授するようにしています。講演活動等も積極的に行い、高齢社の活動を発信するようにしています。

    今後の超高齢社会を見据えれば、「ライバルは増やしたくない」という狭い発想ではだめだと思います。むしろ高齢社に東京ガスのOBという人材の基盤があったように、今後はさまざまな業種ごとに高齢社のような人材派遣会社があってもいいのではないでしょうか。そうすれば、より多くの高齢者が現役時代のスキルを有効活用できる道が開けるはずです。

    ――「退職後も元気に働きたい」と考えているシニアの方に向けて、メッセージをお願いします。

    これから若い人はますます減少する一方、65歳以上の高齢者はさらに増加していきます。シニアがいつまでも生き生きとしていくためには、年金だけが頼りでは心許ないものです。また、定年後も社会に出て外の世界とつながりを持つことはとても重要です。気力・体力・知力が十分ある方々が、「何もすることがない」とひたすら散歩したり、図書館で時間を潰していたりするのはあまりにもったいないことです。ぜひ退職後も新たな場で仕事を通して「やりがい」「張り合い」を実感、ひいては生きがいを見つけてください。

    営業第一部マネージャー
    中島篤さん

    昭和45年、東京ガスに入社後、同社関連会社を経て、65歳で退職して高齢社に登録しました。創業者の上田が元上司だったというご縁もありました。現在は東京ガスの独身寮の運営管理と、高齢社の営業業務を兼務しています。

    寮では寮長や寮母、清掃、調理の方など4~5人のスタッフが50名ほどの居住者の生活を支えています。私はそのとりまとめ役として、快適に寮生活を送ってもらうためのサポートをしています。営業業務では、主に登録された方の面接を行うほか、新しい仕事の新規開拓を行っています。現在は8時45分から17時半までの週3日勤務で、仕事のない日は小学生の双子の孫の面倒を見る毎日です。

    高齢社は職場の雰囲気がよく、とても働きやすいですね。現場で働かれている方も人格者が多く、私のほうが助けられていると感じます。事前のマッチングを入念に行うことで、これまで企業側から「もうこの人には来てもらいたくない」と、途中で派遣を打ち切られたことは一度もありませんでした。その一方、企業側の都合で従来の契約より早く仕事が終了したり、仕事内容に係る説明の食い違いにより、実際にはかなり体力的にきつい仕事だったといったアクシデントが起こることもあります。事業が拡大すればするほどそのようなケースは出てくるので、そこをいかにフォローするかも、営業の腕の見せどころです。

    派遣先の新規開拓は大変ですが、それが仕事のやりがいにもつながっています。たとえば最初の雇用は1人だけだったのに、今では8名も雇用してくださっているお客様があります。これはひとえに派遣された方々の仕事ぶりが認められたからこそですが、そうやって信頼関係が厚くなり、その結果が数字として表れることは営業の醍醐味だと感じます。

    派遣スタッフ
    糸川秀雄さん

    東京ガスで65歳まで現役で働いていたのですが、それ以降も働き続けたいと思っていました。高齢社の存在は知っていましたし、先輩方もここで活躍されていたので、私も退職後すぐに登録しました。現在は現役時代に携わっていた床暖房の知識を生かし、新築マンションの内覧会で床暖房等の説明をしています。勤務は不定期ですが、都合が悪いときは断ることもできるので、無理なく働くことができます。

    部品・商品の出入庫管理を3人でワークシェア

    仕事のある日は内覧会の現場に朝8時には入り、17時か18時くらいまで対応します。内覧会会場は毎回異なるので、仕事の仕方もそのつど変わってきますし、ディベロッパーさんやゼネコンさんによっても違います。けれどわれわれがお客様に床暖房を中心とした説明をするということ自体は同じなので、その一番大事な部分はぶれないように気をつけています。また、システムの内容や機能は私の現役時代よりさらに進化しているので、高齢社がセッティングしてくれる勉強会や見学会に参加し、しっかり対応できるようにしています。説明を聞いたお客様が喜んでくださる顔を目の当たりにできるのは、現場ならではのやりがいですね。

    仕事をする際に心がけていることが3つあります。1つは製品の価値を高めるためにも事前準備をきちんとすること。2つ目は多くの業者の方がいる現場での要望をきちんと把握してトラブルを回避すること。そして3つ目は、われわれは高齢社の派遣スタッフとして現場に入りますが、現場にいる方は現役であろうが派遣スタッフであろうが区別しているわけではないので、お客様が求め、要望にきちんと向かい合い、満足していただける内覧会を心掛けています。加えて、東京ガスのブランド力のアピールと高齢社への信用・信頼を深める思いで取り組んでいます。今後、70歳でも75歳でも、高齢社から声が掛かるかぎり働き続けたいと思っています。

    ガス器具販売店員(右)に、ガスレンジ調理器
    の使い方や特徴を説明する営業業務

    各家庭のガス栓の点検に出発!

    (取材:2018年2月6日)

    ■プロフィール

    株式会社 高齢社

    設立/2000年1月

    代表取締役社長 緒形 憲

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