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    東京まちかど通信

    傾聴活動で高齢者の孤立を防ぐ

    ダンボの会 山田久代さん 大住恒子さん

    2002年に発足した傾聴ボランティアグループ「ダンボの会」は、外出困難な高齢者が孤立しないよう、自宅を訪問して傾聴活動を実施しています。ボランティアの多くもシニア世代のため、活動に参加することは自身の生きがいにもつながっています。具体的な活動内容や印象的なできごと、活動を通じて感じることなど、代表の山田さんはじめ、ボランティアのみなさんにお話をうかがいました。

    代表 山田久代さんにインタビュー

    高齢者の自宅を訪問し、話を聞く活動を続けています。

    ――ダンボの会の活動内容を教えてください。

    ボランティアが二人1組で一人暮らしや日中独居の高齢者の自宅を月に2回訪問し、約1時間、話を聞く傾聴活動を行っています。ほか、毎月傾聴サロンを開催したり、コロナ禍で現在はお休み中ですが、特別養護老人ホームの入居者への傾聴活動も行っています。ダンボの会で活動しているメンバーに対しては、定例会を設けて会員同士の交流を図ったり、スキルアップのための勉強会を開催するといった活動もしています。

    傾聴の対象者は地域包括ケアセンターから依頼を受ける場合もありますし、ご本人が希望されることもあります。家族と同居されている方でも日中はみんな仕事で出払い、

    一人で過ごす時間が長い方も少なくありません。また、同居しているからといって家族がゆっくり話を聞く時間や心身の余裕があるとは限りませんから、ご家族が申し込まれることもあります。

    ボランティアは、以前はリタイヤされた方がほとんどでしたが、現在はお仕事をされている方や子育て中の若い方も参加されるようになり、会の平均年齢が少し若返りました。「ダンボの会」という名称は、キャラクターの象の名前に由来しています。ダンボのように大きな耳で、いろいろな声や話を広く聞けるようにという願いを込めてつけられました。

    傾聴サロンの様子 ZOOMを用いた活動もしています

     

    ――傾聴活動でどのような効果を感じていらっしゃいますか。

    最初は拒絶されることも珍しくありませんが、何度も訪問するうちに少しずつ心を開いてくれると、昔の話をしてくれたり一緒に歌を歌ったり、笑顔も見せてくれるようになります。私たちも訪問が楽しくなりますし、利用者さんに「待っていたのよ」と言っていただけると、この活動をしていてよかったと心から思います。利用者さん宅には毎回同じメンバーが訪問するので、10数年にわたって通っているともう、家族や親戚のような感覚になりますね。利用者さんのためだけでなく、私たちもまたこの活動が生きる張り合いになっていますから、お互い様の関係だと感じています。

    私は荒川区生まれ荒川区育ちで、子どもの頃は近所にお年寄りがたくさん暮らしていて、みなさんお昼から夕方くらいまで、ずっと外でおしゃべりしていました。子どもが通るとお菓子をあげたりしているのが当たり前の日常でしたが、今ではそんな光景はすっかり見なくなりました。みなさん自宅から出なかったり、デイサービスに通ったりで、ご近所の横のつながりが希薄になってきているせいかと思いますが、本来はご近所同士のつながりが深い下町で長く暮らしてきた方たちですから、本当はおしゃべりしたり触れ合ったりしたいはずです。だから寂しい思いをされている方がたくさんいらっしゃると思うので、ダンボの会の傾聴ボランティアは、荒川区にとって重要なボランティアのひとつではないかと感じています。

    ――コロナ禍ではどんなご苦労がありましたか。

    私たちにとって大きな試練でした。人に会えない、話を聞けないという状況では、従来の活動が不可能でした。ただ、自宅を訪問できない間も何かできることはないかと考え、毎月手紙を送るようにしました。また、特別会員である東京都立大学准教授・藺牟田洋美先生によるZOOMでの講演を行いました。その後、活動を再開するとまた感染者が増えて中止してということを何度か繰り返し、最近ようやくまた定期的に訪問できるようになり、傾聴サロンも再開できました。ただ、この3年の間に施設に入られた利用者さんもいますし、亡くなった方もいらっしゃいます。ボランティア側にも変化があり、コロナ禍で活動を続けられなくなった人、転居した人もいます。双方に変化のあった3年間でした。

    1日も早くコロナ前の状況に戻すことが現在の課題です。また、メンバーのさらなる若返りも必要だと考えています。幸いなことに、傾聴ボランティアスクールはスキルアップを目指して若い方が受講されるようになっています。そういう方々が今すぐは無理だとしても、子育てや仕事が一段落したときにダンボの会に参加してくれたらうれしいですね。

    ――今後の抱負をお聞かせください。

    ダンボの会は今年20周年を迎えました。21年目はコロナ前の活動を完全に取り戻すことに加え、新しいことにも一歩踏み出し、今までとは違う新しい時間を刻んでいきたいと思っています。また、男性の利用者さんもいらっしゃるので、男性ボランティアがもっと増えて男女ペアで訪問できるような仕組みが作れたらと考えています。

    大住恒子さんにインタビュー

    利用者さんの記憶に触れることができれば大いに話してくれます。

    ――ダンボの会発足の経緯をお聞かせください。

    社会福祉協議会のボランティアセンター職員の方が、これからの高齢化社会においては傾聴が大事になるのではと考え、傾聴講座を開催されました。それに参加したメンバーの中から「傾聴する会を立ち上げよう」という話が出て、ダンボの会設立につながりました。そのため、現在も活動に参加するには傾聴ボランティアスクールを修了された方という条件があります。

    ――傾聴のコツなどはあるのでしょうか?

    ご家族とケアマネさんからの依頼で訪問したのですが、利用者さんが私たちを断固拒否して、家の中に入ることも難しいほどでした。ヘルパーさんなどの協力も得て室内に入れても「何しに来たんだ」と。そんな調子が続いていたのですが、先日、3月10日が東京大空襲だったことを思い出し、「空襲の時はどうされていましたか」と尋ねたところ、当時は疎開していたという話から始まり、その疎開先での思い出を、堰を切ったように話してくださったのです。限られたやりとりの中から利用者さんの興味がどこにあるかをキャッチすることができれば、うまく話を引き出せるという典型的な経験だったと思います。

    利用者さんは認知症の方もいらっしゃるので、午前中に訪問した際には朝食のことをすでに忘れてしまっているような状態ですが、昔の記憶は驚くほど鮮明だったりします。そういう記憶のあるところに私たちがうまく滑り込むことができたら、どんどん話してくださいます。

    ――釜石市へ手編み帽子を届ける活動について教えてください。

    東日本大震災で大きな被害を受けた友好都市として交流のあった宮城県釜石市に、毎年手編み帽子を贈っています。震災当時、現地の惨状をテレビで観ながら、私たちにできることはないだろうかという声が上がりました。傾聴活動は距離的に難しかったので、荒川区にいながら何かできないかと考えた結果、家にある使っていない毛糸を持ち寄って帽子を編み、秋になったら現地へ贈ろうということになったのです。途中からは大学と連携し、学生ボランティアの方が現地に帽子を持って行ってくれるようになりました。

    帽子は多い年には150個、少ない年は50個ほど作っています。たくさんの方が毛糸を提供してくださったので材料はたっぷりあるのですが、作り手の高齢化も進んでいるため思うように数が増やせません。それでも現地ではお子さんから高齢者の方まで性別、年齢問わずたくさんの方が私たちの帽子をかぶってくれているのは大きな喜びです。帽子を受け取った高校生の方からお礼のお手紙をいただいた時もうれしかったですね。今後もできる限り長く続けていきたいと思っています。

    福田みき子さん

    義父母と暮らす中でちょっと行き詰まり、少し家の外に目を向けたいと思い、2006年に傾聴ボランティスクールを受講したことがきっかけでダンボの会に入会しました。高齢者とお話することで自分の視野が狭くなっていたことに気づけ、義父母との関係にもいい変化がありました。何よりも年上の方のさまざまなお話を聞くのがとても楽しかったので、それが活動を続ける原動力になりました。今後も細々とでも会に貢献できればと思っています。

    三浦きみさん

    2011年にダンボの会に入って以来、月2回の傾聴ボランティアをしています。12年間同じペースで活動できていたわけではなく、家族が病気になった際は数カ月休ませてもらいました。ボランティアがないと時間に余裕ができて楽なのですが、しばらくすると「あの人お元気かな」と、利用者さんのことが気になって行きたくなります。そして訪問時にとても喜んでくださる様子を目の当たりにすると、頑張って続けてきてよかったと心から思います。

    吉田明子さん

    毎月1回開催される傾聴サロンでは、利用者さんに会場まで来ていただいて、お茶やお菓子を楽しみながら自由にお話していただきます。コロナ禍で一時ZOOMも利用しましたが、ハードルが高い方も多かったので、現在再開できてほっとしています。訪れる方はコミュニケーション力不足に悩むなど、生きづらさを感じていらっしゃる方が少なくありません。話を聞くことで、少しでも利用者さんに寄り添うことができれば幸いです。

    松本詠一さん

    傾聴ボランティアで、ギターを持参して利用者さんと一緒に演奏したことがあります。右半身が不自由になってから好きな音楽からも離れてしまっていることを会話を通して知り、ギターなら左手で弦を押さえれば演奏できるのではと考えたのです。この試みは大成功で、利用者さんが大変喜んでくださったことは忘れられない思い出です。しかもその後、「ハーモニカをやってみたい」という意欲的な言葉を聞けたこともうれしかったです。

    弘田由美子さん

    2012年にダンボの会に参加しました。その数年後、九州で暮らす母が認知症になったことがきっかけで、認知症への理解を深めるためにキャラバン・メイト養成研修を受けました。現在はダンボの会と並行して、認知症サポーターとしても活動しています。離れた母を直接サポートすることはできませんが、傾聴ボランティアやキャラバン・メイトとして、自分の暮らす地域の高齢者の方々の生活を支援し続けていきたいです。

    (取材:2023年3月7日)

    ■プロフィール

    ダンボの会

    設立/2002年

    代表 山田久代さん

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