玉川学園地区社会福祉協議会
- 地域
- 町田市
- プロボノ支援内容
- 映像印刷物(パンフレット等)
- 支援時期
- 2017年度/2020年度
- 活動カテゴリ
- 身の回り支援、介護者支援、世代間交流、アクティブシニア
経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。
・2017年度:「玉川学園地区社会福祉協議会」の主要な事業のひとつ、「玉ちゃんサービス」(住民同士による日常生活支援訪問サービス事業)の将来的な利用者増加を見据え、活動協力者を増やす必要がある。
・2020年度:「玉ちゃんサービス」利用者、協力者ともに順調に増加している一方、協力者の高齢化も進行している。
・2017年度:「玉ちゃんサービス」の理念や哲学を伝えるプロモーション映像を制作し、協力者の増員につなげる。
・2020年度:「玉ちゃんサービス」の理念や、利用者と協力者双方にとってのメリットがより伝わるよう、住民配布用のチラシをリニューアルする。
・2017年度:プロモーション映像を制作。併せてオリジナルのテーマソングとキャラクター、ロゴも制作し、以後のプロモーションに活用。
・2020年度:内外関係者へのヒアリングを元に、内容とデザインを刷新したパンフレットとチラシを制作。地区内で配布し、協力者の増加につなげた。また、ヒアリング結果を踏まえ、広報と問い合わせ対応業務に関する改善案をプロボノチームより提案。
東京都町田市のほぼ中央に位置する玉川学園地区。この一帯の町づくりは、昭和初期、玉川学園の創立と小田急電鉄玉川学園前駅の開設に伴い、丘陵地の一角が宅地として造成されたところから始まっています。戦後の復興期から昭和の終わりにかけて住民が急増し、町は拡大しましたが、斜面を覆うようにして立ち並ぶ家々、その間を縫って連なる坂道、階段などの景観は、いまなお、この辺りの元の地形の特色を伝えています。
この地区に2010年に設立された「玉川学園地区社会福祉協議会」(以下、玉川学園地区社協)は、身近な福祉課題の解決に向け、住民同士の協力によって活動する団体です。市内5カ所の地区社協のうち、当会が最も早く発足した背景には、この地区の住民が、古くから活発に地域活動を行ってきた素地もあったようです。長年にわたる住民の働きかけによって実現した、住民・行政・事業者の三者協働によるコミュニティバス、通称「玉ちゃんバス」の運行(2005年〜)は代表的な事例のひとつといえるでしょう。
玉川学園地区社協の設立当時、この地域が抱えていた課題のひとつが少子高齢化でした。子どもから高齢者までが安心して生活し続けられる環境が求められるなか、それまで各々に活動してきた16の地域福祉団体と町内会・自治会が共に発足させたのが当会です。目標としたのは、「誰でもいつでも、助けてと言える街」、「誰でもいつでも、気軽に手を差し伸べられる街」。関係が希薄になりがちな近隣の住民同士が、小さな助け合いを重ねて暮らしていける環境を育むべく、住民の多様な悩みごとの相談窓口となる「街かど・なんでも相談室」、地産野菜の販売会やニット工房といった交流の場づくり……などなど、多岐にわたる事業を展開してきました。
なかでも、2015年に始動した「玉ちゃんサービス」は、高齢の住民の日常生活に生じる不自由や困りごとに対して、心ある住民が具体的に手を差し伸べることを可能にした事業です。この活動を構成しているのは、利用者(サービスを受ける住民)・協力者(サービスに協力する住民)・コーディネーター(利用者の依頼内容を聞き取り、適任の協力者と引き合わせる住民)の三者。有償ボランティアの形で提供されるサービスの中身は、掃除、草取り、ごみ出し、散歩や買いものの付き添い、スマートフォンの操作サポートなど、いずれも特別な資格や技能を必要としないささやかな支援です。コーディネーターの一員であり、この事業の運営委員も務める小林健一さんは、「我々の活動は、行政のすき間を埋めていくようなもの。ちょっとした困りごとの手助けです」と語ります。
この「玉ちゃんサービス」に対して、これまで二度にわたって行われてきたプロボノ支援の目的は、この事業が専門業者によるサービスではなく、住民同士の“お互いさま”の関係のなかで行われるサービスであるという理念を周知すること。そして、その理念への理解を得ながら、確実に増加していく利用者のニーズに対応できるよう、協力者の参加を促すことにありました。
プロボノチームとの最初の協働は2017年度。当時の「玉ちゃんサービス」は、利用者、協力者ともに着実に増加してはいたものの、協力者の居住エリアの偏りなどにより、利用者とのマッチングに苦心するケースも生じていたそう。そこで、より多くの協力者を募るためのプロモーション映像を制作する運びとなりました。
重視されたのは、住民個人と個人が対等な関係で支え合う意義や、利用者、協力者双方の“お互いさま”の喜びを伝えること。「玉ちゃんサービス」が当初から有償ボランティアの形で行われてきた背景にも、この対等な関係を守る意図があり、「利用者が『お金を出しているのだから』と上に立つことも、協力者が『ボランティアしてあげているのだから』と上に立つこともないラインで金額を設定している」と運営委員は語ります。映像制作の一環でつくられたオリジナルソングの、「たまたま出逢えたおとなり同士 みんなで支え、みんなで助け合い、人生、苦もありゃ、楽もある」という歌詞とともに、電球の交換、ごみ出し、外出の付き添いといった具体的な活動シーンをなごやかに展開した映像は、以後の広報活動に大いに活用されてきました。
続いて2020年度、新たなプロボノチームとの協働で行われたのは、協力者の増加、なかでも現役世代の参加を視野に入れたチラシのリニューアル、パンフレットの制作でした。事前に実施した関係者へのインタビューから見えてきたのは、活動への参加を検討する住民にとって必要なのは、やりがいや喜びの声のみではなく、参加への不安を払拭できる情報ではないかということ。そこで、新規パンフレットには、具体的に想定される不安(初対面の利用者との関係、現場で求められる能力など)の解消につながるような説明、メッセージをわかりやすく記載。2017年度のプロボノチームが制作したキャッチーなロゴも活用し、ハードルの高い印象をやわらげるようなデザインに仕上げました。このパンフレットは、地区内の8000戸に配布されたチラシとともに、以後の協力者登録の増加に大いに貢献したそうです。
加えて、関係者へのインタビューで得られた声を分析したプロボノチームは、「玉ちゃんサービス」の運営業務のうち、広報と問い合わせ対応の二点に主眼をおいた業務改善提案もまとめました。「第三者の視点からの提案がありがたかった」という運営委員は、翌年、それまで明文化してこなかった利用者、協力者、コーディネーターの三者それぞれに向けたガイドブックを作成。その随所に、提案内容が盛り込まれました。
現在、8年目を迎えている「玉ちゃんサービス」。住民同士のつながりを重視し、対面での活動を基本としてきたからこそ、新型コロナウィルス感染症パンデミックによる活動の制約は避けられず、月間活動時間が30%減少する時期もあったといいます。それでも、利用者、協力者の登録人数は、事業開始以来、年々増加。プロボノチームの支援も受けながら丹念に発信してきた活動の意義が、口コミ効果とも相まって、着実に浸透してきたといえるでしょう。
4人の運営委員へのインタビューが行われた日、そのひとり、斎藤絹代さんがお茶うけとしてふるまってくれた柑橘のピールがありました。「玉ちゃんサービス」のある協力者が、庭でとれた柑橘を、継続的に支援に訪れている利用者宅への手土産としたところ、次の訪問の際、手づくりのピールとなって返ってきたのだそう。そのお裾分けが斎藤さんにも届けられた……という、この事業が培ってきた“お互いさま”の関係が昇華したようなピールで、「こういうことがあるから、この活動をやめられないんですよ」と斎藤さん。
近年、運営を効率化する目的で、利用者情報のデータベース化や、申し込み窓口としてのLINE導入など、苦手なICT化にも努めてきた「玉ちゃんサービス」。ただし、サービスの肝となる利用者・協力者のマッチング業務に関しては、「機械的にはできない、人間力でやる仕事」といい、必ずしも効率化のみを是とはしていないようです。斎藤さんは、「このピールのようなものが生まれるのは、丁寧なマッチングができているからこそ」とも語ります。今後もさらなる利用者の増加が見込まれるなか、事業拡大、効率化へと大きくかじを切るのか、従来の地道な手法とスピード感を保ち続けるのか。針路を見定めることが、将来に向けた課題のひとつです。
もうひとつ、直近の課題として運営委員からあがったのが、協力者間の活動量の偏りです。近年、掃除を中心とした継続支援(同一の協力者が継続的に支援に入ること)の依頼が増加している一方、電球の交換、粗大ごみの移動といった単発支援の依頼が伸び悩んでいるため、特定の協力者、とりわけ女性に活動が集中しているそう。「玉ちゃんサービス」の原点である「ちょっとした困りごとの手助け」の具体的な中身を改めて周知し、裾野を広げる必要を感じているといいます。
確実に進行する少子高齢化の波のなかで、地域に根差したささやかな“お互いさま”の輪を広げ、根づかせていくには何が必要か。歩みを進めながらの模索が続きます。
(2023年6月取材)