東京まちかど通信
第14走者 竹中毅さん
昨年から、高齢者に関する相談のみならず、多世代を対象にした「福祉の相談窓口」として始動。
地域住民の皆さんがいくつになっても安心して暮らしていけるよう、支援しています。
——ふだんのお仕事について教えてください。
用賀あんしんすこやかセンター(以下「センター」という。)は、世田谷区玉川地域用賀地区の高齢者等の支援を行う相談窓口(地域包括支援センター)です。平成28年7月からは「身近な福祉の相談窓口」として、まちづくりセンター、地区社会福祉協議会が事務所内に設置されました。三者が連携して、高齢者だけでなく障害のある方や子育て中の方など、多世代の幅広い相談に応じています。
センターは、介護予防ケアマネジメント、総合事業、権利擁護、認知症支援、医療と介護の連携事業、地域で支え合う仕組みづくりなど、さまざまな業務を担っています。センター長として2年半になりますが、それらの支援にあたる時、いかに地域の皆さんのお力が必要であるのかを経験してきました。そのため、民生委員協議会、町会や自治会の祭事や行事、高齢者クラブ、認知症カフェ、地域団体の各種イベントなど、さまざまな人と出会うために参加し、時には準備や片付けなどのお手伝いをさせていただきながら、地域の皆さんとの“顔の見える関係づくり”に取り組んでいます。
——現在のお仕事を始められたきっかけを教えてください。
大学時代、脳性麻痺の男性(当時32歳)に出会えたことです。彼は自分の意思とは関係なく身体が動いてしまう状態で、車いすに手足を縛られていました。初対面の時のショック、衝撃は今でも覚えています。最初はお風呂介助のボランティアでしたが、それだけでなく一緒にいろんな時間を過ごしました。
外食、買い物、映画館、水族館、コンサート、北海道旅行もしました。笑ったり、ケンカしたり、語り合ったり、悩みを聞いてもらったり、なぐさめてもらったり、女子の話しで盛り上がったり・・・いつのまにか友達でした。それに気づいた時、微力ながらも誰かの役に立てることを通して、自分が生かされているという気持ちになりました。「お互いさま」の気持ちで関係を築くことが大切だと考えるようになりました。その信念を大事にして「いろんな人と出会いたい」と思い、福祉の仕事に進むことを決めました。
——この仕事のどのようなところにやりがいを感じますか?
支援の必要な人が、さまざまな理由でそれを受け入れられず、社会や地域から孤立してしまうことがあります。そのような事態を防ぐために、まず私たちは関係をつくることから始めます。例えば「近くに来たから」と言って、何気ない理由をつくり訪問を重ねます。センターや自分のことを伝えて、安心してもらえるように努めます。そしてその人が、ようやく支援を受け入れてくれた時、なんとも言えない喜びで胸がいっぱいになります。それがやりがいになっています。さらにその後、支援の効果でその人に生きる意欲が芽生えたり笑顔が増えたりした時などにも、そんな想いがこみ上げてきます。
また、地域の課題を取り扱う場合は、民生委員や町会、自治会、地域の専門職などと連携し支援しています。その際、チームワークを発揮してよりよい支援ができた時には、感謝するとともに地域の持つ力を実感し、とても心強く誇らしい気持ちになります。
——これまでのご経験のなかで、苦い出来事や、苦労されたことはありますか?
高齢化率の高い団地で、独り暮らしの認知症高齢者が熱中症で倒れた時、住民が気づいて救急要請をしてくれました。そのおかげで命が救われました。実は、その高齢者はセンターが支援していた人でした。ようやく顔を知ってもらい会話するようになり、介護保険の申請までつなぐことができた矢先の出来事でした。私たちは住民の観察力・行動力こそが、住民の生命を救っているということを目の当たりにしたのです。この“ご近所力”によって地域が守られていることを痛感しました。そして、センターだけの見守り体制に限界を感じたのです。
——この苦い経験を通じて、高齢者の見守りにどのように取り組まれたのでしょうか。
地域の皆さんとの連携が密になるように、あらためて“顔の見える関係づくり”が必要と考えました。そこで、住民、民生委員、町会、商店組合、団地の管理組合、病院、介護保険事業者などに呼びかけて定期的に集う場を設けました。見守り活動をテーマに、その必要性や方法などについて話し合いを重ねました。そして、それぞれがつながるためのネットワークづくりに取り組みました。
また、こうした私たちの活動に自治会も応じてくれました。「住民から協力者を募ろう」という会長の提案で“見守りパトロール隊”を組織するに至りました。連絡会を定期開催したり、協力員の増員を図ったりするなど、活動のさらなる活性化のために、センターはこれからも支援していきます。
——地域福祉の担い手の方やこの仕事を目指している方へのメッセージをお願いします。
センターでは、さまざまな深刻な相談に応じています。例えば、要介護状態の母親と障害をもった息子の二人暮らしで、息子が母親のヘルパーを拒否したり、就労できず生活困窮に陥っていたりといった複合的な課題を抱えたケースは、ゴールが見えづらく長期的な支援が必要です。ひとつ進んだと思ったら、新たな問題が発生するということもあり、疲弊感や虚無感に襲われることもあります。そのため、職員には「一人で抱え込まないこと」を伝えています。センターの仲間同士で不安や悩みを語り合い、支援について皆で一緒に考えています。「一人じゃない」という安心感を抱けるチームづくりに力を入れています。私自身が職員のみんなに何度も助けられ支えられています。いつも感謝でいっぱいです。
このように「地域づくり」から「一人の住民の生命を守る」ということまで、センターの仲間たちと、地域の皆さんと一緒に取り組み、支え合い、辛さや喜びを分かち合えることこそ地域包括支援センターならではの醍醐味だと思います。
職場の方から見た竹中さん
物腰柔らかな方ですが、仕事に対して熱い思いを持っていらっしゃいます。一番大事なことは人の生命、という強い思いから、孤立死を防ぐため、早急な対応や検討を求められる場面などでリーダーシップを発揮し、皆を引っ張ってくださいます。
仕事に対して真面目で根気強く、部下の話をよく聞いてくださいます。また、地域の方々と接する時など、外に立つときらりと輝くんです。中学校で認知症サポーター講座の講師をされた時は、関西弁の寸劇を交えてお話しされ、生徒さんから大好評でした。
私はセンターの運営を受託している法人の本部に所属しており、竹中さんとは10数年の付き合いです。竹中さんがセンター長に就任される以前の印象的な出来事なのですが、デイサービスの利用者さんとの旅行中、参加者の女性の皆さんが竹中さんのブロマイドを持って歩いていたことがありました(笑)きっと、見た目のカッコよさだけでなく、人間として惹きつける何かをお持ちなのだと思います。
インタビューを終えて
年間相談件数が1万件を超えている中、センター長が中心となって、声掛けやミーティングの設定など、職員の方々が悩みを抱え込まないような体制づくりに力を入れていらっしゃるそうです。インタビューの中でも、部下思いの竹中さんのお気持ち、また職員の方々から頼りにされているご様子がよく伝わってきました。
竹中さんの職場はこちら
世田谷区用賀あんしんすこやかセンター(地域包括支援センター)
あんしんすこやかセンターは、高齢の方々が住み慣れた地域でいきいきと暮らせるように様々な支援を行うための身近な相談窓口です。平成28年7月から、高齢者に関するご相談に加え、障害のある方や子育て中の方などの身近なご相談もお受けしています。介護保険法に基づく地域包括支援センターとなりますが、世田谷区では親しみやすいように、あんしんすこやかセンターと呼んでいます。
(公開:2018年1月17日)