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    事例に学ぶ

    経験やスキルを活かしたボランティア活動=“プロボノ”との協働による
    団体の運営課題解決の事例から、協働のポイントや、支援後に生まれた変化等をご紹介します。

    参加者・利用者を増やす
    認知・理解を広げる
    オンラインツール活用

    スポーツが広げる、リハビリテーションの先の可能性を
    福祉の専門外からの視点で見出し、発信

    プールから始まった輝水会らしい、さわやかなブルーのチラシ(左が表面、右が裏面)。参加者の変化に主眼をおいたメッセージが大きく掲げられている
    この事例のポイント
    抱えていた課題

    ・2017年度:障害のある人たちに、始動したばかりのリハ・スポーツ教室に参加してもらうための広報が必要。
    ・2018年度:リハ・スポーツの拠点、地域を広げていきたいが、関係先に向けて十分な情報発信ができていない。

    プロボノ支援の内容・目的

    ・2017年度:障害者に関わる医師、ヘルパーなどを主な対象として、リハ・スポーツの意義や魅力を伝えるチラシを制作する。
    ・2018年度: 団体の理念や、リハ・スポーツ普及の意義などを関係先に明確に伝えられるよう、ウェブサイトの改善策を検討する。

    成果

    ・2017年度:リハ・スポーツ参加者の変化や、障害者本人とその家族の声に焦点を当てた、メッセージ性のあるチラシを制作。以後6年にわたり、主要な広報ツールとして活用され続けている。
    ・2018年度:現行ウェブサイトの課題や不足を、多方面へのヒアリングを通して洗い出し、団体のビジョンの実現につながる具体的な改善策を提案。のちに設立10周年のリニューアルに活かされた。

    プロボノ支援のまえ、あと、これから

    まえ
    個と個の対等な関係から始まった、障害者の社会参加を目指す活動

    2023年夏のある日、東京都世田谷区立のある施設内で行われていたのは、ボッチャ。重度脳性麻痺や、同程度の障害のある人たちのために考案されたスポーツで、白い目標球を目がけて赤と青のボールを投げたり、転がしたりして、いかに近づけるかを競います。この日の参加者は、かつて「一般社団法人輝水会」が主催するレジリエンス・スポーツ教室(障害のある人たちの自立を目的とした、ボッチャ・卓球・水泳の3種目で構成するスポーツ教室)に参加したのち、自主グループ活動に移行した3人のメンバーと、同行のヘルパー、ボランティアサポーター。「子どもであれ、ボランティアの方であれ、ここに来る方たちには、見学で終わらずにメンバーと一緒に楽しんでもらっています。惜しい! 悔しい! と皆で言い合えることが大事」と語るのは、輝水会代表の手塚由美さん。

    その言葉のとおり、参加者の間には支援する側、される側の垣根が感じられず、各々がマイペースにゲームに臨んでいる様子。それぞれに障害のある3人のメンバーも、「リハビリになりますし、結構頭も使う。自分でも元気になったなと思います」、「一時は引っ込み思案になっていましたが、別のメンバーからの誘いで参加し始めました。去年、投げ方を変えてみたら距離が出るようになりました」、「体のしびれ感はずっと残っているけれど、ここに来ると楽になります」と、主体的に参加し続けてきた意図を語ります。

    この日のボッチャの会場は、机を移動させた会議室。一定の広ささえあればプレーできる気軽さも、ボッチャの魅力だこの日のボッチャの会場は、机を移動させた会議室。一定の広ささえあればプレーできる気軽さも、ボッチャの魅力だ

     

    水泳、水中リハビリテーションの指導者として30年以上のキャリアを持つ手塚さんが、2012年に輝水会を設立した原点は、やはり水泳にありました。転機は、知人の医師を介した三嶋完治さん(現・輝水会経営委員長)との出会い。脳出血の後遺症による言語障害と片麻痺があり、社会復帰は困難といわれていた三嶋さんが、1年間の水泳トレーニングの成果を披露する場に手塚さんも呼ばれたのだそう。当時、同様に片麻痺のある人を指導していながら、水中リハビリから水泳指導へと進むことを躊躇していた手塚さんにとって、この日、4種目を泳ぎきった三嶋さんの姿は、リハビリの先に広がる可能性に目を開かされる契機となったのです。これ以降、手塚さんは三嶋さんの指導担当に就任します。

    一方、水泳とは全く別業界の事業にも関わっていた手塚さんは、あるとき、弁護士である三嶋さんにその相談を持ちかけたそう。当時、障害によって仕事や地位を失い、失意に沈んでいたという三嶋さんは、その自分にためらいなく頼みごとをする手塚さんに驚きつつ、業務を完遂。この体験を経て、社会生活への意欲を回復した三嶋さんの後押しにより、スポーツをとおして障害者の社会参加を目指す法人、輝水会が誕生したのです。「これを機に、障害のある人たちの方だけを向いていこうと決意しました。三嶋さんだけでなく、私の人生も変わったんです」と手塚さん。障害者対支援者でなく、対等な個と個としてのふたりのタッグから生まれたこの事業の精神は、今日の活動にも確かに連なっています。

    以来、脳損傷による麻痺、高次脳機能障害のある人などに向けた水中運動の指導に注力してきた輝水会は、2016年、世田谷区の助成を受け、現在のレジリエンス・スポーツ教室の原形となるリハ・スポーツ教室をスタート。「プールは、障害のある人たちにとって、入れただけで人生の変わるような場所です。装具を外して歩くこと自体、水中だからこそ可能なことですから。ただ、当事者にとってハードルの高い場所であることも事実なので、導入として誰もが楽しめるボッチャをやり、卓球をやり、十分に人間関係ができたところでプールに入りましょう、という全10回のプログラムを組みました」と手塚さん。

    輝水会がプロボノチームの支援を受けることを決めたのは、最初の10回のプログラムを完了した参加者全員が、喜びややりがいを感じ、自主活動へと移行したタイミングでした。ここから先、この新たな取り組みの意義や魅力をいかにして発信し、当事者のもとへ届けるか。その課題の解決に向け、支援のゴールは、リハ・スポーツを紹介するチラシの制作に設定されました。

    あと
    伝えるべき意義や理念を、外からの目線をとおして可視化

    輝水会がチラシの受け取り手として想定したのは、障害のある当事者よりも、その当事者に関わるヘルパーや医療関係者でした。多くの当事者は自分にスポーツが可能だとは思っておらず、チラシ一枚で参加を思い立たせることは困難であると理解していたからです。「最初にプログラムに参加したのも、それまでリハビリに意味を見出せずにいたところを、医師から背中を押されて来たような人たち。それでも、終了後には自ら手を挙げて継続してくれましたから。当事者に直に関わり、体のこともよくわかっている専門職の方たちに、プログラムを理解してもらうことが必要と考えました」と手塚さん。

    プロボノチームは、手塚さんに加え、輝水会理事(当時)の脳卒中リハビリテーション看護認定看護師にもインタビュー。情報を届ける先ともなる専門職の視点で、リハ・スポーツが障害のある人たちに及ぼす効果や現場での様子を語ってもらい、説得力を持って伝えられる切り口、文言の検討に活かしました。

    こうして完成したチラシは、プログラムの中身を簡潔に説明しつつ、「障害のある人が、自分の想像以上にできるを増やす 仲間と出会い、社会参加する」という心身両面の変化に光を当てたフレーズや、参加者自身、及び家族の生の声に厚みを持たせた構成に。手塚さんは、「プロボノとして集まったのは、それまで福祉に関わったことがないという方たちでした。だからこそ、活動のど真ん中にいる私たちには見えない、『私たちがやっていることって何?』という部分を客観視して、このような心に響く言葉を編み出していただけたのだと思う。すごいなと思いました」と振り返ります。このチラシは、6年を経たいまも、必要な情報を更新しつつ活用され続けているそう。

    プールから始まった輝水会らしい、さわやかなブルーのチラシ(左が表面、右が裏面)。参加者の変化に主眼をおいたメッセージが大きく掲げられているプールから始まった輝水会らしい、さわやかなブルーのチラシ(左が表面、右が裏面)。参加者の変化に主眼をおいたメッセージが大きく掲げられている

     

    続く2018年度には、新たなプロボノチームとの協働により、ウェブサイトの改善を検討しました。当時の輝水会は、この先、リハ・スポーツの拠点、地域を拡大することによって、障害のある人たちの自立と社会参加に寄与していくビジョンを確立しつつあったものの、医療、福祉をはじめとする多様な関係先に向けて、会の理念や存在意義を発信しきれていませんでした。そこで、プロボノチームは、会とともに当時のウェブサイトの課題や不足を洗い出すとともに、関わりのある行政やNPOの職員、医療・介護従事者、医学会、リハ・スポーツ参加者とその家族などからもヒアリングを実施。「理念の浸透」、「参加者増加」、「新規拠点増加」の三つのポイントに基づき、ビジョンの実現につながる具体的な改善案を作成しました。

    ウェブ改善プロジェクトの中間提案書の目次(上)と、三つのポイントに基づく改善具体案(下)。関係者から得られた多様な意見を、具体的な改善策に落とし込んだウェブ改善プロジェクトの中間提案書の目次(上)と、三つのポイントに基づく改善具体案(下)。関係者から得られた多様な意見を、具体的な改善策に落とし込んだ

     

    その後、会の内部で今後の組織のあり方についての議論が重ねられたため、実際のウェブサイト改善までにはブランクがあったものの、設立10周年となる2022年、大幅なリニューアルを実施。活動内容、参加方法など必要な情報にアクセスしやすいよう改善が図られたのはもちろんのこと、「機能回復をめざす『リハビリ』から こころの再起をめざす『レジリエンス』へ」という明快な理念の提示や、障害のある当事者の語りを伝える動画など、プロボノチームからの提案が随所に活かされたサイトに。輝水会とは、レジリエンス・スポーツ(旧リハ・スポーツ)とは何なのかを明確に表す発信場所となりました。

    これから
    支援する側、される側の垣根のない社会へ

    ウェブサイト改善の目的でもあった拠点の増加は、近年になって徐々に進み、現在、レジリエンス・スポーツ教室から自主グループ活動へ移行したメンバーの活動場所は、区内5カ所に。年間ののべ参加人数も、約500人(2021年度)、約1400人(2022年度)と増加中です。何より、2020年春に突如襲ったコロナ禍のなかでも、メンバーの強い希望により、施設が閉鎖された初期を除いて活動が継続されたというエピソードからは、各々のなかに培われた自発性と、この活動が生活の一部として根づいてきた足跡が感じられます。

    スポーツを用いた、制度の枠外での福祉活動をとおし、障害のある人たちの社会参加への芽を着実に育ててきた輝水会。一方で、制度の元で提供されるさまざまな障害福祉サービスは、安全性を重視するあまり、ともすれば過剰なお客さま扱いをして当事者を受け身にさせているのではないか、と手塚さんは指摘します。「私たちの活動でもそうですが、お水をどうぞ、ボールをどうぞと変にサービスし続けると、それに慣れて、腕を組んで待つようになってしまうんです。ここでは、面倒を見る人はいませんよ、でも安全な環境は整えて見守っていますよ、ということを、参加者にも、支援者にも伝え続けてきました」

    最近では、世田谷区内外の他団体から声がかかり、プログラム提供などの形で連携、協働する動きも生まれつつあり、「これからは、ボッチャを取り入れたい、水中運動をやってみたいという方たちには、どんどんコピーしてくださいという気持ちでいます」と語る手塚さん。スポーツをとおして、支援する側、される側の垣根のない、小さな地域福祉の輪が広がる未来を見据えています。

    (2023年7月取材)

    団体基本情報
    一般社団法人輝水会
    設立
    2012/平成24年7月
    代表
    手塚由美
    住所
    〒158-0083 東京都世田谷区奥沢8-30-10
    URL
    https://kisuikai.com
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