東京ホームタウンSTORY
東京ホームタウン大学講義録
人生100年時代の地域との関わり方
2019年度総括イベント「東京ホームタウン大学2020」
4限目 トークセッションレポート
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「寄せ鍋型」のワークライフバランス
父親支援のNPOでは、『寄せ鍋型のワークライフバランス』というのを、特にパパたちにおすすめしているんですが、自分の人生を天秤で考えちゃうと、トレードオフの状態になります。長時間労働して育児ができない、子どもの寝顔しか見れないお父さんがいたし、育休を取るとキャリアに傷がつく、と言う男性も相変わらずいます。パートナーの女性にも「夫は育休なんか取らずに働いて稼いで欲しい」と言う方がいました。それでお互いハッピーならいいんですが、やりたいことを我慢してそういった生活を続けていると「ライフワーク・アンバランス」が続くんですね。アンバランスっていうのは体にとってもストレスです。僕自身3年ほどそれで悩んだことがありました。そんな時にある本を読んで、人生を楽しむコツは「天秤」じゃなくて「寄せ鍋」なんだということに気づいたんです。誰しもがそうなんですよ。
皆さんもおそらく多様な鍋の中に色んな具材を実は持っています。寄せ鍋は具材の出汁がブレンドされて味わいが出てくる、つまり相乗効果が生まれるのです。パパになって育児やら地域活動をやってると日々味が変わる。これが面白いんです。逆に、仕事しかしていない人は、定年になったら家族や地域からも阻害され味気ない人生で終わってしまうじゃないでしょうか。男性のライフシフトの第一歩は子ども生まれたら育児してみる、育休を取ってみるとか、そういうことなのかもしれません。僕の場合は育児がきっかけで自分の中の価値観が変わり、寄せ鍋で行こうと思いました。子ども3人分合わせておむつ7000枚替えたんで、父親の介護もちょっとできました。「イクメン」は「ケアメン」、介護する男性にもなりやすいんです。男性は育児をやっていないと家事のハードルが高くなりがちです。
地域にも関わるようになってさらに寄せ鍋の良さを実感できました。僕が今一番楽しいのは地域の保育園や図書館で行う絵本ライブです。育児中に娘に6000冊の絵本を読んだ経験と趣味のバンドが結びついて、有名な絵本に曲をつけて、子どもたちの前でギターで演奏する活動を15年やっています。僕にとっては文京区がホームタウンですが、この活動は全国の様々な拠点でやってきたので、自分の子どもが各地にいるような気分です。
こういった「趣味を活かした活動がお勧めですよ」っていうと、たいてい「そんな時間ありません」と返されます。僕も最初は面倒でしたが、コツがわかってきました。それは仕事も育児も地域活動も全て7掛けくらいのチカラでやるということです。
真面目な人は仕事でも育児でも完璧を目指してしまって、時間と体力の配分が偏ってしまい、ほかのことができない。でも、7掛けくらいの気持ちとパワーでやれば、空いた時間でインプットも増えるし、思わぬ人との出会いとか、つまり「無形資産」と出会うような機会が増えるんじゃないかと思います。どうでしょう?皆さんの寄せ鍋には、今どんな具材が、どれくらいの配分で入ってますか?そこにどんな具材が増えると、鍋はどういう味になりますか?それを考えて自分で鍋奉行になって調理してみる。これがライフシフトの醍醐味です。
ロールモデルをいかに見つけるか
僕らは、ライフシフトのロールモデルとなる人を「ライフシフター」と呼んで、全国で70~80人ほどにインタビューしました。自分の基軸に合わせて、人生を選択し、楽しんでいる人です。キャリアでは転職、起業、NPO、地方創生などキーワードでジャンル分けすると様々ありますが、親から継いだ家業をリメイクすることにしたという人、クラウドファンディングで思わぬ効果を出した人、移住や世界一周をしながら仕事している人など、色々な方がいます。
あとはライフ、自分事においても色んなチャンスがあります。僕は育児でしたが、介護や里親になったことがキッカケだったという人も。また離婚とか病気は目指すものではないんですが、そういった一見ネガティブなことをキッカケに人生が変わったという人に僕は結構会っています。ピンチがチャンスに変わることもあるんです。
ライフシフトをするときの4つの法則というのがあります。
1.色んなステージを必ず通る、2.仲間と交わる、3.自分の価値軸に気づく、4.変身資産を活かす。なかでも3は大事です。自分が一番こだわるテーマ、ポイント、そういうものを見つけてほしいと思います。
生き方がどんどん「単一選択型」から「寄せ鍋型」に変わっていくなかで、自分に残された時間を何に使うか。人生100年って計算すると876,000時間なんですよ。僕の場合、今年で58歳ですから、残された時間は390,000時間くらい。ただ残念ながら1日の1/4くらいは寝ているので、実際活動できるのは230,000時間くらい。できれば、この時間を慈しみながら豊かに過ごしたいと思います。
そのためには、これからも「寄せ鍋」をし続けて行きたいと思います。おいしい寄せ鍋は、新しい人が、新しい具材をもって食べに来てくれるんです。そして具材が投入されるとまた新しい味わいがでてくる。転がり続けるライフシフト、楽しいと思いませんか?
だから僕は、生きている間色んな変化をしながら、色んな事をやりたいと思います。是非皆さんもいい出汁の効いた寄せ鍋を作ってみてください。
最後に、まとめとして3つポイントをお伝えします。
1つ目は、「時間という貴重な資源を何に使うか」。今日の暮らしや今日の仕事、とかではなくて、子育てがひと段落した後、自分の老後とかのことです。100年を楽しく生きたいのだとしたら、そのために今の時間を何に使うのか?ということです。
2つ目は、「重要な他者に出会うこと」。自分の人生を少し変えてくれる、羅針盤を示してくれるような人。家庭や職場ではなく、サードプレイス(第三の場所)にいたりします。
3つ目は、「10代の自分に返って、好きなこと、得意なことで生きていく」ということ。何をすれば分からない、という人におすすめです。10代の頃はピュアなのでやりたくないことはあまりやっていなかったですよね。大人になってまでも自分探しをやっている人にもたぶん10代で夢中になったものの1つくらいあるでしょう?なぜ自分がそれを好きだったのかを思い出してみると、それが実は現在の自分のテーマやそもそも得意なことに繋がっていたりします。「あれは若かったから」じゃなく、もう一度に夢中になってみると、その先の道が見えてくるかもしれません。
トークセッション
4名のゲストを招き、「人生100年時代における地域との関わり方」をテーマに、安藤さんと共にお話を伺いました。
① 笹はるみさん
「三井住友信託銀行経営企画部サステナビリティ推進室に所属しています。気候変動や超高齢社会など様々な社会の変化に対し、信託銀行の本業のなかでどう解決していくか、ということを日々考える仕事をしています。」
➁ 三塚義治さん
「メーカーで30年以上営業をし、10年ほど海外勤務もしていました。今は会社の寮と社宅の管理をしています。プロボノを初めて3年、4つのプロジェクトに参加しました。」
③ 松尾陽子さん
「目黒区社会福祉協議会の包括支援センターで看護師をしています。直接看護にあたるのではなく、介護予防や地域づくりなどに携わらせていただいています。」
④ 飯田公也さん
「国立市の社会福祉協議会(民間の社会福祉法人)でコミュニティソーシャルワーカーをしています。世代、性別は問わず、すべての住民の皆さんと関わり、福祉やまちづくりの応援団的な活動、問題を抱えている方たちの個別支援等を行っています。」
――まずは、企業にお勤めのお2人への質問です。人生100年時代といわれてしばらく経ちま
すが、そういった機運を感じることはありますか?
笹さん:私は現在、2019年4月に立ち上がった「人生100年応援部」という部署も兼務しています。まさにど真ん中です。ですが、社内のメンバーに「どう思う?」と聞いてみると、若手の社員には「自分からは遠くって想像つかない」と正直な答えが返ってくることもあります。やはり推進しようとしている組織の中でもまだ埋めなければならない温度差がありますし、それは当社に限らないのかなということは実感しています。
三塚さん:私も周囲の人に聞いてみたのですけが、あまり「人生100年時代」という軸で考えている人はいなくて、「まあ、80歳くらいまでは生きるだろう」と言っています。私は来年還暦なんですが、健康寿命としては70歳くらいまでは元気なんだろうと思っています。仕事を65歳くらいまでするとして、定年後になにかしようと思っても楽しむ時間としてはあまりないのかなと。であれば、今のうちから楽しんで、色んな事をした方がいいんじゃないかと思っています。
安藤さん:でもこれから100歳くらいまで、多くの人が生きることになるんですよね。その時になにかに依存したり、受動的でいたりするよりは、自分でアクセル踏んで楽しいドライブが出来た方がいいですよね。
――参加者からの質問です。「ライフシフトをしようと思ったきっかけは何ですか? なぜそう思ったのですか? この後どんな行動をしたのですか?(60代前半 おっきーさん)」
三塚さん:先ほど80歳くらいまでかなという話をしましたが、そうは言っても長生きするかもしれないというなかで、自分と違う会社の人とは何ができるのだろうか、会社で今まで培ってきたスキルとか経験は違う分野でも活かせるのかな、と思ったときに「プロボノ」というものを聞きたのがライフシフトのきっかけです。他の会社の人や他の年代の人と一緒にプロボノのプロジェクトをするなかで、自分のスキルも役に立つことが分かりました。それだけでも私にとっては収穫でした。
安藤さん:三塚さんの会社は副業を認めているんですか?
三塚さん:副業は認めてないですが、プロボノはボランティアなので問題ありません。
笹さん:私はまだ、ライフシフトしきれてはいないんですけれども、今準備中です。50代になって55歳以降の自分をイメージした時に、さらにそれ以降の自分をどうデザインしていけばよいかと考えていました。そんな折、ちょうど1年前にこの「東京ホームタウン大学」と出会い、プロボノにも参加をしたんですが、やはり人生の選択肢は多い方がいいんじゃないか、と思いました。転職をしたことがない私としては、今自分が理解している自分が本当の自分なのか、今の自分が一番生き生きしている姿なのか、ということに不安もありました。プロボノのような形で色々なものに参加をし、違う自分を試してみるというのは、自分の今後の選択肢を増やすことに繋がるんじゃないかなと感じました。
安藤さん:僕の周りの50代の女性たちにも、「学びなおし」と言って、大学で学んだり、日本の伝統芸能を学んだり、外国語を学んだりしている人を多く見かけます。女性が一般的に、というわけではないんですが、とても勉強熱心で、そこからまた新しい自分を見つけ出していくという方が多く、素敵な生き方だなと思います。
――中間支援組織として地域に関わっていらっしゃるお2人へ質問です。地域には、どういった困りごと、ニーズがあるのでしょうか。
松尾さん:地域包括支援センターでは、主に65歳以上の高齢者の方を対象にしています。私が考えているのは、今、高齢者の方が暮らしやすい地域がつくれないと、結局10年後20年後に私たちも同じ思いをするということです。
どこの地域にもある課題として、高齢者がお家に引きこもってしまうというのがあります。これは、地域に居所がない、集まる場所がないからです。足腰が弱って外出が難しくてしまうといった問題もあるのですが、こういったことは、若い時には想像がつかないことですよね。
障害についても同じ問題なのですが、自分が当事者になった時に、何ができなくなるか、何が困るかというのを想像するのは難しい。
地域包括支援センターでの私たちの仕事は若い人に向けたものではないのですが、「高齢になるとこういった問題が起きて、こういうことで困っていくんだ」というのを翻訳して伝えていくのも、これから大事な役目かなと思っています。
飯田さん:私は、地域の活動の応援団として団体さんと関わっていますが、やはり多く聞くのは、活動の担い手が根本的に不足しているということ。活動をする人が固定されてしまっている。70代や80代の方ばかりで活動場所に行くだけでもやっと、という声が多いのかなと。
特に若い世代を取り込みたい、という話をよく聞くのですが、現状としては、なかなか新しい風が吹かないという悩みがあります。
一方で地域住民の50代や60代の方に個別に聞くと、生活が自宅と会社の往復のみで、地域に知り合いがほとんどいない、あるいはまったくいないと言います。定年を迎えて時間ができても、地域のことを知らないので不安だと。なので潜在的には、「地域のために何かやってみたい」という思いをお持ちの方は結構いるのではないかな?という印象を受けています。
安藤さん:そうですね。今の60代70代、特に男性は、団塊の世代、企業戦士と言われていた人たちなので、若い頃にまったく地域とつながっていないという人が多いですよね。だからファザーリング・ジャパンの活動のなかで父親たちに“子どもは地域へのパスポート”と言って、地域活動へのコミットを薦めています。僕も小学校のPTA会長を2年やりました。それによって手に入れた無形資産はたくさんあります。一番良かったのは、女性活躍のマネジメント。PTAにはお父さんが少なくて、お母さん方がたくさんいます。ここでマネジメントに成功すれば、会社なんて楽勝なんですよ(笑)。会社では似たような価値観の人が同じ言語、目的で動いていますが、PTAは多様性のるつぼ、ダイバーシティなんです。あと経営も学べますよね。予算をどう上手く使って子どもたちをハッピーにできるか。だから「MBA」より「PTA」って僕らは言っています。
会社の会長職には中々なれないけど、PTA会長は手を挙げればなれる。報酬はもらえないんだけれども、リターンは子どもたちやママたちの笑顔ですよね。
子どもをパスポートにして、地域デビューして、つながりを作っておくと、例え今まで縁が無かった地域でも、仲間がたくさんできます。子どもいなくても、自治会とか、趣味を活かした活動とかで地域に参加しておくと、後々無形資産が貯まるかなと思います。
あと、「高齢者」という言葉がネガティブなイメージで捉えられがちですが、年齢や能力って人から規定されるものじゃないですよね。自分でどう思うか。そもそも定年制なんてアメリカでは憲法違反です。年齢によって仕事を奪ってはいけない。定年もそう。まだまだ働けるのに60歳でお疲れさまって、どういうことかな?と思いますよね。
松尾さん:高齢者の介護をしている方に向けて「介護者の会」というものが各市区町村必ずあると思うのですけれど、そういう所で繋がっている50代や60代の方もたくさんいらっしゃいますよね。これからは、高齢者がパスポートになって、介護世代の方が地域デビューするのも良いのではと思います。いずれ自分も高齢者になりますが、体はいつか必ず弱っていくもの。「介護」という言葉についても、ネガティブなイメージじゃなく、そういった捉え方をしてもらえたら良いなと思います。
安藤さん:関西の方では「ケアメンプロジェクト」というもの活動もあります。介護者のコミュニティですが、サービスを享受するんじゃなくて、当事者たちが主体となって支え合いながらサービスを回していく。その方が楽しいし、元気を取り戻せるかもしれないですよね。
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