東京ホームタウンSTORY
地域包括ケア×プロボノセミナー
開催レポート
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(3)【稲城市】「介護予防事業と住民の自主グループ活動の理想的なパートナーシップとは?」
稲城市矢野口地区介護予防ラジオ体操会 安西 ハツヱさん
稲城市高齢福祉課地域支援係 森橋 真紀さん
稲城市地域包括支援センターやのくち 渡邉 直子さん
10年間続けてきた転倒骨折予防教室の自主的取り組み
森橋さん)稲城市は東京都心の新宿から西南25キロに位置しています。梨、ぶどうの名産地でよみうりランドがあります。
稲城市では2002(平成14)年から東邦大学医学部の先生とともに、地域展開型転倒予防教室のモデル事業に着手しており、転ばない、寝たきりにならない住民主体の活動が始まっていました。こうした背景もあって地域の基盤づくりを早い段階から進めることができたと思います。転倒予防教室は、参加者が集まったら1回1時間半、全10回のコースの中でセラバンドを使って下肢の筋トレなどを行います。その後は、コースの参加のみで終わる場合とこのまま終わるのがもったいないということで自主グループ化していくケースがあります。サブリーダーを養成したり、市で配布しているビデオやパンフレットを見たりして体操を継続されているケースもあります。
その他、市としては体操講師を派遣してプログラムの見直しを行ったり、体力測定を受けて頂いて下肢の筋力測定後、その方のレベルにあったセラバンドを1年に1度お渡ししてモチベーションアップして頂くような取り組みをしていました。
安西さん)私自身、稲城で生まれ育ちました。多摩ニュータウンの開発後は人口が増えている地域です。小学校の教室を増設するくらい子どもが増えていて、よそとは違う現象ですが、昔から梨や米など農業主体の地域ということもあって、地域の繫がりは濃くて強いものがありました。そこに今、新しい住民の方が増えてくる中で、旧住民と新住民の分かれ目ができつつあり、それを心配しながらPTAをやったり社会福祉協議会のボランティアをやったりしながら、両方の繫がりをよく考えている一人でした。
転倒骨折のモデル事業をやると聞いた時に、かつてPTAを一緒にやってきた人が60代、70代の人達を繋ぎ直して支えあうような地域にしていこうと思いました。自分もそこに当事者として入るわけですから、体操教室を続けるというだけではなく、教室を地域づくりの1つの核として考えたわけです。そういうことを積極的に一緒にやってみようか、という仲間を集めコースを受けました。市はせっかくいいことをなさっているのに、コースが終わった後に受講者がもう1つ教室を作ることを応援する手だてとか、継続に向けた支援にはあまり積極的ではなかったんですね。行政は担当者が変わるとトーンダウンしたり、地域の中で自主的に進め始めていることは自主活動なので自主でやってくださいと。私からも市の方に矢野口を転倒骨折予防教室の重点地域にするとか、モデル地域にしてください、ちゃんとやりますから、と言いましたが煙たがられたかもしれません。10年間ずっと続けて、最終的には150人が5つに分かれて週1回ずっと休まずに現在もやっています。
部屋の中で椅子に座ってストレッチや筋トレをするというのは女性には合っているのですが、男性にこの中にどうぞ、といっても入れないですね。そのことをよくわかっていながら解決策を考えないのはまずいということになりました。この頃に地域包括支援センターがサポートして下さるようになって、連絡会を形成しどうやって男性が参加できるようにするか、包括の方も入って会議らしい会議を繰り返すようになっていきました。市が主催する介護予防大会にはずっと参加していましたが、介護予防大会が市から地区におりてきたタイミングで、老人会など元気なお年寄りが集まってみませんか?ということにしました。
矢野口の介護予防大会の第一回と第二回は芋煮会をしましたが、体操をしている人が一堂に会してこんなに大勢が体操をしているということがわかったし、地理的に平坦でコンビニもスーパーもあって矢野口は年をとっても暮らしやすいよねということを確認できました。その辺りからラジオ体操をやってみない?という話になり、ラジオ体操を取り入れるようになりました。この時も市からも援助は一切なかったので全国ラジオ体操連絡会の事務局に指導員を派遣してもらい2015(平成27)年4月からラジオ体操をスタートしました。男性が近所の方と話す機会になるだろうからなるべく家の近くに会場を作ろうと4カ所場所を設けました。ラジオ体操は、小学校の校庭で朝6時半から始まりますが、男性は始まる前の10分くらい色々な話をしていて、30人くらいの参加者のうち13人くらいが男性です。
プロボノにより、初めて自分たちの活動を客観的に評価
プロボノについては、私達が色々聞かれることに耐えられるかしらとか不安はたくさんあったのですが、プロボノの皆さんが上手に聞いて下さいました。10年続けてくる中で、市とのやり取りや小学校利用にも色々と壁があってたくさんの障がいを乗り越えて来ているのですが、他に話すところがありませんでした。室内の転倒骨折予防教室とラジオ体操をあわせると定期的に運動している人が200名超で何か絶対成果はあるはずと思っていても説明できる手段を持っていませんでした。プロボノさんの事業評価を受けて「地域の中で元気を作っていることの証明」と「古くからの地縁型コミュニティと、体操などのテーマ型コミュニティが上手に相まって、地域包括支援センターの細かいサポートも受けながら新しいコミュニティができあがっています」という評価をもらいました。古いコミュニティで生まれた私が新しいコミュニティ作りに関わっているというのはなんとも不思議ですが、自分達を評価する報告をされた時は言葉も出なかったです。事業評価を受ける、すなわち、私たちの活動を事業として見て頂いたということは非常に新しい展望です。地域包括ケアシステムも人の繫がりから始まると思っています。行政の方には形作りから始まってしまわないで、地域の地べたを這うような地道な広がりだったり、地域の人の繫がりをひとつずつ紡いでいくような活動について、プロボノさんの評価を参考に見直して欲しいと思います。
―― 事業評価の中で、地域で元気を作っている証明とは具体的にどういうことですか?活動が数字や目に見える形で評価された部分はありましたか?
安西さん)稲城市の介護認定率が出ているのですが矢野口地域は市の平均より低くまた、認定率が上がらない状態がずっと続いていることがプロボノさんに証明いただいて初めてわかりました。一人暮らしも多く、高齢者人口は稲城市の中でも決して少なくないが、その中で要介護者が少なくおさえられていることがわかりました。矢野口のお年寄りは元気よね、とは言われていて確かにみんな明るいし、そうだと思います。でも、家から出ていない人もいるのは確かで包括や社協の力を借りて、高齢であってもある程度家から出る人は自分達の元気づくりの試みによって繋げて一緒に暮らしていきたいと思っています。
―― 男性がラジオ体操に参加したことで他にも効果があったと伺っています。具体的にどういうことですか?
安西さん)回収率100パーセントのアンケートをとっていただいて、よく出てくる言葉を表にしてくださいました。
「朝の空気がきれいで気持ちがいい」「1日のリズムが取りやすい」「食事がおいしい」「朝から元気におはようと言えて気持ちいい」という表現があったり、奥さん同士は仲良くなかったのに、ご主人がラジオ体操に出て話したことをきっかけに、初めて70歳近くになって地域に出て来たということもありました。ラジオ体操によって体力が向上することと共に、もう70歳を超えた人が新しいことに気づいて、人と会っておしゃべりが続いたり、老人会や吹き矢の会など他の活動にも行くようになりました。ラジオ体操をきっかけとして複合的な効果が出ていることはお伝えしたいと思います。
―― ラジオ体操に参加した男性の7割が、新しい他の活動に参加したとの結果が出たと伺っています。今回のプロジェクトをご覧になっていた渡邉さんからみてプロジェクトはいかがでしたか?
渡邉さん)プロボノさんの支援を受けるとなった時、地域の自主グループは地域包括支援センターがみているので、外から来た人が何をしてくれるのだろう、と思っていました。でも、関係者へのヒアリングから今回の目標を決め、どういった形で地域に入りますよ、という提案が「全然違うな」と思いました。企業の課題解決に向けた問題設定の仕方というか、私達が寄り添い過ぎてみえなかった部分があったと、最初のミーティングで感動しました。ヒアリングをする際も、どんどん深めて答えを引き出すヒアリングの方法やコミュニケーションのしかた、パワーポイントの作り方、発表のしかたなど色々と勉強になりました。
司会)プロボノのサポートを受けて、事業が認められた、とおっしゃっていましたが、今後について何かお考えのことはありますか?
安西さん)お金がないのでラジオを買ったりするのも社協の援助を受けていました。自主グループの場合は、社協なのか、市の高齢者福祉課なのか、頭がどこに繋がっているのかがはっきりしないので、なかなか助成金などを頂きにくい。今回、非常にいい報告書をいただいたので、これをパンフレットにしたりどう報告していったらいいかを考えていきたいと思います。
―― 今回の事業評価を受けて今後の市の施策に関連することで何かお考えのことはありますか?
森橋さん)転倒骨折予防の自主グループの核になる人は地域のリーダーの方達でいろんなところに顔を出されている、稲城市内においても群を抜いて活動的な皆さまです。これまで適切に評価できなかった理由の1つには時間がない。そして、役所の中でも自主グループに対する認識について温度差があることも事実です。私個人は自主グループが繋がっていくことで地域全体が元気になるとは思っていますが、今回プロボノさんの提案を聞いて、外から適正に評価してもらうことの重要さを感じました。と同時に地域の方も長年の取り組みが評価されたことで元気をうけたと思います。行政がすべて評価していくのか、住民主体のボトムアップの活動に地域行政が関わっていくのか。
研修に行くと黒子になれと言われるのですが具体的にどうすればよいのかわからないところもあるのですが、地域行政と住民の方が同じところに向かうことは忘れてはいけないと思います。行政担当者として安西さんと関わり、声を聞いて、セラバンドの配布や、体操紹介をしているのだが、市は何もやってないと言われる、など葛藤もあります。自分は地域との接点があってよく現場がわかりますが、役所内では一つひとつ説明していかなければならないということもあり、市の課題も今後整理されていけばと思います。
質疑応答
Q:既存のサービスとして社協、シルバー人材センターのサービスと重複があると思います。風のやすみばさんのメリットとしては①手続きが簡単②サービスの柔軟性が高い③顔のみえる関係につながっていく等があると思います。逆にそうしたメリットについて、社協、シルバー人材センター、文京区の関係課ではどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか? 今後同様のサービスについて横断的に再構築していく方向性はありでしょうか?
風のやすみば・加藤さん)ある団地でやった時に質問がきました、「誰がくるの?」と。町会のたとえば「防災訓練をやった時にいた人が来ます」そういう書き方です。何でもやりますよ、というのは一緒ですが、エリア制が違う。頼んでいる人は全く別としてとらえていると思います。
文社協・上村さん)千石に住んでいる方であれば、地域で繋がった方がよいので、風のやすみばさんをご紹介します。また、逆に千石に住んでいない方でもご近所同士ではないことを希望される方など、さまざまな理由で、風のやすみばさんにお願いすることもあります。
Q:たまりば・とうしんの運営資金はどのようにして集めていますか?
たまりば・とうしん 佐々木さん)十何年間続いている区の委託事業に関わってくれる人が、最低賃金で関わってくれているので、その収支差額が若干でていて、たまりば・とうしんの赤字を補てんしています。委託事業離れをもくろんでいて、1年おいた来年のプロボノのミッションは、自主・独立の命題として決まっておりますので、ぜひまたよろしくお願いします。
Q:稲城市矢野口地区ラジオ体操会の活動、非常に感動しました。転倒骨折予防教室から自主グループ化したグループは安西さんの他に何グループくらいおられますか?
地域包括支援センターやのくち・渡邉さん)今、27グループあります。
矢野口地区介護予防ラジオ体操会・安西さん)市が毎年10回の体操教室の講習を続けているから、増えてはいます。ただ、教室はポツンポツンとできていますが、地域展開型の事業と言いながらさきほども話したようにできていないと思います。
Q:プロボノは企業に所属する個人ですが、企業として地域包括ケア×プロボノに参画してもらう必要性は感じていますか? CSR活動や人材育成の観点からは企業がプロボノを取り入れている話は聞きますが、もっとこういうスタンスで参画してほしいというご意見があれば伺いたいです。
事務局)CSRであれ人材育成であれ、企業が地域包括ケアに関心を持ち、プロボノとして関わることについては、基本的に大歓迎だと思います。さらにあるとすれば、地域包括ケアが広がることによって、新たな商品やサービスが求められてくることが予測されるため、意欲的な企業であれば、新事業開発の一環として地域包括ケアに注目することができるのではないでしょうか。いずれの場合も、地域と関わる際に企業の皆さんに注意していただきたいのは、地域と関わることを目的化してしまうあまり、関わった地域にきちんとした成果を残すこと、地域側にメリットのあるサポートを生み出すことを忘れてしまわないことではないかと思います。
Q:利益志向の企業で働く人がそのスキルを生かし、社会貢献活動をされているのは素晴らしいことだと感銘しました。このようなプロボノの取り組みが社会を変える原動力になると感じました。プロボノプロジェクト提案後、進行状況、評価をどのようにフォローされていますか?
事務局)プロボノプロジェクトの終了直後に、まずはプロジェクトの状況を振り返ってアンケートを実施し、直後の満足度や、進行中の課題・改善点等を把握します。そのうえで、プロジェクト終了後半年~1年後に、プロボノメンバーに呼びかけ、支援先を訪問していただいています。プロボノの場合、終了直後よりも、終了してからしばらく経過してからの方が、支援の成果が現れている可能性が高いこと、また、チームも、支援先の団体さんがその後どうなったか気になっている人も多く、こうした取り組みが効果的です。
Q:プロボノのプロジェクトを終えた後も引き続き、同じ団体を支援し続けますか? それとも他の団体を支援する別のプロボノに参加されますか? NPO団体の方としてはどちらが有り難いですか?
プロボノワーカー・岡田さん)個人的には、継続的に新しいプロジェクトに関わらせて頂きたいと思っています。事業計画を出して、その後は気になっていて、3カ月後、6カ月後、見に行かせていただいている状態です。
プロボノワーカー・北場さん)回答は同じです。私たちもどういう風になったのか見たいと思いますし、色々なプロボノのアンケートをとっていると、社会的インパクトに寄与できたと感じた人が関わり続けています。
Q:企業人の一員として地域に関わってみて、ご自身のお住まいの地域への参加への意識など変わったことはありますか?
プロボノワーカー・北場さん)マンションの理事会に入ったり、PTAに積極的に参加するようになりました。コミュニティづくりに抵抗がなくなったかなと思います。
Q:互助を伸ばすときに共助はどうあるべきか? 行政はどのようにサポートすべきか、どのような考えがあるか、聞いてみたい。
たまりば・とうしん 佐々木さん)後援、協賛をぼんぼんやってください。そして重要なのは後援、協賛した活動について評価してください。また、会場提供、空きスペースの貸し出しをどんどんしてほしいです。行政の中には専門職がたくさんいますから、無償で講師派遣をしてください。
風のやすみば 加藤さん)私の考えは違うと思うのです。行政とはかなり付き合いがあるので、考え方を感じていますが、これをやる時にエリアが違う、国にしても区レベルにしても大きいところから小さいところへ網の目をやっていきます。こちらはもっと小さいところ、まさに目の前にいる人をなんとかしようと思っているので、お互い一緒にできると思っていない、あんまり求めない。皮肉でもなく切り口が違っている。あんまり協力を意識していません。
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