東京ホームタウンSTORY
支援先レポート
地域の課題発見にもつながる
子ども食堂の「続けかた」とは
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「このがらんとした家で、子どもの支援をやったら」
山田 7年前、私は60歳で会社を辞めることにしました。かみさんのパン屋は国産小麦、天然酵母のパンで、テレビの取材が来るなど、それなりに繁盛していました。「あなたの小遣いなら払えるわよ」と言われて、スタッフに入れてもらおうと思っていたんです。
ところが、そういうイメージをしていた矢先に、かみさんが、がんだということが分かってね、6か月後に亡くなってしまいました。予定が白紙になってしまい「何をしたらいいの?」ということになってね。
会社も辞められた後で。
山田 うちは二階建ての一軒家です。パン屋を閉めて「どうしてこれから生きていこうか」。そんな時期がありましたね。しかも、近所に息子夫婦が住んでいたのですが、東日本大震災の後に、関西に移住したんです。
一人になってしまった。うつのような状態でした。そんなとき、子どもの貧困問題をやっている団体の方が訪ねてきました。かみさんのパン教室の生徒さんだった人です。その人が「このがらんとした家を使って、子どものことをやったら」と勧めてくれました。
日本では生死を左右するような“絶対的な貧困”は少ないものの、全世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した「等価可処分所得」の中央値の半分に満たない、“相対的貧困”の状態にある子どもが6人に1人いる、と知ったのもこのときです。
飲食の営業許可を取り、家も改装
山田 子どもの貧困に対しては、いろいろな取り組みがあるようでした。無料学習支援をやっている人もいて、こういうのもいいのかなと思ったのですが、私は食べ物関係かなと。料理をするのも好きですから。
当時は、子ども食堂という言葉もまだ浸透していませんでした。
山田 2012年の秋、大田区に子ども食堂ができたと聞いて行ってみました。居酒屋さんを居抜きで借りているとのことで、そんなに入れないんだけど、料理を作って子どもたちが食べている。そんな、昭和な感じがいいなあと。
「これだったら、うちでもできるかな」「いざとなったら、自分で作ればいいか」と想像が膨らみました。のれんを見たら、「子ども食堂」って書いてあるんだよね。それを見て「要町あさやけ子ども食堂」と名付けました。名前はパクったんです。うちは2号店だね(笑)。
山田さん宅は、ご自宅とはいいながらも、パンを焼く機械や厨房がありますよね?
山田 自宅でパン屋をやるとなると、業務用の台所と、自宅用の台所の2つがないと保健所で許可が下りないんです。台所は大丈夫でした。さらに飲食の営業許可もとって、家を直しました。
調理師免許もお持ちですよね。
山田 一応、格好はできました。大田区の子ども食堂を2回見学させていただき、2013年の3月から始めました。
料理ボランティアが集まってきた
子ども食堂を始めたい人は多いと思います。山田さんはどんな準備、段取りで始められたのでしょう?
山田 私の場合、自宅ですから自由に使える。費用は自費でかまわない。始めるとしゃべりはじめたら、パン屋のスタッフをやってくれていた、かみさんの友達から「大丈夫?」「できるの?」「いつやるの?」と問い合わせがあった。
その人たちが初日に調理ボランティアとして参加してくれて、私も作るつもりだったのだけど、台所から出ていけといわれて、調理をやらせてもらえなかったんだよ。作業が雑なのかなあ(笑)
子ども食堂の店主でありながら、作っていない(笑)。
山田 初日の13時頃かな、来てくれたのにずっとしゃべっているから「そんなことじゃ、17時半の開店に始まらないよ」と言ったんだよね。でも、おしゃべりしているのにちゃんと時間に間に合った。主婦力ってすごいね。
事前の打ち合わせはどんなふうに行ったのですか?
山田 立ち上げのための打ち合わせって、したことがない。食事会として始めてしまおう、小さく産んで大きく育てるという感じでね。するのは、業務連絡のような、ちょっとした立ち話くらいですね。
でも献立や予算は、打ち合わせしないと決まらないのでは。
山田 ボランティアの中から料理長を置いて、メニューは料理長が決めます。私が事前にある材料をメールしておき、来てから「今日は何があるのかしら」とみて、決定です。人が多すぎて足りなくなるときも、途中からちょっと違うメニューにするとかして、間に合わせちゃうんですよ。
家庭のごはんみたいですね。
山田 食材の多くは、寄付です。農家さんから野菜が届き、近所のスーパーマーケットは毎回くだものを提供してくれます。米は農家さんから、どーんと届くので、一度も買ったことがない。よその子ども食堂に分けているくらいです。
もちろん、始めたばかりの頃はボランティアが持ち寄ったり、調味料が足りなくなると、ボランティアが自宅まで取りに行っていくこともありました。
ボランティアさんたちは「山田さんの家を使って、私たちがやっている子ども食堂」って思っているだろうなあ。いや、それもいいんです。
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