東京ホームタウンSTORY
支援先レポート
歌って、動いて、笑って、楽しく介護予防
高齢者が仲間とともに元気になる歌声広場
代表 今井直子さん(写真左)、副代表 前田明子さん(写真右)
2014年設立。江東区を拠点に、介護予防を意識して回想法や音楽療法をさりげなく採り入れた歌声広場を月1回開催。役員、幹事をはじめ、ボランティアスタッフのほとんどが介護関係の資格を持ち、その経験を活かし、「高齢者が毎月の開催を楽しみに、自分の足で通える」サポートを行っている。2017年度東京ホームタウンプロジェクトの「プロボノ1DAYチャレンジ」では、集客拡大をめざして開催告知のチラシ作成支援を受けた。
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アコーディオンやウクレレ、ミニお琴の生演奏で、懐かしい童謡・唱歌や昭和の歌謡曲が歌える「歌声広場よりみち」。活動をはじめたきっかけは、介護施設で17年近くの勤務経験を持つ今井直子さんが、施設を利用する高齢者が口にした「懐かしい曲が歌える歌声広場があったら、もっと出かけられるのに」とのつぶやきを耳にしたことでした。
住み慣れた場所で、自立した生活を送るためには、外に出て楽しむことが何より大切。その動機となる歌声と笑いにあふれた居場所を提供したいと考えた今井さんは、同業者に声をかけ、2014年12月に初めての歌声広場を開催しました。当初は1時間の小規模な開催だったのが、今ではハーモニカ・アコーディオン奏者のミニコンサートあり、脳トレ体操のコーナーあり、若かりし頃の時代背景を振り返るコーナーありと、日頃介護現場で拾い上げた高齢者の希望をすべて盛り込んだ2時間のプログラム構成となっています。司会を務める前田明子さんの、参加者を巻き込む軽妙なトークも人気の秘密です。
「まず会場に足を運んでください。そこで体感していただかなければ、よりみちの楽しさは伝わりません」との前田さんの言葉に誘われて、今年(2018年)1月29日に開催された歌声広場にお邪魔しました。
高齢者のアクティブな気持ちを引き出す「よりみち」のこだわり
「私の前では演歌を口ずさんだことなど一度もなかった母が、美空ひばりさんの曲を楽しそうに歌っているのを見て本当に驚きました。母の新たな一面を見つけた思いです」
連れ合いに先立たれてからふさぎ込みがちだったお母さんに、なんとか外出するきっかけとなる楽しみを持ってほしい。そんな思いから親子で参加して、自らも歌声広場のファンとなった50代女性の言葉です。
「歌声広場よりみち」には、こうした親子二代の参加者も多く、50代から90代までの年齢層が集まります。なかには車椅子での参加者や、「杖が突けない雨の日以外は毎回参加したい」「よりみちで歌うのを励みにリハビリを頑張っています」とアンケートに書いてくれる人も。大半がリピーターで、最初は一人で参加しても次から知人を2~3人誘ってきてくれることで、発足当初は2カ月に1回40名限定の開催だったのが、今では毎月1回に増やし、毎回60名~80名近くが集まるようになりました。その8割が地元の江東区や江戸川区の住民ですが、埼玉県や静岡県からの参加者もいます。ここまでファンを定着させた背景には、最初から貫き通している「よりみち」ならではのこだわりがあります。
●こだわり1「歌詞本を配らない」
歌詞本の文字を目で追おうとするとうつむき加減になり、気管が圧迫されて気持ちよく声が出せません。「よりみち」では会場前方に設置したプロジェクタに歌詞を投射することで、目線が自然に上に向くように配慮しています。同時に伴奏者も目に入り、曲に集中できる効果があります。
「以前、都内の有料老人ホームで出張歌声広場を開催した時、スタッフから歌詞本を用意するよう依頼されましたが、なくても大丈夫とお断りしました。半信半疑だったスタッフも、最後には『入居者全員が笑顔で歌っていました、こんなことは初めてです』と感心していました」と、前田さんは語ります。
●こだわり2「アコーディオン・ウクレレ・ミニお琴による生演奏」
昭和歌謡に馴染んだ世代にとって、アコーディオンの音色は郷愁を誘うと同時に心を和ませるもの。「よりみち」では、プロのハーモニカ・アコーディオン奏者の中西基起さんに歌声広場の伴奏を依頼。そこにボランティアのウクレレ、ミニお琴の奏者が加わり、他にはない和洋楽器のコラボが楽しめます。
アコーディオンにミニお琴、ウクレレに演歌、一見ミスマッチのコラボに思えますが、川のせせらぎ、星のきらめきなど歌の背景にあるイメージを膨らませるのにミニお琴は欠かせない存在であり、またウクレレの情感豊かな音色は日本の楽曲に違和感なく調和しています。こうした3種の楽器のコラボが、参加者を自然に歌に引き込む原動力の一つとなっています。
●こだわり3「介護予防を意識したプログラム」
プログラムは、冒頭の「季節に合わせた童謡・唱歌」に続いて、「話題性のある特集」があり、「健康講話と脳トレ体操」。さらに、休憩時間にはこだわりのコーヒーとお茶菓子が振る舞われ、同席した人と打ち解けて話ができる「コーヒータイム」。休憩後は「よりみち」の看板アーティストである中西基起さんの「ハーモニカとアコーディオンのミニコンサート」で、プロが奏でる美しいメロディーに耳を傾け、最後に皆でもう一度歌いましょうと、参加者から事前に受け付けた「往時を振り返るリクエストコーナー」を設け、手話を交えながらの『故郷』で締め括ります。2時間を長いと感じさせないよう工夫を凝らした構成です。
参加者が歌うコーナーでは、司会の前田さんがそれぞれの曲を歌手や作詞作曲家などのエピソードを交えて紹介しますが、特に人気なのが、曲が生まれた時代の背景を振り返る最後の「リクエストコーナー」です。例えば、昭和48年にヒットした曲ならトイレットペーパー騒動の写真がプロジェクタに映し出され、「あれは皆がデマに踊らされて大変だったのよね」と女性陣の席が盛り上がり、「日本人にマイカーという言葉を定着させたスバル360セダンの昭和37年当時の販売価格はいくらだったでしょう?」という質問を投げかけると、すかさず男性から「36万5,000円!」と得意げな声が上がります。時代を象徴するできごとや製品などの写真を見せることで自然に記憶力や集中力が使われ、また周りの人と話題を共有することで脳を活性化させる回想法をさりげなく採り入れた手法です。
●こだわり4「間違えて正解! ドキドキ、ゲラゲラの脳トレ体操」
「よりみち」の名物コーナーの一つが、日体協スポーツ指導員の資格を持ち、江東区で健康体操教室を開催する前田さんが指導する脳トレ体操です。これは着席のままできるもので、左右の手、さらには手と足で違う動作をする体操です。前田さんが「では、脳トレをはじめましょう!」と声をかけた瞬間、会場に緊張感が漂います。最初はゆっくりした動作で必死に食らいついている参加者も、スピードが上がるにつれ次々に脱落。会場のあちこちから「またダメだあ!」と大きな笑い声が上がります。
「人間の習性と真逆の動作を強いるのですからできるはずがない、間違えて正解ですよと言うと、皆さん、ほっとした表情になります」と前田さん。緊張と弛緩のバランスも脳の刺激には大切な要素です。
●こだわり5「同席した人が友達になるコーヒータイム」
「よりみち」という名前は、日常生活からちょっとよりみちして、友達とともにいつもと違う時間を過ごしてほしいという想いが込められたもの。そのため、休憩タイムを参加者同士が交流する大切な時間と位置付けています。
椅子だけを伴奏者に向かって横方向に並べれば、狭い会場でも多くの人数を入れられますが、それでは隣り合わせた人としか会話ができません。ゆっくりと茶菓やおしゃべりを楽しんでもらうために、1卓を8人が囲む長テーブルを会場の長手方向、放射状に並べています。また、ボランティアの若手スタッフが、専門店で淹れ方を伝授してもらうほどこだわったコーヒーも、「美味しいねえ、いつもありがとう」と、場の雰囲気を和ませるのに一役買っています。
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