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    東京ホームタウンSTORY

    2025年の東京をつくる 東京ホームタウンSTORY

    東京ホームタウン大学講義録

    地域づくりの将来像を共有するために〜目標を言語化する方法
    「東京ホームタウン大学2023」
    基調講義レポート


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    共に地域づくりを進めていくための2つの側面

    今回のテーマが「これからの地域づくりのことを話す」ということですが、ではどうすれば人は共に行動するのかという観点で考えていきたいと思います。

    この図は、人が行動する際に2つの側面が重要であることを説明した図です。左側に戦略という矢印があって、右側に物語という矢印があります。

    人が行動するときに、左側の「戦略」のように、頭でどのように行動すればいいのかを考えて、それが実際に行動に移される側面と、右側の「物語」のように、なぜその行動が必要なのかを、心で、感情で感じて行動に移す。この2つの側面があることを説明しています。

    例えば、「地域で見守り訪問活動しましょう」となったとします。地域で30人の一人暮らしの高齢者がいる。10人のボランティアの人に集まってもらって、1人で3人の高齢者の方を担当して見守り訪問活動をしようよと。それが左側の「戦略」ですね。30人の高齢者を10人で手分けすれば、1人あたり3人を、月に1回訪問。「それなら行動しよう」となるでしょうか?

    なかなかそこで行動しようとはならないのではないかと思います。「なぜ自分がわざわざ毎月見守り活動をしなければいけないんだ。暑い日もあれば寒い日もある、雪の日だってある。面倒くさいな。家でいる方がよっぽど楽なのに、なんで見守り訪問活動するのか…」と。

    そこで、例えば、「この地域では、過去半年間の中で5人の独居高齢者の方が残念な孤独死を遂げて、しかも死後数週間は誰も気づくことがなかった。そんなこと、信じられますか? こんな悲しい地域ってありますか。すぐ隣の人が亡くなったことに誰も気づかないなんて、寂しいですよね」というふうに話をすると、物語的に説明されるわけです。すると、「確かにそうだな。身近にそんなことが起こっているなんて。じゃあ何かできることはないだろうか」と、動機が生まれてくるわけです。

    このように、人が行動をとる動機は、物語的に説明されることが多いです。物語の要素「なぜ」行動を取るのかと、戦略的な要素「どのように」行動を取るのか、この二つが揃ったときに、人は行動しやすくなるということです。

    先ほどは戦略から説明して、物語の説明をしましたが、物語だけでも人は行動をとらないと思います。例えば「地域でこれだけの孤独死があって、とても残念な状況です。何とかしましょうよ」と話したことに多くの人が共感し、確かにそれは放っておけない、何かやろうよと集まったとします。その集まった場でリーダーの人が「集まっていただきありがとうございます。とりあえずみんなで、これから孤立しそうな高齢者の方がいたら声をかけるってことでよろしくお願いします」ということになると、「この活動、大丈夫かな?」と思うのではないでしょうか。

    つまり、動機が明確になって感情が揺らぎ、よし一緒に行動しようと思っても、どういうふうに自分たちが動くのかという戦略がなければ、人はなかなか行動しないと思います。

    なのでそこでも、30人の高齢者の人がいるので10人で手分けして進めていこう。という戦略が必要になってくることになります。

    活動の中で「私の物語」を語ろう

    ではこの物語と戦略に関して、少し掘り下げてお話ししたいと思います。みなさんは、活動の中で物語を語ることをしていますでしょうか?

    実は私自身も、少し物語を話すところから今日の講演を始めてみました。冒頭の野茂投手の話です。物語を語ったことで、私のことを少し知ってもらえたのではないかと思います。私が練馬区で育ったこと、高校時代に野茂選手の活躍からインスパイアされ、影響を受けて、単身アメリカに行ったこと。そこでコミュニティと出会ったという物語を聞いてもらったことによって、この人は何を大切にしているのか、というところが見えてきたのではないでしょうか。

    みなさん自身も、「なぜ私は地域活動するのか」ということを語っているでしょうか? もしくは、他の人が物語を語るサポートをしているでしょうか。逆に言うと、物語性が欠けて戦略だけで動いていると、地域で活動をどんどん進めていこう、広げていこうと言っても、他の人の動機がそこに結びつかず、活動を進めていくことが難しくなってくるのではないでしょうか。

    私自身が関わった事例についてお話ししたいと思います。写真はぼかしてありますが、これは実際に、私がアメリカで地域の仕事をしていた時の実践です。

    この方は、南米からアメリカに移住してきた女性です。夫婦とお子さんの3人で移住してきたのですが、夫のDVがひどくなったことで命からがら逃げてきて、お子さんと2人でホームレス状態なのです。

    夫の入国ビザで滞在しているので、離婚してしまうと不法滞在者になるという、困っている状況でした。そのようなことからソーシャルワーカーとして働いていた私が相談に乗る機会がありました。

    「外国人の方を支援する必要がある」ということを訴えるにあたって、私が彼女の代弁をしながら訴えるよりも、彼女自身の声でしっかり訴えることが大事ではないかと思いました。地域活動の仲間と話し、はじめは躊躇されていましたが、彼女は、自身がそのように一歩踏み出して支援を訴えることは大事だと感じてくれました。この写真は、外国人支援の必要性を語る集会を開いていた時に、メディアの前でグループを代表して説明してくれている場面です。

    報道を観た人にとって、ソーシャルワーカーの私が話すよりも、当事者である彼女が自分の声で説明する方がよほど心に響くわけです。まさに、感情により伝わりやすくなって、支援に向けて行動をとることを、より促す効果があると思います。

    もう一つ別の事例をお話ししたいと思います。これはある民生委員さんの写真です。

    私は、民生委員の大会などで民生委員さんとお話をしたり、民生委員さんが報告をするところにコメントしたりする機会がよくあります。ある時、20年間活動をされている民生委員さんとの事前打ち合わせのときに、20年間続けてこられた理由を質問したことがありました。その方は「誘われたから断れなくて、気がついたら20年経っちゃいましたよ」というふうにお話しされていたのです。おそらくそのことは間違いではなく、そういった側面もあると思いますが、私はそこで食い下がって、「でも、断ろうと思えば断れたんじゃないですか? または他にも断っている人はいるはずなのに、なぜあなたは断らずに20年続けてきたんですか?」と聞いてみました。

    すると、「いやーなんでかしらね…」などと言いながら、最終的にこんなエピソードを話してくれたのです。

    その民生委員は小さいころ、戦後の非常に貧しい時に、食べるものがあまりない中で、お姉さんと2人で1個のおにぎりを分けて食べたことがあったらしいです。お姉さんは小さい妹だったその方に、おにぎりを半分にした、大きいほうのかたまりをくれたそうです。そして小さいほうをお姉さんが食べた、その時の優しさがいまだに忘れられないと。「よく考えたら、人に優しくすることによって私自身が救われたから、優しさを返すために、民生委員活動を今まで頑張ってきたのかもしれないですね」というふうにお話してくれました。私はそれを聞いて、「まさにそれが大事ですよ、それをぜひ語ってください」とお願いしました。

    誘われて断れないから続いたのも嘘ではないと思いますが、本人の原体験に基づく熱い物語を耳にすることによって背中を押され、一緒に活動しようと思ってくれる人もいるのではないでしょうか。それくらい、物語はパワフルなツールだと思います。

    実は私たち自身、物語は普段の生活の中でよく使っています。例えばおじいちゃんやおばあちゃんが孫に、「戦争中にこんな大変なことがあってね。でもなんとか生き延びて、子どもであるあなたの親が生まれて、そのさらに孫のあなたが生まれてきたんだよ」なんていうことを話すことがあると思います。それは物語の構図を通して、ある価値観を伝えようとしている、教訓を伝えようとしているわけですね。このように、何かを伝えようとするときに物語を活用することは、私たちにも日常的だと思います。

    >>次ページ:効果的な物語の語り方

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