東京ホームタウンSTORY
東京ホームタウン大学講義録
「東京ホームタウン大学2024」メインセッションレポート
2025年、そして、その先へ。超高齢社会・東京のこれまでとこれから
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大量採用世代の定年後と、企業スタンスの変化
池口:はじめまして。定年後研究所の池口と申します。今日はよろしくお願いいたします。私は、檜山先生とは違って、学校を出てから保険会社に入社し、ベタベタのサラリーマンをずっと続けてきました。50歳を過ぎて、今の保険会社の関連会社に出向し、そこからキャリアだとかセカンドライフだとか、そういったことに向きあうキャリアを歩んできています。キャリアの前半は、昭和の後期から平成にかけて、「24時間働けますか」とテレビからも聞こえてくるなか、本当に昼夜を問わず、身を粉にして働いてきました。そして、53歳で主に企業の会社員の方にセカンドキャリアを考えていただくような仕事についたことをきっかけに、キャリアコンサルタントという資格をあわてて取得し、同時にマネジメントだけでは60歳を過ぎてから自分の居場所ってなくなるんじゃないのかなとも思い、自分も何か専門領域を持ちたいと、老年学を勉強しました。今日は、企業も変わりつつあることについて、私が仕事柄、毎日のようにいろいろな企業の人事部にお邪魔し、セカンドキャリアあるいはシニア社員の活性化を見ている経験からお話しいたします。
よく50代になると役職が外され、モチベーションが下がって「とりあえず65歳まで会社にぶら下がっていたらいいや」みたいな感覚があると言われます。私自身も、去年還暦を迎えまして、ご多分に漏れず継続雇用を選びました。65歳まではお給料をいただけるのですが、その後の道は自分で考えないといけない当事者です。今、多くの会社で60歳の定年を迎える大量採用世代がおられます。私もバブル採用と言われた頃に社会に出たのですが、そういった人が続々と60代を超えてきています。5年前10年前は、私も、60歳の先輩方は隅っこで何をなさっているんだろうと見ておりました。たまに、「おい、飲みに行くぞ」と連れて行かれると、夜中まで愚痴を聞かされる…なんてことも多かったのですが、今ではコロナ禍もあり、自分の会社だけでなく多くの会社さんが変わってきているというふうに思います。この大量採用世代、50~60代の社員が、会社の隅っこどころか3人に1人になるような会社が増えてきています。そして、就職氷河期を経て人材不足の時代となり、急に60代の社員も頑張ってくれと言われ始めているのが今です。
ただ、同時に私が感じますのは、今までは「定年後のことなど個人で勝手に考えろ」と、そのようなことは会社がタッチする領域ではないと言われていたのですが、考えている人事部の方も自分ごとになってきていることです。会社が何かきっかけぐらいは与えてあげなくてはと、最近言われている副業や、あるいは会社以外のところに一度飛び込んでみる経験、そういったことも会社としてサポートすべきではないかと、変わってきているのを感じます。
社員の定年後を見据えた、企業の取り組み
池口:副業について、皆さんご記憶におありかと思いますが、2018年から副業解禁になりました。現在6割の会社が副業を許可しているにもかかわらず、実際に副業されている社員の方は10人に1人もいない。7%ぐらいしかいらっしゃらないそうです。
年代別に見ても、若い方は比較的自由に副業を申請されますが、私のような50~60代の社員はほとんど手を挙げないという実情もあるようです。しかし、私が企業の人事部に聞いている限りでは、今までは、副業の仕事を会社の仕事に還元しなさいという条件だったのですが、堅苦しいことを言っていると誰も手を上げないので、「自分のためになったらいいですよ」と。特にシニアの社員については、セカンドキャリアを考えるきっかけにしてもらえればいいというふうにだいぶ変わってきているようです。実際、あまりにも手を上げる社員が少ないために、会社主導でノミネートして、「君、何か副業やってみない?」と声をかけたり、また場合によっては副業先まで斡旋したり、社員の生き方の多様化を積極的に促しています。
また、私どもがある企業で行っている研修では、「社会課題解決を通じたシニア社員の人材育成プログラム」というものもあります。仕事のスキルを身につけてください、ということでなく、食品ロスの削減に取り組むとか、日本における子どもの貧困問題とか、あるいは環境を考えるとか、直接会社の利益に繋がらないようなテーマで、NPO法人の代表の方などを会社の研修室に招き、その方の取り組みだとか、あるいは熱い思いに触れていただくような研修も展開しています。
私自身も社会課題のお話を聞いて衝撃を受けました。いろいろと新聞を読んで、社会にはいろいろ困っている人がいること、そうした人たちに向き合っている人がいることを知っているつもりだったのですが、実際にその方が目の前にいらっしゃって圧倒的な迫力で話をされると、自分はこのままでいいのかなと、会社としてできることがなくても、家に帰ったら何かできることはないだろうかと、考えるようにもなりました。
こちらも、ある企業のセカンドキャリア研修ですが、50代の社員の方を対象に、「人生の頂点は定年後」というテーマで研修をしてほしいとご要望をいただきました。私自身も、会社にいるうちが頂点だと信じて疑わずに生きてきましたけれども、いやいやそうじゃないんだと。「定年後がむしろ人生の頂点だということを社員に促してほしい」とまじめに言われたのです。この研修では、メーカー企業から60歳になってNPO法人に転身された方をゲストに招き、会社とNPOがいかに違うのか、大きく違う中、対話をすることでお互いに理解が始まったというお話もしていただいて、私自身も視界が広がりました。
もう一つ事例として、定年後研究所が企業の人事部の方を対象に年に数回、東京で40社ぐらい、大阪で20社ぐらい集まっていただいて、大量採用世代の50代の社員にどう活躍していただくか、いろいろな会社の取り組みを議論していただく場を設けています。つい先月は、社会貢献活動での気づきを通じた企業人材の育成ということで、さわやか福祉財団の理事長にお越しいただいて、民間企業からさわやか福祉財団に出向や転籍をされた方の活躍ぶりをご紹介いただきました。聞いていただいた企業人事部の方は、会社以外にもシニア社員の活躍場所がいろいろあることを気づいていただいたり、あるいは実際に体験された方のお話を聞いていただきますと、会社という空間では決して得られない付加価値を得られる、貴重な人材育成の場だと言っていただいたりして、随分会社も変わりつつあるのかなと思った次第です。
退職後のキャリアを「選ぶ」
池口:ただ、私も昨年60歳を迎え、結局は継続雇用を選択しています。私の同世代は国の調査によるとグラフのように90%近くが60歳以降も同じ会社で再雇用を選んでますが、本当にそれを望んで選んでいるのかな?と疑問に思っているところです。やはり人生の転換期ですから、自分で主体的に選べばもっと頑張れるのにと。周りに流されて、定年後の進路を自分で選んでいないのが今の日本の会社員の多くの姿ではないかな、と思います。
企業人事部の方も、シニア社員はモチベーションが課題だと言っているのですが、厚生労働省が調査したところでは、60歳の社員が最も熱量が高いという結果も出ています。やはり企業側にできることがあるのではないかと、私もまだ企業にいますが感じているところです。また、50代、60代の方に「どんな仕事をしたいですか?」と聞きますと、収益追求よりも社会に貢献する仕事をしたいという方が6~7割いらっしゃるというデータも出ています。
私は論文のために、転職された多くの方にインタビューを行ったのですが、大半の方はそのまま同じ会社で60歳を迎えたのではなく、まったく異なるフィールドに移られています。新しい環境で、長年培ってきたことが意外にも役に立ち、喜んでいただける実感を得られ、そこからバリバリ勉強して60代になろうが70代になろうが頑張ってらっしゃる方を大勢見てきました。今日いただいた事前質問の中にも、「60歳を過ぎて自分に何ができるのかを悩んでいる」とか、あるいは団体の方からも、「定年退職された方に、地域にソフトランディングしていただくために何をしたらいいのかわからない」という声が多いと聞きます。
これについては、キャリアを振り返る王道ですが「やりたいこととできること、そして社会から求められていることを重ねてみましょう」ということを今日の場でもできればいいと思います。私も喋っているだけではなく、自分でボランティア活動をしようと思いまして、昨年、生まれて初めて、京都の知的障害者の支援施設に伺いました。ふるさとが京都ですので、コロナがおさまってきたことで帰省を兼ねて、京都の福祉施設で1日お買い物の付き添いをしました。先月は東京都大田区の知的障害者の就労支援施設で一緒に仕事をして、いかに施設のスタッフの方は、会社と違ってきめ細かくお1人お1人の事情に応じて指導・育成なさっているのかを知りました。
最後に、私たちは今、自分のような会社員の方々に向けて、社会福祉法人にちょっと覗きに行きませんか、という活動をしています。
私自身も福祉施設というと、自分なんかが行っても足手まといになると思い込んでいたのですがそうではなく、いろいろと役に立てることがあることを自分でも体感したので、もっと世の中にも広げていきたいと思います。
また、ある日本の半島で、社会福祉法人に民間企業から転職された人は60代以上が多いというデータもいただきました。スキル、経験、やる気があれば採用していただけるということでしたので、私も、自分はもう65歳で終わりだなどと思わず、広く社会で役に立てればと感じているところです。私も今日は勉強のつもりで来ておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。ご清聴ありがとうございました。
堀田:池口さん、ありがとうございました。ここからのお時間は、お二人のお話を振り返りながら、ディスカッションできればと思います。
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