東京ホームタウンSTORY
東京ホームタウン大学講義録
「互いに支え合える社会」への展望と課題
2016年度総括イベント「東京ホームタウン大学」基調対談レポート
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家族じゃなくても支え合える社会の方が、人間らしい社会だと思う
樋口:
これから作っていくのは、家族でなくても助け合っていく社会。地域を一つの媒介として、一種の運命共同体として、地域の中で助け合っていく社会。家族でなければ助け合わない社会と、家族じゃなくても支え合える社会とでは、後者の方が人間らしい社会だと思っている。これは、昔からの伝統と言うより、未来につながることです。
少し前に、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が国連総会で満場一致で採択され、2030年までの国連のあらゆる活動はこの17のゴールを目指して行われることになりました。その中にはジェンダー平等、女性のリーダーシップといった、さまざまな価値観が入っています。その全体のキャッチフレーズが、No one will be left behind、つまり「誰ひとり置き去りにしない社会」、親戚でもない血縁でもない、けれど非常に困難を抱えている人に気づく社会、ということです。困っている人に、関心を持つ、そして支援する。困っている人の側からも、私はこういうことで困っている、困難を可視化してほしい、と発言する。こういう社会をひとつのシステムでまとめてしまおうとするのは難しい。
これからは私の持論ですが、なんてたって集まりやすいのは小学校区だと思っている。地域包括支援センターは、中学校区に設置し終わっているが、今のところ介護保険の中の事業。やがて子どもや障がい者に当てはめるという方針は賛成です。でも、年をとってみてつくづく思うが、中学校まで歩いていくのは辛い。でも、近くの小学校だったら行ける。
お国の省庁が、厚労省、文科省、経産省、いろいろと縦割りとあって政策をするのはしかたない。この縦割りにより、市町村も縦割りであるのはおかしいと思う。生身の年寄りとして、そこから遠くへ行きようがないのです。でも、長い目で見れば、私は、国民の声は、縦割り行政を崩せると思う。
今は、小学校の校舎の中にあるデイサービスなんていくらでもあると思うが、20年前はだめだったのだから。学校を建てるのは教育予算で、デイサービスに共用すると補助金適正化法ってのがあって、教育以外のものにつかうとダメ、ペナルティも厳しかった。
東京がふるさとだという人も多い。東京は、途中から来た人も拒まないのが良さでもある。その中で、その人の生活の基本的な舞台はどこか。遠くへ行けなくなったとき、人生100年のライフステージのどこにあろうと、その人の必要とするもの、困難とするものを支えてくれるのが東京都や市区町村の役割ではあるまいかと。
大森:
基礎的自治体には区域があり、テリトリーがある。ところが、例えば世田谷区の住民だというが、全域に一体感をもっているかというとそうではない。人びとにとって一体感を感じられるのは、近隣からちょっと広がった、たぶん、小学校ぐらいの区域ではないだろうか。地区という単位が重要です。そこから、何段階かに積み重ねていくようなイメージを想定したほうが現実的だと思う。
行政は部署間の連携を強化し、企業は“隣人性”に目覚めてほしい
後藤:
厚生労働省は、これまでの「地域包括ケアシステム」という言葉のほかに、昨年から新たに「地域包括支援体制」という言葉を使い始めました。高齢者だけでなく、色んな困りごとを抱えている人たちを地域の中で包括的に支援していくことを目指しているようです。
大森先生は、こうした政策の方向性について、どのようにお考えでしょうか?
大森:
厚労省の関連で言うと、いま4つくらいのテーマが地域に持ち込まれている。高齢者、障がい者、子ども、生活困窮者。それを地域で受け取ってもらいたいと言っている。地域はどうできるか?集落や町内会・自治会を基礎的な単位として、さまざまな相談を受け取り、そのあとの対応は適宜さばけるような、ワンストップで総合的な相談ができる体制をつくろうとしている。地域を単位にしたうえで、どうすれば複雑な問題を抱えている個人、家族を支援できるか。
これまで、行政は申請主義と言われてきた。でも、申請ができない、したくない人も少なくない。地域なら、事情をわかっている人がいる。これからの行政は、もっと感度をよくしていかないといけない。滋賀県野洲市では、31の行政機関が連携する仕組みを作ることで、市民の相談機能強化に取り組んでいる(参考資料はこちら)。各行政機関が網を張っておいて、情報が来る、必要によっては自ら取りに行く。こうした体制を組むことで、多様なニーズに応えようとしている。
樋口:
愛知県で、認知症の方が誤って線路に立ち入って亡くなる鉄道事故をめぐる裁判があった。それについて勉強会を開いた。裁判の結果、事故を起こした認知症の男性のご家族の賠償金支払いはなくなったのですが、JRから、ご愁傷さまの一言があったのか。人ひとり亡くなったんですから。この事故から私が思うのは、企業の持つ地域で共存する“隣人性”に目覚めてほしい、ということです。
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