2025年の東京をつくる 東京ホームタウンSTORY

東京ホームタウン大学講義録

超高齢社会東京、人のつながりを生み出す基本戦略
「東京ホームタウン大学2021」
基調講演レポート

基調講演
近藤 尚己 氏
(京都大学 大学院医学研究科 社会疫学分野 主任教授)
2021年4月22日

開催日:2021年2月21日(日)<br>会場:オンライン<br>動画:YouTubeにリンク<br>●トークセッションレポートはこちら<br>●テーマ別分科会レポートはこちら

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コロナ禍のなか迎えた、東京ホームタウンプロジェクト6年目を総括するイベント「東京ホームタウン大学2021」。基調講演では、世界的にも注目されている超高齢都市 東京で、孤立・孤独をなくし、誰もがいきいきと暮らしていくまちにしていくために必要な戦略について、これまでにわかってきている様々なデータを基に近藤 尚己 氏よりお話をいただきました。

みなさん、「東京ホームタウン大学」へのご入学おめでとうございます。
東京を我がまち“ホームタウン”にするために学ぶ大学ということで、私も東京生まれ東京育ちのひとりとして、とても嬉しく思います。
私は、今、京都大学で「社会疫学」という分野の研究をしています。占いの「易学」ではなく疫病の「疫」です。疫学分野には、今まさに新型コロナウイルスについて研究している先生などもいらっしゃいますように、病気の分布や原因を統計的に明らかにしていく研究をしています。
私の専門の「社会疫学」は、どんな社会にすると病気になる人が増えるのか、減るのか、あるいは、どんな社会だと長生きできるのだろうか、といったことを研究するものです。

「孤立」―人とのつながりの欠如―は、1日15本のタバコに匹敵

長らく疫学では、「個人の生活習慣」によって健康が決まるということを明らかにしてきました。有名なところでいうとタバコと肺がんです。「社会疫学」では、さらにその周りの社会的な要因、人とのつながり、経済状況、所得や職業、そして住んでいる環境などの影響を調べ、どのようなまちを創ると、良い生活習慣を維持できて健康になれるのかといった研究をしています。アンケートをとって追跡したり、死亡診断書のデータをお借りしてアンケート内容との関係を見たりします。

私が社会疫学の研究を始めたのは2002年からですが、それまで山梨医科大学で2年、医者をしていました。山梨には18年ほど住み、たくさんのことを教わりました。その中で一番関心を持ったのが“人とのつながり”です。
最近、人とのつながりは、タバコに匹敵するくらい健康に影響するということが科学的に明らかになってきました。つながりがないこと、つまり「孤立」は、タバコを1日に15本吸うのと同じくらい、健康に悪影響を与えるということです。

「無尽」という仕組みから見えた、心地よいつながりと健康の関係

私の博士論文、山梨で始めた追跡研究のお話をします。
2002年に研究を始めた時、「山梨は健康寿命日本一らしい」という話題が出ました。特に女性は1位、男性が2位から3位あたりでトップを走っています。そこで、当時の県知事から、この健康寿命日本一の秘訣を探るため、研究をしてほしいという依頼が大学に来まして、色んな分野の人たちが集まって議論をしました。
その中で、山梨には「元気に働いている高齢者が多い」「ボランティア活動が多い」「地域の行事に積極的に参加したいという人が多い」、そして「『無尽』をたくさんやっている」などが出てきました。これはすべて、つながりや社会での役割に関係するキーワードです。
ほかにも、人間関係が濃密であるといった調査もあり、山梨を特徴付ける県民性として紹介されていました。

山梨の甲府駅に降り立って、まちを歩くと、『無尽会プラン』『無尽会受け付けます』などと居酒屋などに書いてあるのが目に入ります。山梨では、当時65歳以上の6割が無尽に加入しているという調査結果が出ました。山梨県と沖縄県を除いた他県ではほとんどゼロです。

この「無尽(講)」とは何か。経済学だと「回転型貯蓄金融講」とも言う、助け合いの活動です。
毎月、信頼しあえる人たちが集まって、予め決められた額、例えば1万円を出し合います。10人で集まれば10万円です。その10万円を誰か一人がその月にいただく。翌月は別の人がいただく。そのお金で農機具を修理したり、牛を買ったり。まとまったお金を工面するための庶民の金融活動です。昔はこうやって助け合って暮らしていました。
今では、銀行も増えたため、全国的には廃れましたが、なぜか山梨県と沖縄県ではまだ活発に続いています。ただし、金融のためというよりは、気の置けない仲間と定期的に集まって、話をしたりお酒を飲んだりして交流することが目的となっているようでした。
山梨県の社会的なネットワーク、つながりの強さを象徴する、一つの具体例が分かりました。

そこで私たちは、この“人とのつながり”が山梨県の長寿の原因であるという仮説を立て、山梨健康寿命追跡研究というものを始めました。
600人の方にアンケートをし、長年追跡するような研究をした訳です。私が山梨から東京大学に移った後、ようやくその結果の一部をまとめることができました。面白い結果でした。
「無尽(講)」の活動に「楽しく」「たくさん」参加している人ほど健康寿命が長い。つまり要介護認定を受けにくく、介護保険を使わずに過ごす方が多かったのです。

一方で、驚いたのは、未だに1回10万円といった大金の無尽もわずかながらあるのですが、そのように高い掛け金でやっていると健康寿命は短くなっているという結果です。おそらくですが、お金の責任やプレッシャーが強すぎて、問題が起きたりすることで健康をすり減らした可能性もあるのではと感じました。
私たち人間は社会的な動物ですが、“つながり”もやり方によっては悪い面もあるということが見えてきました。
ここから言えることは、山梨に限らず、東京でも、いかに心地よい、現代にあった新しい“つながり方”をつくっていけるか、ということです。

所得格差と、命の格差

新しいつながりを考えるときに外せないのは、健康格差の問題だと思います。
今、高齢者の「閉じこもり」が大きな問題となっています。外出は週に一回未満という人が非常に多い。閉じこもり生活をしていると、要介護になりやすく、寿命も短くなる可能性が高いということが疫学研究でも示されています。
今、コロナ禍で『国民総閉じこもり』のような状況ではありますが、これ以前から高齢の方の閉じこもりは問題になっていました。

では、誰が閉じこもるのか。調査すると、所得が低い人の方が「閉じこもり」の割合が高いことが分かりました。出掛けるゆとりがない、出掛ける先がない、友人が少ない、といった要因もあるのかもしれません。

そして大事なのは、これが命の格差にもつながりうるということです。
介護保険料を決める所得段階で見ると、所得が低い段階にある人の方が早く死亡したり、要介護になって介護保険が必要になったりする確率が高いことがわかります。

こういうデータを見て、私がひとりの医師として感じるのはこの言葉です。
「せっかく治療した患者をなぜ病気にした環境に戻すのか?」
長年、社会疫学分野をけん引してきた、元世界医師会会長のマイケル・マーモット先生の言葉です。
病気入院して、元気になって退院して家に帰ると、また寂しい生活が始まってしまうという人がいます。薬を飲む気力すら無くなって、お酒を飲んでしまい、また病気になって病院で再会するなんていうことが、私が研修医をしている時にも時折ありました。
そうならないような環境、まちを作っていきたい。そんな想いもあって私は今こういう研究をしている訳です。

基本戦略①「一人ひとりをつなげる」ことでまちをみんなのホームタウンにする

ここからが今日の本題です。健康格差のない、誰ひとり置いてきぼりをつくらないまちづくり、これをどうやって進めていったらいいのか? 私はやはり、“つながり”というのが非常に大事なキーワードになると思います。
そのための基本戦略として、2つ、提示します。

1つ目は、「一人ひとりをつなげる」。
孤立しがちな方につながりを提供すること、そしてそこに寄り添うように伴走することが大事だと思います。例えば、今全国に広がっている「通いの場」事業です。東京ホームタウン大学で学んでいらっしゃる方々には、活動に関わっている方も多いと思いますが、まち中の公民館などで、ひとり暮らしの方など高齢者が集まって、健康体操や卓球大会、お茶会など、みなでやりたい事をする場です。「コミュニティーサロン」と呼んだりもします。
私たちの研究では、このサロンに参加する場合を、参加しない場合と比べたときに、要介護認定を受ける確率が半分ほどに減るという研究結果が得られました。
この他に、ご飯を誰かと一緒に食べる「共食」が大事ということもわかってきました。特に高齢のひとり暮らし男性で、いつも御飯をひとりで食べている人は、そうでない人に比べて、3年間以内に「うつ病」になる確率が約3倍高いという研究もあります。野菜の摂取量にも違いがあるということもわかっています。
食事をするというのは、栄養を取ることだけじゃないですよね。

「地域で役割を持っている」ということも重要です。地域で役割のある方は長生きである可能性がデータで示されています。ボランティアのような活動だけでなく、ご近所や通学路で小学生にあいさつしてくれる方、いますね。そういった役割を持って生活をしている人は、その人自身の命も良い方に向くという可能性が示されています。

こんな風に、一人ひとりがつながる社会、これが、まちがすべての人にとってのホームタウンとなるための、まちづくりのひとつの目的になると思います。

基本戦略②「組織同士をつなげる」ことでまちの資源を増やす

2つ目は、「組織同士をつなげる」ことです。
ひとりでできること、ひとつの組織でできることは限られています。組織同士がつながることで組織のパフォーマンスが上がります。つながることが資源になるという考え方です。これを「コミュニティーの組織化」と言います。まち全体がワンチームになれば、より効果を発揮できます。

世界保健機関でも、特に健康格差を是正するために、組織の連携が大事だと言っています。
社会的に不利な人々、所得が低かったり、仕事がなかなか見つからなかったり、そういう人に「健康づくりをしましょう」と言ってもなかなか難しい。まずは、健康に過ごせる環境を作ることが大事です。
とはいえ、私たち、医者の立場でも、そういう環境をつくることはできません。だったらそれができる組織とつながりましょうということです。
そのためにも、まずはどこにどれだけ困っている人がいるのかを見える化すること、そして、計画を立てたら、誰にどれぐらい影響がありそうかアセスメントしていく事が大切です。

この、世界保健機関が推奨していることは、日本でやっている「地域包括ケアシステム」の活動そのものだと思っています。
ご高齢の方が、住み慣れたまちで最後まで安寧に生活するために、組織同士が連携して必要なケアを届ける。そのために、地域の人々の自主的な活動だけではなく、介護保険の事業者、一般企業、商店街、そういった組織をつなげ、データで把握しながら戦略的にやっていきましょうという取り組みです。

この地域包括ケアシステムが、どんな風に機能するのか。私たちが今全国の自治体と一緒にやっているJAGES調査では、高齢者約20万人を追跡調査しています。この調査結果を各自治体が介護保険の保険事業計画を立てるために活用したりしています。そして、力のある自治体では、既にこの調査で得た「地域診断データ」を使って、住民のつながりづくりを成功させています。

データによる“見える化”から新たなつながりが生まれる

長崎県の松浦市では、買い物ができない独居の方の数を地区別に表わしたデータを、住民の方との地区懇談会で見てもらいました。そうすると、ある地域の方から、「薄々気づいてはいたが、データを見て私たちの地域は危ないと改めて認識した。何とかしなければ」というような声があがり、「通いの場」のサロン活動が立ち上がりました。
このサロンでは、みんなで食事をつくって共食することになりました。サロンの開催日に合わせて、過疎のために来なくなってしまっていた移動販売の商店が来てくれるようになり、買い物難民の問題も解決しました。栄養も健康にも良いつながりが生まれた。データで“見える化”したことで新たな活動が生まれたという事例です。

松浦市の活動は住民の元気へと実際につながった素晴らしい事例ですが、どの自治体でも同じようにできるとは限りません。では、自治体が、データを活用して組織同士つながっていくような取り組みをすると、本当に住民の健康もよくなるのでしょうか。他の自治体でもそのようなことが起きうるでしょうか。私たちは、これを科学的に明らかにするために、32の自治体のうち半分に、データを使ってつながりづくりをするための積極的なアドバイスをするという、社会実験のようなことを実施しました。
具体的には、地域包括支援センターが主催する組織連携のための会議「地域包括ケア推進会議」を盛り上げるための支援などを行ないながら、3年間追跡してみました。
すると、保健師さんに変化がありました。医療福祉以外の行政以外の組織とのつながりが、積極的に支援した自治体では、そうでない自治体より増えました。さらに、男性高齢者の地域活動参加が増え、男性での死亡率が減りました。また、所得に依らず同じように効果が得られそうだということもわかってきました。
データに基づき、組織同士でつながる支援が、社会的に不利な方にも効果的である可能性が示されたということです。
こういった調査を通じて、地域包括ケアシステムの効果が明らかになってきています。

つながりが、薬になる「社会的処方」

最後に、組織同士のつながりで私が注目している活動を紹介します。
「社会的処方」という言葉です。来年度(令和3年度)から厚生労働者もモデル事業を進める予定です。
「せっかく病気を治した患者さんを元の環境に戻さない」ため、医療と地域とが今以上に塩梅よくつながり合うおう、という概念です。
患者さんの生活困窮の問題に対して、医者としてできることは少ないです。しかし、地域と病院などがもっとつながれば、地域活動を紹介して、病気や病気以外の生活も良くすることができるかもしれない。 “つながり”や“社会”を処方することが、社会的に不利な方にも届くような支援になるのではと思います。“つながり”が薬になるのです。

この“処方”は、医者だけではできません。医療機関と地域がつながることで、地域のみなさんが処方してくれると考えています。

最後に、大切なことをおさらいします。まず、一人ひとりをつなげるために、組織同士がつながることです。そして、みんなで「困っている人」を見つけて、優先的につなげる、これが大事です。そして、常に「つながりを諦めない」ということ。今はコロナ禍ですがあきらめたら、生まれるものはありません。オンラインでもつながれる。あきらめずにつながりましょう。

そして、東京はでかい。とにかく人口が多いです。皆さんのような「つなげ役」や「伴走者」をもっともっと増やしたいというのが私の気持ちです。そのためにみなさんの知恵を借りたいと思っています。

データで“見える化”することで、課題に気づく。ゴールが見えてくる。資源を有効に活用できる。やりっぱなしにはしない。これらを目指しましょう。“見える化”は、地域住民の方々だけでは難しいと思います。自治体や民間の事業者と連携して一緒にやっていくことができるといいと思います。

 

 

本レポートの内容は、以下より動画でもご覧いただけます。

(01:40より基調講演/35:40よりトークセッション)


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