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    地域づくりの台本

    地域リビングプラスワン(板橋区)

    ページ:3 / 7

    地域リビング代表者へのインタビュー

    「地域リビング」の居心地の良さ、活気ある雰囲気を生み出すその背景に流れている考え方・価値観はなんでしょうか。 「地域リビング」 の発案者であり、NPO法人 ドリームタウン代表理事の 井上温子さん にお話を伺いました。

     

    井上 温子(いのうえ あつこ)さん

    ・NPO法人 ドリームタウン代表理事(地域リビングを運営するNPO法人)
    ・板橋区議会議員(無所属)

     

    異質な人と人が出会えば変化が起こる

    プロボノ: 早速ですが、井上さんが、居場所づくりをされている理由はなんでしょうか?

    井上さん: 他者と出会うことで人が変わっていくことに関心があるんです。共に過ごし、笑ったり、ぶつかったりしながら、お互いに気付きがあったり、化学変化が起きたかのように新たなことが生まれたりすることもあって、その可能性にワクワクします。

    プロボノ: 井上さんは若くから、居場所づくりの活動を続けておられますが、きっかけのようなものはあったのでしょうか。

    井上さん: 実は、もともとは高島平や地域コミュニティについて全く知らなかったし、興味もなかったんです。団地に近接する大学のゼミがきっかけで、高島平地域と大学の連携による、地域活性化プロジェクトに参加したことが今につながっています。
     高島平や団地に関わり始めて、地域には多くの出会いの機会があふれていることに初めて気が付きました。あえて海外に行かなくても、この街には外国出身の方もいますし。

    プロボノ: 井上さんのご出身である大東文化大学の活動ですね。

    井上さん: 海外留学の経験を活かして、日本に来ていた内モンゴルの留学生に英語を教えたことがありました。その留学生は英語が全く話せないにも関わらず、自分は将来アメリカの大学院へ行くという自分の夢をはっきりと語っていました。
     当時の私はやりたいこともわからず、ただ何となく日々を過ごしていて、留学生との意欲の差を感じ大きな衝撃を受けました。それが、いろいろなことでくよくよしていた自分が変わるきっかけにもなったのです。前向きな自分を発見できたような気がして、ひとつの原体験になっています。

    井上さん: 卒業後、このプロジェクトを担当する大学職員となり、高島平団地学生入居プロジェクトやコミュニティカフェの運営を担当しました。コミュニティカフェは、互いの得意なことを教え合う学び合い教室が柱でしたが、学生が主体となって何かを企画し、教える側になったときの大きな変化に驚きました。大学の授業では基本的に先生に教えてもらうという受け身となりますが、ここでは、逆の立場。分からないことを質問されたり、「ありがとう」というお礼の言葉受け取ったりすることによって主体性が高まり、急速に成長していく姿がそこにはありました。
    普段は出会わないはずの学生と団地の住民。場があることによって、つながりが生まれ、「家に遊びにいらっしゃいよ」という関係まで生まれていました。今の世の中、お金を払えばいろいろなサービスを受けることができますが、逆に、お金のやりとりで完結しないからこそ、こういった豊かな関係性が育まれるののだということを実感できたんです。「新たなコミュニティが生まれる」。その瞬間をみるのが私自身、とても嬉しかったんです。コミュニティづくりにハマったきっかけですね。

     

    課題解決を一人で背負わない

    プロボノ: 現在はうまく活動がまわっている地域リビングですが、事前にどの程度下調べをされたのですか?

    井上さん: 事例を何件か下調べしたことはありますが…。それよりも、学生時代に知り合いのコミュニティカフェでアルバイトをした経験がとても活きていると思います。オーナーさんは理想をお持ちで、利用者のことを大切に考えられる方でした。食材や内装にも凄くこだわられていました。
     ただ、運営が回り切らず、最終的にはお店もたたまざるを得なくなってしまいました。そういうこともあって、地域リビングを始める時に、「社会課題の解決を事業にする際は、課題を一人で背負わない」ということは決めていました。

    [インタビュー中にも地域リビングには人の出入りが続いている。子どもの迎えに来るお父さん、家にある不用品(スチームアイロンなど)を寄付するためだけに立ち寄った団地の住人と思しきおばあちゃん、私たちの背後では子どもたちがおもちゃで遊んでおり、にぎやかな雰囲気。]

     

    飲食店ではなく地域で共有するリビングで“日常をシェア”

    プロボノ: 地域リビングについて詳しく教えてください。

    井上さん: 地域リビングは、飲食店やカフェでなく地域で共有するリビング、「日常をシェア」する場所と考えています。ここには誰でも立ち寄ることができます(登録制)。
     お昼には「おうちごはん」としてボランティアスタッフによる手づくりの食事を提供しています。火・木・金の夕方は、「おかえりごはん」として子どもたちを中心にした夕食を提供しています。
     運営は、ボランティアさんが50人くらいいて、1回あたり3人ほどの方が入れ替わり立ち替わりでお食事を作ったり、配膳や会計などをしています。

    プロボノ: 先日の5周年記念のイベントでは多世代の様々な方が関わられている印象を受けました。

    井上さん: 半径800mの地域づくり(駅から地域リビングまでの距離)をしています。子ども食堂についても、決して貧困の問題だけではなく、核家族化が進んでいるので、地域で一緒に食べたいなと思うすべてのご家庭を対象にしています。
     地域リビングのシニアのボランティアさんに子どものお迎えを頼んで、後から保護者の方が地域リビングで合流するというようなこともあります。これも、自然な会話の中で生まれた活動です。日常を共にすることによって、「そんな悩みがあるならサポートするわよ!」という流れになることがあるんです。このように、場を通じて子育てや家事を地域単位でシェアすることで、悩みや困りごともサポートし合える関係にしていけたらと思います。認知症や障がいなどの支援が必要な方もいますが、地域リビングのような場所ではサービスを受ける側ではなく何かしらの役割がみんなにあるので、より生きがいにつながるのではと思います。

    井上さん: 先程、シニアのボランティアさんに子どものお迎えをしてもらっていた話をしましたが、保育園のママ友同士など、同じ状況の人同士だと互いに余裕がなく解決が難しいことがあります。多様だからそれぞれ課題が違うしできることも違って、だからこそ互いに補いあえることがあるように思います。ただ、「何か貢献しないといけない」というのはプレッシャーになるので、恩を受け取るのも、渡すのも、どちらかだけでも良いし、どちらもなくてもいい。異質な人が集まる空間にいる中で、たまたま会話の中から新たな取り組みが生まれるということ。これは、小さなイノベーションが起きた瞬間だと思っています。

    ▲地域リビングのコンセプト 『日常のシェア』

     

    プロボノ: 地域リビングでのおうちごはんやおかえりごはんの活動は、福祉を念頭になさっているのですか。

    井上さん: 福祉のことを考えていたわけではないんです。みんなにとっての居場所を作りたいと思って始めて、やり続けていると、福祉の問題も出てきたということだと思います。活動をやってみて気が付いたことはあります。
     例えば、「障がいがあっても大丈夫」と書いてあるのを見て、耳が不自由な小学生が「おかえりごはん」にきてくれました。この子は、他区の聾学校に通っている。だから近所の同世代の子とは遊んだことがない。友達になるチャンスがないんです。そんな課題があるとは、その子が来るまで知りませんでした。その子は手話の先生になってくれて、おかえりごはんで手話教室をやってくれました。最近では、音のない世界でカルタやゲームをする企画も始めています。

    井上さん: ほかに福祉に関することだと、福祉工場から寄付して頂いているパンをホームレス状態の方(「森の住人さん」と呼んでます)にお渡ししたり、板橋区との連携で、板橋区の補助事業である通所型サービスB (住民主体による通所型の介護予防事業)の活動もしたりしています。
     サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)がどんどん増えていますが、それだけ高齢者の方は不安をお持ちなんだと感じます。これはどんなサービスかというと、安否確認や生活支援なんですよね。それって制度にはなっていないものの、地域リビングで昔からなんとなくやってきたこと。いつも来ている人が来ないと、「大丈夫?ごはん届けにいこうか?」と電話するのが日常です。なので、居場所と生活支援をする人をセットでまちに増やしていき、まち全体をサービス付き多世代向け住宅にできたらいいなと思っています。

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