東京ホームタウンSTORY
支援先レポート
「お互いさま」でつながるまちづくり
市民主導で2年間に36カ所のサロンが誕生
生活支援コーディネーター 岡村美花さん
武蔵村山市「お互いさまサロン」
高齢者の心身機能の衰えに伴う閉じこもりや孤立を防ぐため、また、多世代と交流し介護予防を図ることで、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けることができるよう、市内各所で定期的に開催される「サロン」。当初は、市と地域包括支援センター主導でスタートしたが、次第に市民が主体となって様々な講座やレクリエーションを企画・運営するようになり、現在36カ所までひろがっている。歩いて通えるところに「お互いさまサロン70カ所」を目指している。サロン立ち上げに際しては、2016年度に東京ホームタウンプロジェクトアドバイザーによる伴走支援を受けた。
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東京都の多摩地域北部に位置する武蔵村山市は、人口約72,000人。高度成長期に転入した住民の高齢化もあって、市内の高齢化率(65歳以上の人口比率)は26%と、東京都の平均より3%近く高くなっています。そんな武蔵村山市の介護予防活動について、同市の南部地域包括支援センターで生活支援コーディネーターをつとめる岡村美花さんにうかがいました。
足元からはじめた市民主体のサロンづくり
地域包括支援センター(以下、センター)で看護師をしていた岡村さんは、2015(平成27)年に生活支援コーディネーターに任命されました。介護が必要になる少し手前のところにいる高齢者のために、何か支援サービスをつくろうという話でしたが、最初は手探りの状態でした。
岡村さんたちは、まず足元から始めました。担当地域に「大南」という地区があります。昭和40年代にベッドタウンとして発展したところで、移り住んできた人たちはいま、大半が定年を迎えています。地域には通える場所もなく、多くの住民は地元との地縁が薄いため、近所づきあいも少ないのが現状でした。
そこで、地域にある自治会館を会場にして、軽い体操や脳トレを行うサロンを始めました。運営は岡村さんたちセンターの職員が行い、市内の老人保健施設の理学療法士に体操を教えてもらったり、薬剤師に薬の話をしてもらったりしました。30人規模の会場でしたが、しばらくすると満員になるようになりました。この「おおみなみサロン」がモデルとなって、市内各地にお年寄りの居場所づくりがはじまりました。
ただ、サロンの運営をセンターの職員がいつまでも担っていると、住民主体の活動には発展していきません。そこで、東京ホームタウンプロジェクトのアドバイザーに相談して、住民の中からサロンの担い手を養成するための、仕組みづくりに取り組みました。
そこから生まれたのが、「お互いさまリーダー」養成講座です。この講座は、介護予防活動に興味や意欲を持つ市民のためのものです。講座は、2日間2時間ずつの座学と、3回の実習で構成されています。座学では、センターの保健師や看護師が、市が置かれている高齢化の現状、サロン運営のための注意事項、介護予防のための知識、命に関わる事態への対処法などを講義します。そのあと受講者は、希望する3カ所のサロンに実習生として参加し、修了者には修了証と名刺が授与されます。
講座は2017(平成29)年2月から年2回のペースで開催され、現在までに112名の「お互いさまリーダー」が誕生しています。この112人が、住民主体のサロンを誕生させる、大きな原動力となりました。
サロンをつくりやすくする制度づくり
岡村さんたちは、増えてきたサロンに「お互いさまサロン」という統一名称をつけました。たとえば最初にできた「おおみなみサロン」は、「お互いさまサロン・おおみなみ」となりました。名称を統一することで、市民の理解が得やすくなるとともに、一定の質が確保できると考えたからです。
「お互いさまサロン」と登録するためには、いくつかの要件を満たさなければなりません。登録要件は、毎月1回以上、1回90分以上で開催すること。介護予防に役立つ活動を複数行うこと、お互いさまリーダーが2名以上参加、市民であれば誰でも受け入れること。センターと連携すること、などです。
「お互いさまサロン」として登録すれば、さまざまなメリットも得られるようにしました。たとえば、市やセンターが市報やチラシなどで広報してくれるため、参加者募集が容易になります。また、センターの職員が運営について相談に乗ったり、講師を紹介してくれたりもします。
さらに、市に依頼して、運営費についても支援制度をつくりました。スタートしてから2年間、年間最大5万円の補助金(補助金の延長を予定)が得られるほか、公共施設の利用料が半額になるというものです。市民活動保障制度を活用して、参加者全員に保険が適用されるようにもなりました。
実はこれらの補助金制度は、「お互いさまリーダー」の声から生まれたものでした。「お互いさまリーダー」は認定後、隔月で交流会を開催し、サロンの企画・運営に関する情報交換、脳トレ問題集の作成などを、継続的に行っていたのです。その中から、「せめて立ち上げの時だけでも補助金がほしい」とか、「公共施設の利用料を減額してほしい」という声が多くでてきたのでした。
「2025年に70カ所」が目標
「お互いさまサロン」という名称が確定すると、岡村さんたちは、「2025年までに、市内70カ所の歩いて通えるサロンづくりをめざす」という目標を掲げました。
「2025年まで」という期限は、団塊の世代が75歳になるこの年に、後期高齢者が爆発的に増えることから設定しました。「市内70カ所」という数は、介護予防のためには高齢者人口250人に1カ所の通える場所が必要であるという国や都の方針をもとに割り出しました。「歩いて通える」としたのは、市内に鉄道の駅がひとつもなく、バスなどの交通手段も決して便利とはいえない武蔵村山市の高齢者にとって、歩いて通えるところに自分たちの居場所があることが極めて重要だからでした。
目標を掲げた当初は、具体的な数字を出すことに賛否の声もありましたが、岡村さんたちは取り下げませんでした。具体的な数字がなければ、市民に何を目指しているのか伝わりにくいと考えたからです。
結果として、この数値目標は、市民のやる気に火をつけました。2018(平成30)年度末現在、「お互いさまサロン」の数は36カ所。2019年4月以降2~3カ所の新設が予定されているので、スタートから2年余りで、目標の約半数に届いたことになります。
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