地域づくりの台本
また明日(小金井市)
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「また明日」の社会的な意義
前章で「また明日」が森田夫妻の想いを基に運営されていることをご紹介しましたが、今回のインタビューを通して「また明日」が、関わる人々に様々な影響を与える、社会的な意義のある活動であるということも分かりました。
ここでは、「また明日」に関わる人それぞれにフォーカスを当てて、どのような影響を受けているのかご説明します。
「また明日」に関わる人々とその位置づけ
まず、「また明日」の関係者を「利用者」、「利用者家族・近隣住民」、「行政・社会」の大きく3つに大分しました。3つのカテゴリーは、「また明日」をハブとしてお互いに関わりを持っています。
3つのカテゴリーが交わるところに「また明日」が存在し、関係者の「まちのコーディネーター」として機能しています。
1. 利用者
〔利用者全てに共通〕
■サードプレイス(多様な役割、立場)の獲得
この「また明日」という場所は、家でもない、社会生活の場でもない、いわば第三の場所(サードプレイス)としての位置付けであり、ここでは、家や社会生活の場とは違った多様な立場や役割を担うことができます。
例えば、普段は介護をされる立場のお年寄りが、ここでは子ども達のお世話をする祖父母のような立場になれるのです。
〔子ども〕
■自己肯定感の醸成(愛情実感)
「また明日」で保育を利用している子どもは、通常の保育所環境とは異なり、保育者である大人以外にもデイホーム利用者や寄り合い所に訪れる人々等と日常を共にします。つまり目をかけてくれる存在があり、彼らのコミュニケーションを受けとる事が可能です。また一方で目をかけてもらうだけではなく、子ども達が自ら手伝ったり支えたりとコミュニケーションを取ることもできます。こうしたやり取りの中、家族以外にも愛情のキャッチボールをする事ができると実感する事で「自分は愛されている存在なのだ」という自己肯定感を育む事ができるのです。
■多様な価値観との触れ合い
子どもの多くは、家庭や幼少期から過ごす保育所、幼稚園等からの影響を受けて育ちますが、「また明日」においては更に、保育者である大人以外もデイホームを利用しているお年寄りや寄り合い所に訪れる人々とも接するため、より多様な価値観に触れることができます。
〔高齢者〕
■存在意義の認識
「また明日」にはここで過ごすことにより、存在意義を感じることができる経験にあふれています。それは通常のデイホームと呼ばれる施設とは異なる、利用者以外の多様な人々の共存が大きく影響しています。彼らの存在により、いつも介護してもらって与えられる自分が、自然と自分から何かを与えたい、与える側の存在になりたいと思うきっかけや行動が生まれ、それがお年寄りにとっての存在意義につながっています。
■生きがい獲得
一般的なデイホームでは1日のスケジュールが決まっており、介護福祉士の介助のもと、時間になるとすべき行動を促されるような流れになっていますが、「また明日」の特筆すべき点は、自分の意思で行動する場づくりをしているところです。
全ては一律に促されることがなく自然な流れが尊重され、日々の会話ややりとりに基づきひとりひとりのやりたいことを引き出しています。その一連の流れの中には「促されている・やらされている」様子は全く感じられません。こうしたスタッフの日々の配慮により高齢者も自発的な行動をするようになり、ひいては自分の生きがいを感じられるのです。
2. 利用者家族・近隣住民
■よき相談相手の獲得
介護や子育てをしている中で「誰かに相談したい」「話を聞いてほしい」と思うことが出てきても、なかなか相談できずに悩んでいる人もいます。家族の話だからこそ、家族の中では言いづらい。相談できる人はいるけれど遠方に住んでいるので相談しづらい。些細なことなので、わざわざ時間を取ってもらってまで相談することではないかもしれない。そんな思いを抱えている人々に対し、「また明日」はよき相談相手になってくれます。
「また明日」には、施設というよりまるで実家や親戚の家のような雰囲気が漂っています。いつでも誰でも歓迎されますし、皆リラックスし、取り繕うことなくありのままの自分でいられるように感じます。また、仕事然として「どうぞご相談ください」と言われるのではなく、スタッフや他の利用者の方々とお茶を飲みながら世間話とともに普段悩んでいたことを話すことができます。
「また明日」の利用者家族の声として、「ここに来れば相談に乗ってくれる」「なんとかなる」という声があります。「また明日」は安心できる場、信頼できる場として機能しています。
3. 行政・社会
■住民の自立/地域力向上/まちの魅力向上
これまで自分の住む国・街・地域で何か困ったことがあっても、行政に対応を任せてどこか他人事にしてきた方は多いのではないでしょうか。但し、これからは様々な社会問題(高齢化等)により、今までのやり方では確実に対応しきれません。私たちには今、一人ひとりが目の前の課題に「自分事」として関わることが求められています。また、そうすることで各地域の住民が主体となって多様なコミュニティが生まれ、顔の見える安全な地域となり、ひいては地域全体の魅力向上に繋がるのです。
■空き家対策
「また明日」は1階5世帯をリフォームし、1つの空間にして運営しています。実際に訪れた際に、利用者がまるで親戚の家に遊びに来ているかのようにリラックスした様子だったのは、もともとが住居であったということも大きいのではないかと感じました。現在日本では高齢化に伴い空き家問題も深刻ですが、こういった多世代コミュニティ施設として利用することで、解決の一助になるのではないかと思います。実際「また明日」にはリノベーションを手掛ける企業からの問い合わせもあったそうです。
4. 相互が関わり合うところ(図の☆部)
「また明日」は前述の3者(利用者、利用者家族・近隣住民、行政・社会)のハブ・良きまちのコーディネーターとして機能し、次のような効果が生まれています。
■課題解決の手助けとなる
「また明日」は、利用者や地域住民だけでなく、行政や地域の企業、団体などとも積極的に関わっており、彼らの出入りもあります。何か困ったこと・やりたいことがあった際に「また明日」に来れば何かが解決するかも、とそれぞれが訪れることにより、双方をよく知る「また明日」を介して良いマッチングをすることができます。
■孤立防止
育児や介護というのは、往々にして悩みや問題を抱え込み孤独になりがちです。「また明日」は地域と密接に関わっているため「何かあったらここにひとまず話してみよう」と考える方が多くいます。孤立しそうな人たちにとって、いつでも相談できるという「拠り所がある」ということで心の支えになっています。
■防犯力強化
「また明日」を通じて地域住民が顔見知りになることは、まちの安全性を高めます。例えば「また明日」主催のワークショップで地域の商店主と子どもが顔見知りになったり、住民の近況をお互いに気にしあう関係が生まれ、地域ぐるみの見守りや防犯力強化につながっています。